ありふれて当然だったことは忘れられる(女が働く)2020/07/24

 いつだったか、男は働き、女は家を守る、それが日本の昔からの良き伝統だという人がいました。 こんなイメージを持つ人は意外に多いようです。 

 実はかつての日本では、女性も貴重な労働力であり、働くのが当たり前でした。 農家では女性は田んぼや畑に出て働き、都会の商店では女性も働き、また工場や炭鉱労働者の妻たちは内職をしたり、今でいうパート労働をしたりして、働くのが当然でした。

 ところで戦前の在日朝鮮人も同様でした。 私自身、日本で働く男性のもとに嫁に来たという在日一世女性の話を聞くことが何度かありました。 当初は日本でも朝鮮と同じように家事だけをしていればいいと思って嫁に来たと言います。 しかしそれでは生活が出来ず、自分も働かざるを得なくなったという苦労話でした。 男は日本で成功して一軒家を構えていると言っていたのに、来てみると河原にぽつんと建っている掘立小屋だった、しかも壁の隙間で外から丸見えだったという貧乏話でしたから、女も働くしかなかったのです。

 当時の朝鮮女性のほとんどは日本語が不自由でしたから、働くといってもかなり限られます。 日本農家の手伝いをしたという一世は、貰うお金は少なかったがクズ野菜(市場に出せない野菜)をたくさん貰ったので助かったと言っておられましたねえ。

 かつての日本では、女が働くというのはごく普通に見られた日常風景でした。 だから男は外で働き、女は家で専業主婦をするという風景が一般化するのは、かなり後のことと思われます。 おそらくは1960年代以降のことと私は考えています。

 当時の労働運動のスローガンに、ヨメさんを働かさないで生活できる給料をくれ!という賃上げ要求があったと記憶しています。 またテレビがようやく普及した時代で、アメリカの家庭ドラマが放映されていました。 そこには専業主婦の華麗な生活が描かれていました。 これを見た日本女性たちが専業主婦志向になったと勝手ながら思っているのですが、どうしょうか。

 男は外で働いて稼ぎ、女は家をしっかり守る、妻が働くのは夫に甲斐性がないからだ、なんて堂々と言われていた時代があったのです。 子供も大きくなったし、家計の足しにパートで働きたいという妻を殴ったという男がいましたねえ。

 専業主婦はかなり新しい風景です。 かつて日本では女も働いていたし、それが当然な時代があったということが忘れられているように思われます。

【追記】   

 本文で朝鮮女性について「日本で働く男性のもとに嫁に来たという在日一世女性の話‥‥当初は日本でも朝鮮と同じように家事だけをしていればいいと思って嫁に来た」と書きましたが、この方は「陸地」の人です。 「陸地(육지)」は済州島の人が使う言葉で、朝鮮本土のことです。 済州島の女性は結婚しても働くという慣習があります。

【拙稿参照】

ありふれて当然だったことは忘れられる(嘗糞) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/01/20/9026936

ありふれて当然だったことは忘れられる(男がおむつを洗う) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/02/08/9033687

ありふれて当然だったことは忘れられる(カニバリズム) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/04/9043159