金正恩の発言は既定の北朝鮮の路線2018/03/12

 去る3月5日に、韓国の特使が北朝鮮を訪問して金正恩委員長に接見して、金委員長から次のような発言を受けました。

・対話が続く間は、追加の核実験や弾道ミサイルの試射など戦略的な挑発を再開しない。

・非核化問題の協議と米朝関係の正常化のため、米国と虚心坦懐に対話をすることができる。

・軍事的な脅威が解消され、体制の安全が保障された場合、核兵器を保有する理由がない。

・核兵器はもちろん、在来型兵器を韓国に向け使用しない。

・非核化の目標は先代の遺訓であり、先代の遺訓に変わりはない。

 これが、北朝鮮が譲歩をしたように報道されています。しかし北朝鮮は、従来からこのような主張をしており、何ら譲歩しておりません。 何かそれを示す資料はないかと探してみたら、金時鐘・佐高信『「在日」を生きる―ある詩人の闘争史』(集英社新書 2018年1月)の162~163頁に、次のような金時鐘さんの発言を見つけました。 金時鐘さんは北朝鮮の体制に対して批判的ですが、北の核政策には支持しておられます。  北朝鮮のこれまでの核路線を分かりやすく簡単に解説しておられますので、紹介します。

ありていに言って、こと核に問題に関する限り、北朝鮮側に道理があります。 金日成主席の生存時から、北朝鮮はアメリカに対して、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に締結し直そうと、ずっと提起してきました。 そうなれば北朝鮮が核を持つ理由がなくなる、とも言い続けてきました。 金日成から金正日に代わったときも同じことを言ってきたし、今の金正恩も、話し合いをするなら私たちは核の問題を考える、それはお祖父様の遺言だとも言っています。  (『「在日」を生きる―ある詩人の闘争史』162・163頁)

 この本は金時鐘さんと佐高信さんの対談集で、2ヶ月前の1月に出版されています。 対談の具体的な日にちは記されていませんが、「はじめに」の日付が「2017年11月立冬の日」となっていますので、これより以前です。 つまり5カ月以上も前のことです。 その時に金時鐘さんが、北朝鮮の核路線を代弁して要約してくれていますので便利ですね。 今度の金正恩発言とほぼ同じ内容を、5ヶ月以上も前に明らかにしていたのです。

 この北朝鮮の従来からの核路線と今回の韓国特使に対して金委員長がした発言とは、「核兵器を持つ理由がなくなる」「遺訓・遺言」等で内容的に一致していることが分かります。 つまり北朝鮮は、先代から定められた核路線を、金正恩の言い方で言い換えただけのことです。 それを譲歩したかのように受け取られて世界を驚かせたのですから、北朝鮮の完全勝利だったということです。

 これから北朝鮮は世界、具体的には米・韓・日を相手に譲歩を迫るでしょう。 北朝鮮が最初から譲歩していないことに、早く気付いてくれればいいのですが。