社会主義 ― 2008/06/21
Kさんへ
社会主義の概説を読ませていただきました。 一読して、19世紀のマルクスと20世紀のマルクス主義とを混同されているのではないか、という感想をいだきました。
20世紀のマルクス主義=社会主義については、Kさんのおっしゃる通りです。戦後の日本の人民はそれを感覚的に知っていたからこそ、社会主義政党に政権を渡さなかったという賢明な選択をしました。「日本人は共産主義理論をほとんど知りません」と書いておられますが、そうではないと思います。
ところで19世紀のマルクスの思想は、20世紀のマルクス主義者たちによってかなり歪められました。
例えば「私有財産の否定」ですが、マルクスは当時として最高の発展段階であった資本主義がさらに発展・成熟した末に来る社会として「私有財産の否定」を想定しました。
そして20世紀のマルクス主義者のレーニンたちが革命によって資本主義を否定し社会主義を実現したと思い込んだ時、「私有財産の否定」された社会をつくろうとしました。ところが資本主義を体験したことのない彼らが知っていたそういう社会というのは、国家=国王が国内の全ての財産、人民の肉体に至るまですべてを所有し、個々の人民に私有財産というものがなかったアジア的古代国家でした。
そこで彼らは,各人民の所有する財産を否定するとともに、国王の代わりに国家=共産党に全ての財産が帰属する社会を目指すことになりました。つまり実際には近代資本主義よりはるか以前の段階にあるアジア的古代国家の再現となったわけです。そうであるにもかかわらず、彼らは資本主義より優れた社会を実現したと信じ込んでしまったのです。
20世紀の社会主義国は、人民の肉体にいたるまで国家=共産党の財産ですから、人民の生殺与奪の権利をもつこととなりました。人民は自分の肉体が自分のものではなくて国家=共産党のものであるという社会なのです。そして国家=共産党指導者の恣意によって、人民たちに「反動」「反革命」「人民の敵」などの烙印を押して粛清することが正当化されたのです。Kさんが「マルクス主義は人々の殺害を奨励した」とおっしゃるのは、その通りです。
しかし19世紀のマルクスの著作はなかなか面白いものです。せっかくマルクスに興味を抱かれたのなら、20世紀のマルクス主義によって歪められた目で見ないで、お読みになることをお勧めします。