「韓」という国号について(1)2015/05/09

 我が国の隣国である「大韓民国」の国号は「韓」であり、「朝鮮民主主義人民共和国」の国号は「朝鮮」です。

 「朝鮮」という国号は、紀元前の中国の歴史書『史記』に記された「箕子朝鮮」「衛氏朝鮮」に由来するものです。 この時の「朝鮮」は満州遼東地方から朝鮮半島北西部にかけての地域と推定されています。 1392年に李成桂が高麗を滅ぼして新たな王朝を樹立した時に、宗主国である明から国号を上述の歴史的由来のある「朝鮮」と定めてもらい、1897年の「大韓帝国」まで続きます。

 1910年の日韓併合後は国号ではなく日本の植民地名として「朝鮮」が使われ、解放後に金日成が朝鮮半島北部で樹立した国家の国号に採用されました。 「朝鮮」はその由来が比較的はっきりしており、議論の余地はありません。  ただ「朝鮮」が半島全体を意味するようになったのは14世紀末からであって、本来は遼東~半島北西部の領域であったことは記憶に留めてほしいと思います。

 一方の「韓」については、その由来がかなり複雑です。現在の国号の「韓」が古代の「三韓」に由来するところまでは明確ですが、この「三韓」というのが実にややこしいのです。

 『広辞苑』で「三韓」は次のように説明されています。

①古代朝鮮南半部に拠った馬韓・辰韓・弁韓の総称 ②新羅・百済・高句麗の総称

 馬韓は後に「百済」となり、辰韓は後に「新羅」となり、弁韓は後に加羅国になって結局は新羅に滅ぼされます。 従って①の「馬韓・辰韓・弁韓」の領域は「百済・新羅」の二国の領域の意味になります。 ところが②では「新羅・百済・高句麗」の三国です。 従って①と②との違いは、「三韓」に高句麗が入っているかどうかという点になります。別に言えば、①は朝鮮半島南部のみ、②は朝鮮半島全体と範囲が違っているのです。

 邪馬台国が登場する3世紀の歴史書『三国志』魏志東夷伝には馬韓・辰韓・弁韓は記載されていますが、百済・新羅がありません。 百済も新羅もそれから百年ぐらい後の4世紀に成立します。 だから①の馬韓・辰韓・弁韓という意味の「三韓」は3世紀までは確実にあり、②の新羅・百済・高句麗という意味の「三韓」は4世紀以降のことになります。 ①と②の違いは、時代差を表しています。

 つまり「三韓」とは当初は半島南部の馬韓・辰韓・弁韓でこれが百済・新羅となったが、4世紀以降のある時代に半島北部の高句麗が加わったということになります。 従って最初「三韓」は半島南部だけであったのが、後に半島全体を指称するようになったと言えます。

 「三韓」はこのように意味が変わったのですが、それが何時でどのような経緯なのかを示す史料がありません。 ここに複雑さというか、ややこしさがあります。 韓国の歴史書でも複雑さがそのまま現れています。 徐毅植・安智源・李元淳・鄭在貞著『日韓でいっしょに読みたい韓国史』(君島和彦ほか訳 明石書店 2014年1月)から該当部分を紹介します。

多くの小国が地域ごとに辰韓、馬韓、弁韓の三韓としてまとまり(29頁)

高句麗と百済の遺民が新羅と力を合わせて唐を追い出す過程で、3国は1つの民族であり、1つの統一国家となって暮らさねばならないという‘三韓統一意識’が高まった。(45頁)

 このように7世紀に新羅が百済・高句麗とともに統一国家を樹立した時の意識が、その数百年前の辰韓・馬韓・弁韓の「三韓」の統一であったとしています。

 つまり半島全体である三国統一を、半島南部だけの「三韓」の統一と表現しているのですが、その理由について説明がありません。

【拙稿参照】       矢木毅『韓国・朝鮮史の系譜』(1)~(5)

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/02/6796822

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/04/6798932

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/07/6803186

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/10/6805823

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/13/6809067

「三韓」は朝鮮の国家と民族を表す http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/09/10/6977764

「三韓」は朝鮮でも使っていた   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/25/1533306

コメント

_ 安部 裕治 ― 2015/05/10 10:24

小生、兵庫県在住の安部裕治と申します。このたび、拙書『辰国残映』を自費出版致しました。日本の悠久の歴史を改めて認識し、日本人の誇りを取り戻すことができる内容となっています。近年の隣国の歴史捏造は目に余るものがあり、何とか一矢を報いたいと思っていましたので、その嚆矢となり得たのではないかと自負しています。辻本先生のお考えとも近く、拙著をご笑納願えれば幸甚です。ご迷惑でなければ、送付先をご指示頂けないでしょうか。宜しくお願い申し上げます。

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