済州島4・3事件の赤色テロ(6)―評価は公平に2018/07/10

 済州島4・3事件をどう評価すべきかについて、拙論は「4・3事件の武装蜂起を民主化運動ととらえ、革命側(南朝鮮労働党や武装隊)をまるで民主化勢力のように扱う解説が見られる。 しかしそれは余りにもバランスを失っている」としました。 これをもう少し話したいと思います。

 この事件の評価の典型例は、朝鮮近代史研究の藤永壮さんが書いた次のような説明です。

「済州島4・3事件」は、1948年4月3日にはじまる済州島民の武装抗争と、これを理由に警察・軍・右翼青年団などが引き起こした一連の住民虐殺事件として知られる。‥‥ 韓国の歴代政権は住民虐殺の実態を覆い隠そうと、犠牲者に「アカ」のレッテルを貼りつけけたため、韓国ではこの事件について語ること自体が長くタブーとされてきた。 (『朝鮮史研究会論文集37』所収 「書評 『済州4・3研究』」 1999年10月 198頁)

 このように藤永さんは警察等による住民虐殺(白色テロ)を特筆しますが、革命勢力側からの住民虐殺(赤色テロ)については口をつぐんで単に「済州島民の武装抗争」と記すのみです。

 そして「韓国の歴代政権は住民虐殺の実態を覆い隠そうと、犠牲者に『アカ』のレッテルを貼りつけた」と記します。 「アカのレッテルを貼り付けた」のは事実ですが、この4・3武装蜂起を計画・主導したのが南朝鮮労働党(南労党)という共産主義者組織なのですから、「アカのレッテル」は必ずしも間違いではありません。

藤永さんは、4・3事件は南労党が島民を巻き込んで引き起こした暴力抗争であるという、一方の事実を記しません。 つまり片方の暴力を取り上げて、もう片方の暴力は語らないという態度をとります。 なぜならば両方の暴力を取り上げることは、

このような枠組み(双方の暴力の不可避性を共通して認定すること)からは、民族の解放と統一を目指し、自ら歴史を創造していこうとした済州島民衆運動のダイナミズムを視野の外におくことになるのではないか。(同上 207頁)

と主張するからです。 しかしいくら考えても、住民を虐殺し警官等の家族まで殺害するような赤色テロが「自ら歴史を創造していこうとした済州島民衆運動」と言えるのかどうか。 そしてそれを黙っているということは、藤永さん自身の言葉を借りれば、赤色テロによる住民虐殺等の「実態を覆い隠そうとした」と言えるものだと私は考えます。

 また金時鐘さんは『朝鮮と日本に生きる』(岩波新書 2015年2月)の「はじめに」「あとがき」で次のように書きます。

「4・3事件」は‥‥4月3日の武装蜂起に端を発し、その武力弾圧の過程で3万人を越える島民が犠牲になる。 この血なまぐさい弾圧に投入された警察・軍・右翼団体は、おおむね、植民地期に日本がつくり育てた機構や人員を引き継ぐ存在であったことを忘れてはならない。つまりそれは、ほかならぬ日本の植民地支配の申し子たちであった。(ⅱ頁)

反共の大義を殺戮の暴圧で実証した中心勢力はすべて、植民地統治下で名を成し、その下で成長をとげた親日派の人たちであり (291頁)

 金時鐘さんは、本の総まとめである「はしがき」「あとがき」でこのように白色テロだけを取りあげて、自分の所属した南労党が犯した赤色テロには全く触れていません。 そして警察・軍・右翼を「日本の植民地支配の申し子」「親日派」だと厳しく批判します。 金時鐘さんには「植民地支配の申し子」「親日派」ならば老親・妻・子供も含めて家族を殺すような赤色テロは当然だとする思考があるのではないか、と思います。

 4・3事件は双方がともに悪魔と化して狂気の沙汰を繰り返しました。 住民は中立の立場に立つことが出来ずに双方から敵か味方かを迫られ、お互いの殺戮に巻き込まれて多数の犠牲者を出しました。

 4・3事件から70年経った今は一方を善、他方を悪とするのではなく、両者ともに邪悪だったと公平に取り扱って、ただひたすら鎮魂・慰霊のみをすべきではないでしょうか。

済州島4・3事件の赤色テロ(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890

済州島4・3事件の赤色テロ(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622

済州島4・3事件の赤色テロ(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/23/8900976

済州島4・3事件の赤色テロ(4)-警官家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/30/8906338

済州島4・3事件の赤色テロ(5)―右翼家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/05/8909472

韓国映画『チスル』        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/01/7332806