にあんちゃん(5)―佐藤忠雄の解説2023/05/14

http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/05/09/9584377 の続きです。

 ちくま少年文庫『にあんちゃん』(筑摩書房 1977年7月)に、映画評論家の佐藤忠雄が次のような解説を記しています。

この日記にもよく出てくるように、安本さんにはとてもまじめないいお兄さんがいて、よく働いているはずなのに、それでも貧しい。 それは安本さんの一家が在日朝鮮人であるためである。 (215頁)

在日朝鮮人というのは、明治時代の終わりに日本が朝鮮を侵略して領土にしてしまってから、めちゃくちゃなやり方で朝鮮の農民から土地をうばったため、職を失って日本にやってきたり、また、太平洋戦争のとき、炭鉱労働者が足りなくなったために、朝鮮からむりやり連れてきて働かせたりした人びとのことであり、また、日本で生まれたその子どもたちのことである。 (216頁)

日本人は、自分たちがひどい目にあわせて故郷にいられないようにしたこの人たちが、しかたなく日本に来ても、いい仕事にはなかなかつけないように差別した。 だから在日朝鮮人は貧しい人が多いのである。 (216~217頁)

 この解説が書かれたのは1970年代で、〝在日朝鮮人は多くが貧困で、その原因をつくったのは日本である″という在日朝鮮人像をそのまま語っています。 これは在日に理解があるとされる知識人たちが、昔も今も有している認識ですね。 

 しかし『にあんちゃん』は貧しくとも明るく元気に生活を送る在日朝鮮人少女が書いた日記であり、後に少女はこの当時のことについて「日本人に対する感恩の情」を持っていると語っています。 小学生が書いた日記ですから、作者のこのような感性をそのまま素直に読むべきであって、作品の背後に「日本の朝鮮侵略」とか「日本がむりやり連れてきて働かせた」というような朝鮮史像を読み込むものではないと考えます。

 佐藤忠雄の解説は、在日朝鮮人少女の日記『にあんちゃん』の価値を落としているように私には思えます。 (終わり)

にあんちゃん(1)―在日朝鮮人少女の日記 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/04/21/9578840

にあんちゃん(2)―物議を醸した部分 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/04/26/9580277

にあんちゃん(3)―やはり作者は在日朝鮮人 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/05/04/9582750

にあんちゃん(4)―なぜベストセラーになったか http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/05/09/9584377

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