漢字を廃止した韓国で「知的荒廃」?-呉善花(11)2014/02/10

 日本人は漢字に慣れているため、もし漢字が無くなればどうなるかを容易く想像できます。だから韓国での漢字廃止に対して、その想像をもとに意見を述べる人が多くなります。すなわち日本人は漢字を廃止したらどれ程困るのかが分かるので、きっと韓国でも同じだろうと想像を逞しくするのです。そうであるからか、韓国について知識がなく或いは韓国語すら読めないような人でも、意見を言いやすいという傾向になるようです。

 韓国の漢字廃止は、70年近く前の1948年のハングル専用法に溯ります。この時に漢字廃止を定めたのですが、例外措置として漢字の使用を認めるとなりました。このとき以降は公文書では漢字語はハングルで表記され、括弧書きで漢字を挿入する方式が主にとられました。一方新聞や論文などでは漢字ハングル混じり文が主流となります。

 それではそれ以前はどうだったのか。その3年前の1945年までは日本の統治下でしたから公文書はすべて日本語で、漢字仮名混じり文でした。解放(日本の敗戦)後は、この仮名部分がハングルに置き換わる漢字ハングル混じり文となります。そして韓国建国時である1948年に、ハングル専用法(ただし漢字は例外的に認める)が打ち出されたのです。

 そして1960年代後半以降に学校での漢字教育が廃止されてハングルのみとなり、1980年代に新聞等でも漢字をほとんど使われなくなりました。つまり日常的に漢字を見ることがなくなったのです。

 ハングル専用法ができて70年、漢字を教わらなくなって50年、社会の中から漢字が消え去ってから30年経っているのです。

 韓国人はハングル専用で完全に慣れており、漢字への拒否感が出てくるほどです。しかし漢字語は表音文字のハングルで表記されて今も残っています。新聞等では使用語彙の70%ほどが漢字語ですから、漢字語は漢字では分からなくても耳で聞くと理解できるというのが現状です。

 漢字廃止により数十年前の漢字ハングル混じり文が読めなくなってきているのはその通りですが、それは時の流れです。日本で言えば、新漢字・新仮名の活字文に慣れた現代人が、旧漢字・旧仮名の崩し字を読めないのと同じです。日本人がちょっと専門的に勉強すれば旧漢字・旧仮名・崩し字を読めるようになるのと同じく、韓国人も専門的に勉強すれば漢字ハングル混じり文が読めるものです。

しかし韓国人が漢字を知らないことは、これまで祖先たちが数千年もの間親しんできた漢字が自分たちの文字ではないという感覚になりますので、過去との断絶が生じることになります。これでは困るというので、韓国では漢字復活論も出てきていますが、今のところ少数意見のようです。

 ハングル専用でいくのか、漢字が復活するか。どちらにしても我々日本人には関係のないことなのです。しかし漢字を復活してくれた方がハングル表記の漢字語をいちいち漢字に戻さなくてもいいですので、韓国語を読むのに楽になります。ただそれだけで、それ以上もそれ以下でもないでしょう。

 韓国に関する知識が乏しく、韓国語も分からない日本人が何故かしら韓国の漢字問題に意見を持ちたがるのには苦笑するしかありません。

コメント

_ 仮分数 ― 2014/02/13 21:23

「ようは慣れの問題」と論ずる辻本氏のご意見に、にわかには賛成しかねかす。その理由は本シリーズの(1)、(2)、(3)に寄せた私見をご覧なさっていると思いますので、くどくどとは申しません。

一口で言えば、伝統的に漢字という意表文字で築いてきた言語には、それに見合った表現形態があるということです。音標文字の体系についても同じことがいえます。

たとえば意表文字の「橋、端、箸、梯・・・」などは、同じように「ハシ」と発音しても、文字の上でどの「ハシ」か間違えることはありません。

これと同じように、たとえば音表文字の英語で「I、Eye」などは「アイ」と発音しても、文字の上で間違えることはありません。

しかし単に「ハシ」あるいは「アイ」と書かれた場合には、どの「ハシ」か、どの「アイ」か判断がつきません。これは漢字という意表文字文化の表現方法を、単純に異質の音標文字に置き換えたところに生じた混乱です。

また、呉善花さんは、迫害をおそれて日本に帰化したとはいえ、韓国人の立場に立って韓国の現状を憂いておられるおです。それを日本人に関係ないことと切り捨てるのは、愛情がないことと思います。

_ (未記入) ― 2014/04/14 17:29

まあ、日本人にとっては関係ない事、ではありますが、数ヶ月前、韓国の新聞の日本語訳で「自作で作った」という頭痛が痛くなるような表現を目にしました。
なぜこのような事が起きてるか、翻訳者がヘタだとういう可能性もありますが、ハングルだけで漢字語を扱ってるうちに「じさく」という言葉が「自」「作」でからなるという背景が曖昧になってしまったものとも思われます。
思えば、韓国の新聞記事の和訳は欧米などの翻訳記事よりもずっと読みにくい感があるのですが、そうした事が原因でしょう。
例えば「電車」と「地下鉄」はまったく別の概念であると日本人は漢字を思い浮かべて連想できますが、韓国人はこれらを区別できなくなってると聞き及びます。
やはり表意文字で概念化された言葉をローマ字や発音記号にちかいハングルのみで表現、運用することには無理があるでしょう。
同音意義語も多いと聞き及びますからなおの事です。

識字率に目をやってみると朝鮮半島において一般庶民がまっとうに文字を読み書きするようになったのは日韓併合以後、すなわち100年ぐらい前からです。
1940年の時点ではあまりにも歴史が短かすぎるのです。
だから安易に漢字を捨ててしまうという日本人からすれば暴挙としか思えないことをいとも簡単にやってしまうことができたのでしょう。

_ (未記入) ― 2014/04/17 18:37

>「自作で作った」という頭痛が痛くなるような表現

 漢字を使う日本でも、「旅行に行く」 「作文を作る」という表現がある。かつては「頭痛が痛くなる」表現だったが、今は国語辞典にも登載されるほどに、自然な表現となっている。

>「電車」と「地下鉄」はまったく別の概念であると日本人は漢字を思い浮かべて連想できますが、韓国人はこれらを区別できなくなってる

 韓国では「電車」は、韓国語の辞書にはあるが実際には使われていない言葉。 使われない言葉を「区別できなくなっている」とは、あり得ない。 
 韓国で電車のことを何と言うか? どうぞお調べください。

_ K ― 2021/05/18 00:52

ここまでこのシリーズの記事を読んできましたが、辻本さんがここまでハングルを擁護する理由がわかりません。漢字を使わないことによる弊害は一応理解していらっしゃるようですが、ならばなぜそれが問題視せずに楽観的なのか本当に不思議です。

もちろん隣国のことなので我々には直接的には関係がない。他人事だと思って突き放すこともできるし、実際多くの日本人は突き放していますよ。感想はいいますけど。

「日本で言えば、新漢字・新仮名の活字文に慣れた現代人が、旧漢字・旧仮名の崩し字を読めないのと同じ」というのもその通りで、本当は崩し字だって読めた方がいいんです。そうはいかない現実があるだけで、本来は決して褒められたことではないんです。

しかし「同じ」と言いましたが、実は「同じ」でもないんです。度合いとしては、そこには雲泥の差があります。

「韓国人も専門的に勉強すれば漢字ハングル混じり文が読めるものです。」とありますが、これは楽観的に過ぎます。そうであれば辻本さんも別記事で挙げられたような問題は起きていないはずです。だいたい漢字は日本で小学1年生から高校3年生まで授業でやって初めて水準に達するんですよ。日本よりはるかに少ない量(文字も費やす時間も)の学習で周囲に漢字があまり出回っていない中で、どれだけ身につくと思いますか。積み重ねの学習を甘く見てはいけませんよ。


「韓国に関する知識が乏しく、韓国語も分からない日本人が何故かしら韓国の漢字問題に意見を持ちたがるのには苦笑するしかありません。」とありますが、ではネイティブ韓国語話者である呉善花はどうなりますか。辻本さんは呉善花よりも韓国語の能力、知識が上だとお考えですか。そもそも韓国語の能力、知識のあるなしが、韓国の漢字問題に言及する資格がないといったことになるとは限らないでしょう。漢字は韓国だけの専売特許ではないし、そもそもこれは言語全般に関わる問題で、文字表記の理解度に関わる大きな問題として考えるべきだと思います。

辻本さんの意見を聞いていると、どうも文化相対主義的な観点からハングル擁護に傾斜している、またハングル批判がレイシズム、日本至上主義といったナショナリズムという文脈でハングル批判者(ハングルのみでは不便かつ理解における問題が生ずるといった意見)を偏見の目で見てしまっているように思えます。もちろんレイシストも中にはいるでしょうが、そんな次元で物事を見ていない人もたくさんいます。

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