韓国語の雑学-고려장(高麗葬)2024/12/18

 韓国の戒厳令騒動は、まだまだ余波が続くようです。 大統領の弾劾訴追案が国会を通過しましたが、これからは憲法裁判所(憲裁)が認めるのかどうか、ですね。 憲裁の裁判官9名中6名が賛成すれば弾劾が成立するのですが、欠員が3名いて、現在6名だそうです。 ですから一人でも反対すれば弾劾は否定されます。 微妙なところですね。 まあそんなことは関係なく、拙ブログを続けます。

 韓国の高齢者問題を扱うニュースを見ていると、「고려장」という言葉が時おり出てきます。 https://www.youtube.com/watch?v=OhUxgeO0DK4&t=16s このニュースではタイトルに出てきています。 これは漢字で「高麗葬」と書くもので、日本語では「姥捨て山」という意味です。 韓国はかつて自らを“孝道(親孝行のこと)の国であり、親を捨てるなんてあり得ない”と言っていたものでした。 しかし近年韓国も高齢化社会を迎えて、そんなことも言っていられなくなったようで、ニュースに出てくるようになりました。

 ところで日本の「姥捨て山」が、韓国ではなぜ「高麗葬」なのか。 ちょっと調べてみました。 백과사전(百科事典)にあった説明が一番まとまっているようなので、これを訳してみました。

고려장(高麗葬)

高麗時代に年取った親を他の場所に捨てる風習があったという説話。 その説話は、数百年前に作られたものと推定される。 高麗葬という用語がその説話と結合したのは19世紀末から植民地時代にかけての時期で、このために大日本帝国の歴史歪曲説とか単純な流言飛語が広がったとかの、様々な説が出回っている。 学界で主流とされている文献学上の説は、仏典に出てくる逸話や中国の孝子伝に出てくる逸話が朝鮮に入ってきて、高麗時代を背景に現地化されて、全国に広まったというものである。

高麗葬に似たものとしては、日本では江戸時代に「姥捨て山」といって、年を取り病気になった人を背負子に負い山に行って捨てたという説話が世に知られている。 この説話を元に作られた映画が、カンヌ映画祭のパラムドール賞受賞作である「楢山節考」である。 これ以外にも、ヨーロッパ、インド、東南アジア、サハラ以南のアフリカ等でも、これと同じような説話が出回っているので、この老人遺棄説話はユーラシア―アフリカ全域に広がっている共通の説話と見ることができる。 現在は考古学的調査や文献学的調査などを通して、その話は高麗葬と同じようにほとんど実存しなかったものであって、児童教育を目的として作られた民衆説話であると見られている。

特に韓国の場合、古代の文献を詳細に見ても、飢饉や戦争などの特殊な状況ではない平時にこのような行為を風習としていたという記録は全くないのであって、現在関係する研究者たちはこの風習があったという可能性を否定している。 実存しない風習を語っているに過ぎないというのが、現代の韓国歴史学会の定説である。

そのために説話として存在していた話が植民地時代に朝鮮の生徒たちを教育するために制作された朝鮮の童話を集めた童話集に採録され、説話だったものがある時に民衆たちに歴史的事実として受け入れられたと見られている。 すなわち説話であり童話だったものが、ある瞬間に歴史的事実にすり替わって民衆の意識の中に根を下ろしたのである。

もちろん生存の危険な極限の状況で親を捨てることがあるにはあったが、風習と呼べるものではない。 朝鮮時代でも庚申(1670~71)飢饉の時期に、親を捨てて逃げた男性についての記録があるが、これは単発的な事件であり、風習ではなかった。 朝鮮朝廷は父母や祖父母を捨てたり虐待した者に対して綱常罪(三綱五常に反する罪)を問うて極刑に処し、このような事件が発生した地域の有力者をはじめ、その地域を管轄する地方官を厳しく懲戒し、地域の行政等級を下げる等の強力な措置を取ったりした。

高麗時代は平均寿命が42・3歳で、自然死が極めて少なく、人口ピラミッドが三角形で、疾病や事故死の確率が大変高く、高齢人口が維持されていなかったので、高麗葬は風習として存在しなかった可能性が高い。

 今の韓国のニュースで出てくる「고련장(高麗葬)」は、“親を他の所(他の家族や老人ホームなど)に送る、あるいは押し付ける”、それはすなわち“親を捨てる”ことだという意味で使われているようです。  https://www.youtube.com/watch?v=m_nRrnFJQ48  このニュースでは、親を療養院(老人ホーム)に送ることを「現代版高麗葬」と言っています。

 そういえば、かつて日本でも老人ホームに行くことを「楢山に行く」とか「楢山参り」とか言っていましたねえ。 今は、こういうことは言わないようです。

 

【拙稿参照 ―韓国の高齢者問題(ただし10年以上前のものです)】

韓国の老人孤独死            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/10/09/7003945

韓国の「祖孫家庭」問題(1)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/06/7097028

韓国の「祖孫家庭」問題(2)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/11/7105330

韓国の「祖孫家庭」問題(3)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/15/7109387

韓国で、おばあさんと赤ちゃんの痛ましい死 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/08/04/6530632

 

【韓国語の雑学―これまでの拙稿】

韓国語の雑学―客妾(객첩)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/03/10/9666292

韓国語の雑学―남부여대(男負女戴)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/11/14/9634052

韓国語の雑学―전산이기(電算移記) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/06/17/9594956

韓国語の雑学―賻儀   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/26/9543701

韓国語の雑学―将棋倒し http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/15/9235466

韓国語の雑学―下剋上  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/22/9237987

韓国語の雑学―「クジラを捕る」は包茎手術の意 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/10/9325273

韓国語の雑学―내로남불(ネロナムブル) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/01/04/9334079

韓国語の雑学―東方礼儀の国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/17/9388692

韓国語の雑学―동족방뇨(凍足放尿) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/09/02/9418323

日本への悪口言葉―韓国語の勉強     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/07/19/6907092

コメント

_ 海苔訓六 ― 2024/12/18 08:57

高齢者の社会的孤立に関する国際比較統計データみると、韓国が比較対象国中では一番深刻なようです。
https://honkawa2.sakura.ne.jp/2995.html
朝鮮は日本よりも儒教の影響が強いはずで日本のほうが儒教の影響は少ない分、目上を敬ったりしないと思ったのですが、統計データみると日本では高齢者はそこまで邪魔者扱いされていません。

「埋葬」に関しては、韓国観光したときに電車の車窓から土饅頭のお墓がちらほら見えたのが印象的でした。朝鮮のお墓は土饅頭なんですね。
今はコインロッカー形式の納骨が韓国では主流らしいですが、日本でも都心はコインロッカー形式の納骨もあるみたいです。

ちなみに「カーン映画祭のパラムドール賞受賞作」は日本語ではカンヌ映画祭のパルムドールの方が日本人読者はわかりやすいと思います。

_ 辻本 ― 2024/12/18 09:07

>「カーン映画祭のパラムドール賞受賞作」は日本語ではカンヌ映画祭のパルムドールの方が日本人読者はわかりやすい

 ホントですね。 韓国語では「カーン」となっていて、そのまま訳してしまいました。
 日本語では「カンヌ」です。

_ 辻本 ― 2024/12/18 14:35

>朝鮮のお墓は土饅頭なんですね

 元々儒教ですから土葬が主でした。
 しかし21世紀に入って火葬が急速に増えて、今は大抵が火葬ですね。
 自治体が土葬墓地を造成したのに、火葬が増えて土葬する人がほとんどいなくなって、広大な空き地が残ったというニュースがありました。
 土葬していた祖先の遺骨を掘り上げて、改めて火葬する事例も多いようです。
https://news.sbs.co.kr/news/endPage.do?news_id=N1006450757&plink=LINK&cooper=YOUTUBE

 なお全羅南道の島嶼では、儒教以前から続くと思われる古来の「草墳」が残っていましたが、これも今は消えてしまったようです。

 韓国の葬制の歴史は、興味深いですね。

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