私の国籍研究史(6)2017/08/19

 蓮舫の二重国籍問題が燃えていた時、二重国籍者の立候補を禁止しようという主張が出てきて、実際にそのような法案が出されたようです。 各国の国籍法を読んだことのある私には、これは絶対にあり得ない主張だと思いました。

 国籍の判定は各国の主権行為に属します。 従って日本政府は特定個人が日本国籍を有しているかどうかを判定する権限を有していますが、その人が外国籍を有しているかどうかを判定する権限はありません。 つまり日本政府は自分だけの判断で二重国籍を有しているかどうかを判定できないのです。

 例えば、ある日本国民が外国のパスポートを所持している(積極的な二重国籍者)場合、その外国パスポートの真贋を調べることによって二重国籍かどうかを判断できます。 しかし外国パスポートの真贋判定はその国の権限であって、日本の権限ではありません。 従って日本政府はパスポート発給国と関係なしに独自に二重国籍判定をすることが出来ないことになります。

 また本人が外国パスポートを持たずに日本単一国籍者として行動(消極的な二重国籍者)していると、二重国籍者かどうかの判断が難しくなります。 本人の経歴を見て、ひょっとして二重国籍ではないかと推定は出来ますが、結局はその国の政府機関で確認するしかありません。 果たして日本政府が日本国籍を有する自国民について、外国政府にこの人はおたくの国籍を持っていますかと問い合わせが出来るのかどうか。 パスポート等があれば問い合わせは出来ますが、そうでなければ困難でしょう。

 そしてまた外国の国籍はあってもその存在が証明できない例はいくらであります。 本人がその外国の国民登録(戸籍等に該当)の内容を正確に把握していない場合や国民登録が済んでいない場合などがあるからです。 つまり二重国籍でありながら、二重国籍を証明できない例があります(潜在的な二重国籍者)。 これは逆に、二重国籍者ではないとする証明もまた困難であるということにもなります。 日本に居住して日本単一国籍者として行動していたら、もう一つの外国籍なんて関係なしに生活できますから、こういうことは往々にして起きます。

 二重国籍を証明できない例として、以前にも書きましたが韓国・朝鮮からの帰化者は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国籍を有しますがほとんど大部分が公民登録をしたことがないので国籍が存在していたことを証明できないし、従って国籍離脱も証明できません。 つまり北朝鮮との二重国籍でありながら二重国籍が証明されず、また二重国籍を解消したという証明も出来ない状態となっています。

 今は亡き金英達さんが「かりに共和国(北朝鮮)政府が『わが国の国籍法にてらし、日本に帰化した者およびその子孫も共和国の国籍を喪失しておらす、共和国公民である』と宣言したら、大多数の帰化者には青天の霹靂となることはまちがいない」(『日朝国交樹立と在日朝鮮人の国籍』明石書店 1992年10月)と論じたことには、根拠があるのです。 

 あるいはまた二重国籍者がもう一つの国籍である外国の国民登録(戸籍等)の内容を正確に把握していなかったら、その外国政府はその人が自国民である証明を出すことができません。 こういう場合も二重国籍でありながら二重国籍を証明できないことになります。

 蓮舫の場合、二重国籍ではないかと指摘された時に父母の名前や本籍地等の台湾戸籍記載内容を正確に把握していたから、台湾政府は台湾籍を証明することができました。 しかしもし彼女が不正確な記憶であったとしたら、台湾政府は台湾籍を証明することはなく、従って二重国籍を証明できないとなっていたことでしょう。 そうなれば自分は日本単一国籍者だと居直れたのですが、なまじっか正確に知っていたからそれが出来なかったということになります。

私の国籍研究史(1)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/07/30/8630904

私の国籍研究史(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/03/8638755

私の国籍研究史(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/07/8641528

私の国籍研究史(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/11/8644295

私の国籍研究史(5)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/08/15/8646853

コメント

_ 河太郎 ― 2017/08/19 11:12

>蓮舫の二重国籍問題が燃えていた時、二重国籍者の立候補を禁止しようという主張が出てきて、実際にそのような法案が出されたようです。 各国の国籍法を読んだことのある私には、これは絶対にあり得ない主張だと思いました。

そうですかね。
つい先日の報道で、オーストラリアでは現に憲法で国会議員の二重国籍禁止しており、それが判明した議員は辞職したそうです。そして貰っていた報酬も返還させられるとかも。
母親が本人に無断で二重国籍にしていた議員も辞職したとかで、過失による場合も責任をとらねばならないようで極めて厳しいですね。

オーストラリアの例でも分かるように、法律に明記すれば国家の意思が鮮明になるし、事後的に分かった場合は議員辞職と議員報酬返還のペナルティがあり、有効性も担保されます。

私は日本も国会議員はもちろん、地方議員の二重国籍は禁止の明文規定を置くべきと思っています。
法律で禁止されたら、マスコミも有権者の目も厳しくなりますので、効果は必ずあると思います。

_ 河太郎 ― 2017/08/19 11:13

>今は亡き金英達さんが「かりに共和国(北朝鮮)政府が『わが国の国籍法にてらし、日本に帰化した者およびその子孫も共和国の国籍を喪失しておらす、共和国公民である』と宣言したら、大多数の帰化者には青天の霹靂となることはまちがいない」(『日朝国交樹立と在日朝鮮人の国籍』明石書店 1992年10月)と論じたことには、根拠があるのです。 

原則と例外の概念を忘れてはなりません。例外があるからといって原則を蔑ろにするのは本末転倒です。

国籍離脱が困難な二重国籍は一般人の場合は、運用で不都合が生じないようにすればよいだけです。

国益に関係する公務員や国会議員、地方議員は特権であり、二重国籍の者に門戸を閉じていても何の問題もありません。

二重国籍者は国益が絡むと利害衝突が起こるので特権が得られないのは当然です。

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