国民健康保険と国民年金は1961年から2019/06/12

 毎日新聞の2019年6月11日付に「漆黒を照らす79 北朝鮮帰国事業から60年 苦難の記憶 風化させぬ」と題する記事がありました。 https://mainichi.jp/articles/20190611/ddl/k27/040/333000c

 筆者はアジアプレスの石丸次郎さんです。 60年前の北朝鮮帰国事業の悲惨な実態について書かれたものですが、その中で次のような記述があり、あれ?これは間違いではないのか?と思われる部分がありました。

50年代、「在日」の境遇は厳しかった。 国民健康保険にも国民年金にも加入できず、就職差別で働き口も少なかった。

 帰国事業の背景には、当時(1950年代)の在日朝鮮人たちの境遇が厳しかったことがあるのは事実ですが、そこに「国民健康保険」と「国民年金」に加入できなかったことが挙げられていることにビックリしたのです。

 まず国民年金ですが、これが施行されたのは1961年からです。 つまり帰国事業が始まる1950年代末に国民年金制度はありませんでした。 従って記事にあるように、在日朝鮮人が「国民年金にも加入できず」は間違いです。 なお厚生年金は戦争中に始まっています。 これは当初は戦費調達という目的もあったようですが、戦後も制度は続きました。 従って在日朝鮮人でも勤め人は、厚生年金に加入していた場合があります。

 次に国民健康保険です。 それまでは自営業や農家などには今の国民健康保険の前身となる健康保険組合が各地域にありました。 しかしこれは任意加入で、掛け金も高かったといいます。 それ以外に勤め人の場合は職域健康保険があり、これは雇用主の一部負担がありました。 1954年調査で、国民のうちどちらかの健康保険に加入していた人の割合は三分の二で、残りの三分の一は健康保険に入っていなかったのです。

 すべての国民が健康保険に入る国民皆保険制度となったのは1961年からです。 従って記事にあるように、帰国事業が始まった1959年代末に在日朝鮮人が「国民健康保険に加入できず」は間違いです。

 以上のように、国民年金も国民健康保険も制度の開始は1961年です。 なおこれには国籍条項があって、在日朝鮮人は加入できませんでした。 加入できるようになったのは、国民健康保険は1965年の日韓条約締結から、国民年金は難民条約により1982年からです。

 1950年代の在日の境遇の厳しさの根拠として、1961年に始まった国民健康保険や国民年金を挙げることは間違いなのです。