日本語版『反日 種族主義』で抜け落ちた章節(2)2020/01/21

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/01/12/9200912 の続きです。

変身する学徒志願兵

次は行安部報告書で、光復軍あるいは独立闘士にまで変身する学徒志願兵が脱営に関してです。 彼らの脱営は「広域の分散配置」を特徴とする中国管内に駐屯する日本軍で集中的に発生しました 。脱営した総人数は197人で、入営学徒3,050人の約6.5%に達しました。 脱営者のほとんどは、厳格な内務班生活、激烈な軍事訓練、頻繁にある討伐作戦に苦しめられていた二等兵や一等兵でした。

彼らが脱営に成功したのは、占領地が点線で続く中国であったことで可能でした。 朝鮮や日本だったならば、想像もできないほどに難しかったでしょう。 脱営の原因は、過酷な私的制裁が横行する兵営生活の不適応、幹部候補生から脱落しての悲観、参戦による死の恐怖のためでした。 学徒志願兵の脱落者の精神世界は、充満する民族意識ではなく、赤裸々な生存本能で満たされていました。

1920年前後に出生した学徒志願兵は、当時2500万人の朝鮮人の中でも最高の高等教育を受けた幸運児でした。 彼らは1960~80年代、韓国の政治、経済、社会、文化、宗教など、各界各層で有力指導者層を形成しました。 言論人兼政治家である張俊河を始めとして、高麗大学総長の金学燁、国務総理の姜英勲、野党政治家の李哲承、韓国人最初の枢機卿である金壽煥、陸軍参謀総長の張都暎、放送作家の韓雲史など、彼らの名簿は大韓民国の人名辞典を彷彿とさせます。

記憶と忘却の政治

解放後、学徒志願兵出身者たちは学徒志願を共通分母に1・20同志会を結成しました。 彼らは自分たちが大韓民国の発展を主導したという自尊心で一杯の、いわゆる「1・20史観」を作りました。 彼らの回顧録は、学徒志願に敷かれた立身出生の名誉欲、もっと楽な軍隊生活、命知らずで行動する赤裸々な欲望を隠蔽しました。 彼らはひたすら日本を「公共の敵」とする民族闘士の顔だけを強調する、とんでもない記憶を作り、広く流布させました。

彼ら学徒志願兵は日帝の欺瞞と扇動にだまされた大馬鹿ではありませんでしたが、「鉄の鎖に縛られて、日本軍に引っ張られていった」という強制労働被害者または「祖国の光復のために献身した民族闘士」では決してありませんでした。 彼らは生まれながらの日本国民であり、幼年期から近代教育を受けながら成長した、事実上の最初の世代でした。その点で、学徒志願制は朝鮮人エリートの近代性を戦時総動員体制に内化する制度的経路だったと言えるでしょう。

当初、彼らは自分たちの赤裸々な出生欲望を、日本帝国に対する忠誠心で包みました。 彼らは国家の命令に対する服従、忠誠、犠牲など、国家主義の精神世界でしみ込んだ忠良なる皇国臣民でした。朝鮮人有力者や資産家層の出身者として、この学徒志願兵は親日エリート世代を代表しました。

解放以降、学徒志願兵出身者たちが形に現した記憶と政治は、一つの大きな虚偽の意識でした。 彼らは、わずか数名の学徒兵で観察されるに過ぎない反日志士の行為を、自分たちが集団で志向していたかのように粉飾しました。 当初、学徒志願行為にしみ入っていた立身出生の欲望は、それによってきれいに隠蔽されました。 

そのような記憶と忘却の政治史は、彼らが指導層として君臨した韓国人の集団心性さえも歪曲したのかも知れません。 今日の韓国人の歴史意識を拘束している反日種族主義は、彼らの偽善的記憶から、その形成の端緒を求めることができます。 2018年、政府が乗り出して、彼らの学徒志願を独立運動にまで格上げすると主張したのは、歴史が政治によってどれほど深刻に汚染されるのかを見せつける教科書的事例だと言えるでしょう。

 以上が、日本語版で省略された「09. 학도지원병, 기억과 망각의 정치사」です。 なぜ省略したのでしょうか? 説明されていないのは何か理由があるのでしょうか?

 次回は、同じく省略された「16」の章節を翻訳してみます。

コメント

_ 大森 ― 2020/01/21 11:20

「わがアリランの歌」で京城日報記者の金達寿が学徒志願兵の取材に行くくだりではいずれも心ならずも志願したという内容ですが必ずしもそれが学徒兵の真実というわけではなかったということですかね

_ tsujimoto ― 2020/01/21 16:45

『わがアリアンの歌』(中公新書)の232~240頁に、その記事がりますねえ。
 大分前に読んだ本ですが、こんなことが書かれていたとは忘れていました。感謝申し上げます。

 この本は解放後25年以上も経ってから出版された本ですから、内容は吟味せねばならないところです。著者の金達寿さんが特に印象に残ったものだけの姿を描いた可能性があります。
 
 当時の映画上映では時局ニュースが流されるのですが、朝鮮の映画館では皇軍勝利のニュースには日本人がビックリするほど朝鮮人たちが興奮・熱狂したという話があります。

 そんな時代に身を置いた当時の人間が冷静になれたのかなあと思います。 金達寿さんは戦後に歴史の結果を知っているからこそ、そのような学徒志願兵の発言だけが印象深く記憶に残ったのではないか、と思います。

_ tsujimoto ― 2020/01/21 16:48

訂正します。

その記事がりますねえ →その記事がありますねえ

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