『韓国経済が崩壊するこれだけの理由』 ― 2013/03/09
三橋貴明の『いよいよ韓国経済が崩壊するこれだけの理由』(WAC)という本を購読。
一読して、昔こんな感じで韓国経済を解説した本があったなあ、と懐かしく思いました。もう40年も前の1970年代に、確か岩波書店から出ていたと記憶しています。
岩波ですから、当時の韓国は軍事ファッショ独裁政権で、その経済はアメリカとその手先である日本の植民地とだというものです。従って韓国経済のデータは、アメリカや日本に関係あるものすべてが「従属」の証拠として解説するもので、経済的にも暗黒であるとしていました。
当時の私は左翼がかっていたので、この本を熱心に読んだものでした。だからそんな韓国に日本の企業が進出するのは、韓国人民から搾取を狙っているのだ、などと思ったものでした。しかし韓国経済は一向に悪くならずに発展しており、むしろ北朝鮮経済こそが中国やソ連に依存状態で停滞状態あることを知って、読んで損したと思いました。この本は、もう私の本棚にはありません。
三橋の『崩壊するこれだけの理由』も、経済のデータを「市場を食い物にする」「ゆがんだ輸出依存体質」「つかのまの幸運に過ぎない」等々と、悪意があると言わざるを得ないような表現で、解説を連ねています。
こんな本が今の日本では売れているんだなあ、40年前の過去が今繰り返しているんだなあ、という感想を抱きました。三橋はかつての左翼経済学者の再来なんだろうなあ、と感じた次第。
ところでこの『崩壊するこれだけの理由』のなかで、「34、あまりに多すぎる韓国の強姦事件」(76~77頁)では、強姦事件の発生率は日本の四〇倍以上」としてます。これは『SAPIO』2012年12月号の100~101頁にある張赫の論考と同じ内容です。
これについては、元となるデータを読み間違ていると批判しました。
http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/11/09/6628993
韓国の『犯罪白書』には、強姦事件の件数について「強姦(強姦および性暴力を含む)」と明記しています。つまり「強姦」とは、刑法297条の「強姦罪」を適用した事件と、「性暴力犯罪の処罰および被害者保護に関する法律」(強制わいせつ罪に相当)を適用した事件とを合わせているのです。
つまり「強姦」とは「強姦罪」と「性暴力処罰法」(強制わいせつ)の適用を受けた犯罪だ、とするのが韓国の立場です。
一方日本の場合は、「強姦罪」と「強制わいせつ罪」の刑法条項によって分けた数字を出しています。つまり「強姦」とは「強姦罪」が適用された犯罪であって、「強制わいせつ罪」は含まないというのが日本の立場となります。
すなわち『SAPIO』の張赫は、日本では刑法の強姦罪だけの数字、韓国では強姦罪だけでなく強制わいせつ罪をも含めた数字を比較して、「韓国の強姦は日本の40倍」という論理を展開しているのです。比較する元のデータ数字を読み間違っているのですから、比較してはいけないものを比較したということです。
三橋はこの『SAPIO』記事を検証もせずに自分の文章として取り込んだようです。
三橋の本は、このようなデータの読み間違いが他にもあると思われます。