『韓国はどれほど日本が嫌いか』 (4)2013/08/09

北朝鮮の長けた心理戦

 武貞さんは、北朝鮮が心理戦に長けていることを強調します。「心理戦」とは、「相手の心理を利用して、外交における交渉を有利にもっていくことや、軍事のおける優劣を逆転して勝利をおさめること」をいいます。

北朝鮮は2012年12月1日「十日から二十二日のあいだに人工衛星を打ち上げる」と通知をした。12月8日、朝鮮宇宙空間技術委員会報道官が「一連の事情が生じ、発射時期を調整する問題を慎重に検討」と述べたとき、「一連の事情」という正直な報道に世界は驚いた。北朝鮮が国威をかけて打ち上げるつもりのミサイルに故障が生じたかもしれないと、外部の人々は驚いた。    12月10日になると「打ち上げ予定日を12月29日まで延長する」と発表した。「東倉里(トンチャンリ)発射場でミサイル修理作業中」「発射台を幕で隠している」と、報道が極めたとき、12日、三段のミサイルが飛び、発射は成功した。国際社会では「裏をかかれた」との声さえ上がった。 ‥‥韓国では「北朝鮮のミサイル発射は延期したようだ」と説明していた政府幹部の情報収集能力に批判が集中した。北朝鮮は心理戦を敢行して、韓国側の情報処理のミスを引き出したのである。(166頁)

2013年1月になると、核実験準備の動きが活発になった。北朝鮮国防委員会は1月24日、「長距離ロケットも高い水準の核実験も、米国を狙うようになる」と報道し、核実験を示唆した。しかし2月9日、韓国との窓口の祖国平和統一委員会のサイト「わが民族同士」は、「米国などは北朝鮮が三回目の核実験をすると早合点している」と書いた。祖国平和統一委員会は統一戦線部傘下の機関であり、北朝鮮では北朝鮮の公式機関と発表している。「早合点」という言葉を聞いて、国際社会は核実験が遠のいたのではないかと報道した。その直後の2月12日に北朝鮮は核実験を実行したのである。‥‥韓国政府、韓国社会を熟知しているのが北朝鮮なのである。(166~167頁)

 このように「外部が誤った判断をしそうなネタを北朝鮮が準備し、日米韓の情報収集機関のミスを誘うのは心理戦の一つ」(167頁)です。北朝鮮の心理戦は最近のことではなく、かなり以前から行われています。

金日成主席時代の1986年、「主席が死去した」という噂が飛び交った。北からは特異な放送が聞こえ、三八度線の北に「弔旗」が」見えた。「死去情報」は世界を駆け巡り、」韓国軍が正式発表した。一週間後、モンゴルのバトムンフ書記長が北朝鮮を公式訪問し、空港で金日成主席と抱き合う映像が、このときに限ってその日のうちに世界に配信された。韓国国防軍の失点となった。八〇年代の心理戦である。(170頁)

 これまで北朝鮮に何度も煮え湯を飲まされた韓国が、北朝鮮の心理戦になぜ引っかかるのか? 武貞さんは次のように分析します。

韓国軍当局は詳細な北朝鮮情報をもっており、「ミサイル発射を延期したが、年内に発射する考えだ」と北の担当者の「心づもり」にまで言及したことがある。韓国軍が北の内部の話をなぜ知っているのだろうか。言い換えれば、韓国は北朝鮮の偽情報作戦にかかりやすいのである。(169頁)

 北朝鮮をよく知っていると思い込んでいるし、実際にある程度は知っているから、逆に北の心理戦に引っかかりやすいことのようです。このように韓国は北朝鮮の心理戦に完敗しているのですが、困ったことに韓国がこれに危機意識を持たず、むしろ北朝鮮への同情が広がっていると武貞さんは論じます。

問題は、このような北朝鮮の韓国に対するあの手この手の戦術を、韓国ではあまり問題にしていないことだ。北朝鮮の韓国社会に対する揺さぶりは、長期的な北朝鮮の戦略に基づいたものであることを、韓国の人々は認めようとはしない。   経済が困窮し、疲弊した指導部が、三八度線の北だけでも何とか温存したいと汲々とし、心理戦を展開していると、韓国政府は見ている。やさしい手を北朝鮮に差し伸べれば、北朝鮮は一挙に和解に向けて、心を開くにちがいないと韓国人は考える。 ‥‥北朝鮮主導の統一という戦略に立って、韓国社会に懐柔策を繰り出していることには、韓国人は無関心である。‥‥北朝鮮に対する同情論が広がりつつある。(170~171頁)

 韓国は北朝鮮への警戒心をなくしつつあるのです。そのせいでしょうか、韓国軍の綱紀の緩みがかなり進行しているようです。艦艇に乗り込んだ兵士や北の最前線の哨所で哨戒に立つ兵士が携帯電話を持ち込み、家族や恋人と通話していたという話にはもうビックリ。あるいは国防広報支援隊(別名 芸能兵士)が、公務中に飲酒・買春・恋人とのデートをしたことが発覚し、芸能兵士制度が廃止されるという報道にもビックリ。

 韓国は一方では「歴史を反省しない」日本への警戒心を高めています。最も警戒しなければならない北朝鮮に対しては武装解除状態になりながら、むしろ軍事交流を深めねばならない日本への警戒ばかりが高まるという極めて困った状況になっています。

 ひょっとしたら、これが北朝鮮の心理戦の最大成果と言えるのかもしれません。

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