もう一人の在日の生活保護2012/05/26

 1970年代の中頃、私が民族差別と闘う運動体に関わり始めた時のことです。

 ある在日一世のお宅を家庭訪問しようと誘われて行きました。その家は、バラック風の粗末な建物で、一世の夫婦と末っ子の女高生、そしてその姉が離婚して連れてきた子供二人の5人家族でした。  夫婦といってもかなりの年で、末っ子は母親(オモニ)が40をかなり過ぎてから生まれた子です。その夫(アボジ)は体を悪くして働けず、一家は生活保護を受けていました。

 行ってみて驚いたことは、この母親(オモニ)が「日本は嫌いだ!大嫌いだ!」と、事あるごとに大声で言っていたことでした。日本人からかなりの差別を受けた体験を有していたようでしたが、その詳しいことは分かりませんでした。

 その当時私は、生活保護を貰うなんて恥だ、よっぽど貧乏しない限り貰うものではない、と考えていましたから、この在日一世のオモニにはビックリというか、新鮮でした。

 そこまで日本を嫌うのなら、なぜ生活保護を貰うのか?

 こんな疑問が当然湧いてきます。後にアボジがかなりの飲んだくれで、家庭内暴力(妻への暴力)が物凄かったことを知り、ますますその疑問が大きくなりました。

 しかし周囲の活動家たちは、在日の差別の現実を見たいという人に対して、「日本大嫌い」発言を繰り返すこのオモニを紹介していたのでした。

 この時の私は、在日は日本社会で不当な差別を受けてきたのだから、これぐらいは認めてあげなければならない、として疑問を考えないことにしたのです。つまり思考停止状態にしたのです。

 この時の精神状態は、経験した人でなければ、なかなか分かって貰えないと思います。