孔枝泳の小説『何をなすべきか』2015/02/22

 유시민(柳時敏)の『나의 한국현대사(私の韓国現代史)』(2014年7月 돌배개(石枕))を購読。

 柳時敏は1970~80年代の韓国学生運動を指導した人物で、その後ジャーナリスト、国会議員。 盧武鉉政権時には保健福祉部長官(日本の厚生労働省大臣に当たる)を務めた人です。 今は政治の世界から身を引いて、著述に専念しているようです。 この本もその一つです。

 その経歴からして非常にリベラルというか左寄りの方ですが、本の内容は客観的事実を追求しようとする姿勢が見られます。 だから、それはおかしいと首を捻るような記述もあるのですが、成程そうだったのかと参考になるところも多かったです。

 その参考になったものを一つ紹介します。

 1980年代の韓国の学生運動は社会主義を目指すようになります。 活動家たちは地下組織でマルクスやレーニン、毛沢東などの文献を読み、そして学生を辞めて労働者を志向したりした時代です。 その時に必読文献とされたなかにレーニンの『무엇을 할 것인가』が挙げられていました。

 これを見て、「あっ! そうだったのか!」と思いました。というのは、韓国の有名な女流小説家の一人である孔枝泳の短編小説に『무엇을 할 것인가』があったからです。 内容は1980年代の左翼学生運動の非合法組織に参加した、ある男女間の恋愛劇を描いたものです。 本の題名は直訳すると『何をするのか』というもので、本の内容とどういう関係にあるのか、さっぱり分からなかったのです。 内容は面白かったのですが、題名が内容にそぐわず、気になっていたところでした。

 しかしこの小説の題名が、実はレーニンの代表的な著作である『何をなすべきか』であることがようやく分かった次第。 つまり当時の韓国学生運動の非合法組織内で熱心に学習された文献の一つがレーニンの著作であり、孔枝泳はこれを小説の題名とすることによって、小説の舞台が非合法組織であることを示していたのです。

 孔枝泳は日本でも話題になった韓国映画『トガニ―幼き瞳の告発―』の原作者で、拉致被害者の蓮池薫さんがこの原作を翻訳しておられます。 なお拙論ではこの映画について下記で少し触れています。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/16/6575093

 孔枝泳の著作はごく一部が日本語に翻訳されているだけで、大部分が訳されていないのは残念ですね。 この『무엇을 할 것인가(何をなすべきか)』も訳されていないようです。

コメント

_ 林浩治 ― 2015/05/16 14:41

勉強になります。孔枝泳の小説翻訳されたものは大抵読んでいるのですが、ご紹介にあった短篇は知りませんでした。
http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/files/11.pdf
http://kghayashi.cocolog-nifty.com/blog/files/01.pdf
など小生も書いています。

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