在韓米軍はアメリカにとってどんな利益があるのか2018/07/22

 韓国の言論を読んでいると、アメリカは自分の利益のために米軍を我が韓国に置いている、という主張が出てきます。 例えば『朝鮮日報』2018年7月1日付の書評のなかで、次の文章があります。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/06/28/2018062802260.html

米国のトランプ大統領はこのところ、自分たちは在韓米軍に天文学的な額の資金をつぎ込んだと、恩着せがましい態度を取っている。しかし米軍は、自国の利益を守るため韓国に駐屯してきたのではないか。

 それでは米軍はどんな利益のために軍隊を駐留させているのか、です。 韓国にある米軍基地は北朝鮮の韓国侵略に備えるためのものであって、アジア全体の平和体制維持のためにある在日米軍とは性格が違うものです。 別に言えば在韓米軍は韓国一国だけのためであり、在日米軍はアジア数十ヵ国のためにあるという違いです。 従って次のような疑問が湧きます。 もし北朝鮮が侵略する構えを見せると直ちに在日米軍が総出動するという体制をとるということにすれば、韓国に米軍基地を置く必要がなくなるし費用も節減できるではないか。

 だからアメリカ国内では、1970年代から韓国から米軍撤退してもいいじゃないかという主張が繰り返されてきました。 トランプ大統領が「自分たちは在韓米軍に天文学的な額の資金をつぎ込んだ」というのはその通りで、それだけ高い費用をかける価値があったのか、あるいは米軍駐留がアメリカにどれだけの利益があるというのかという計算をしています。 だから計算が合わなければ彼も韓国からの撤退を考えているものと思われます。

 ところで話はさかのぼり、1950年6月25日に北朝鮮が韓国を侵略し、朝鮮戦争が始まりました。 この時にアメリカはすぐさま反応して軍事行使を決意し、国連安保理事会は「大韓民国に対する北朝鮮からの武力攻撃は平和への侵害である」という決議を採択しました。 

 ここでアメリカはなぜ軍事行動を決意し、数十万もの大軍を朝鮮半島に派遣したのか? つまりこの時アメリカは自国にどういう利益があると思ったのか? という問題です。 平和を守るためとか、侵略が許せない、あるいは国連決議があったからなどの理由もあったでしょうが、それよりも自国に利益がある、あるいは自国の利益を侵害されていると思ったから大軍の派遣を決定したと考えるのが自然です。

 その時のアメリカにとって、利益とは何か? これにはいろいろ説がありますが、私はもう一つピンと来ないというものが多いです。 そのなかで成程これなら納得できそうだというものを紹介します。

 アメリカは1950年1月に朝鮮海峡にアチソンラインを引きます。 これは不後退防衛線と言われるもので、どんなに戦況が悪化してもこの線以上絶対に後退しないという意味です。 北朝鮮の金日成は、アメリカはこのアチソンラインを越えて軍を進めず朝鮮半島に介入しないことを表明したものと受け取り、朝鮮戦争を決意したのでした。

 同じような不後退防衛線はヨーロッパにも敷かれました。 それはドーバー海峡です。 これはソ連をはじめ共産軍が侵略して来たら米軍は一旦後退して体制を立て直す必要が出てくる可能性がある、しかしそれでもドーバー海峡よりは絶対に後退しないというものです。 こうなると西ドイツなど西ヨーロッパ諸国が、もし共産軍が押し寄せて来たらアメリカ軍はドーバー海峡を渡って逃げるのではないか、と思うでしょう。 つまり不後退防衛線の外側に置かれた国はアメリカに見捨てられるのではないかという不安があったのです。 そこでアメリカは、不後退防衛線の外側にあっても我がアメリカはあなた方を絶対に守ると言います。

 ここでアチソンラインを思い出してください。 東アジアの不後退防衛線であるアチソンラインの外側にあるのが韓国です。 ここでアメリカが韓国を守るという姿勢を示さなければ、ヨーロッパの不後退防衛線の外側に置かれた西ヨーロッパ諸国はやはりアメリカは自分たちを守ってくれないという不信感を持つことでしょう。 だからアメリカは不後退防衛線の外側の国であってもアメリカは必ず絶対に守るという姿勢を示すことによって、西ヨーロッパ諸国の信頼を維持しようとしたのです。

 ここで、朝鮮戦争でアメリカが大軍を派遣し、その後韓国に米軍を駐留させた理由が分かるでしょう。 それは、西ヨーロッパというアメリカにとってかけがえのない同盟国の信頼を繋ぎとめるというものでした。

 しかし30年前にソ連や東ヨーロッパの社会主義が崩壊し、共産軍が西ヨーロッパを侵略する心配はなくなりました。 従ってヨーロッパでは不後退防衛線は消滅したのです。 とすると、東アジアの不後退防衛線=アチソンラインの外側にある韓国をアメリカが防衛する意味がそれだけ薄くなったということです。 

 東アジアにおけるアメリカの利益がどう変わってきたのか。 全世界からの観点から東アジアを眺めると、今議論されている在韓米軍撤退問題が少し分かりやすくなるのではないでしょうか。

コメント

_ tabinekometal ― 2018/08/13 10:09

>アメリカは不後退防衛線の外側の国であってもアメリカは必ず絶対に守るという姿勢を示す
ああ、なるほど、納得です。この観点は持ってませんでした。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック