慰安婦問題―韓国政府には当事者能力がない2015/03/09

 慰安婦問題に関して、日韓の外務省局長級会談が続いているようです。 韓国のマスコミが日本から具体的な提案があったと報道し、それを引用する形で日本の産経新聞が報道しました。 http://japanese.yonhapnews.co.kr/relation/2015/03/08/0400000000AJP20150308000400882.HTML http://www.sankei.com/world/news/150308/wor1503080015-n1.html

 この産経記事のなかで、韓国政府の一貫した立場が簡潔に述べられています。

韓国は「被害者が納得できる措置」を取るよう要求。

 ここでは「被害者」とありますが、実際には‘韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)’という市民団体です。 つまり韓国政府は「わが国の挺対協が納得できる措置」を日本政府が取れと主張しているのです。 これはこの産経記事だけでなく、毎日新聞の澤田克己記者が書いた『韓国「反日」真相』(文春新書 2015年1月)のなかの次の記述と一致します。

(民主党政権時代の2102年に具体的な)解決策を韓国政府に提示した。この案は、佐々江賢一郎外務省事務次官が訪韓して伝えたため、韓国では「佐々江案」と呼ばれている。    日本側は「これ以上は絶対に無理」と伝えたが、韓国側は受け入れなかった。当時、韓国の外交通商省(現外務省)の東北アジア局長として受け入れ拒否を強く主張した趙世暎氏は「日本の国家責任を認めていない案を、被害者と関連団体が受け入れるとは思えなかった」と理由を語る。       関連団体とは挺対協のことだ。一市民団体であるはずの挺対協が、事実上拒否権を持つにいたったということだ。 (116~117頁)

 すなわち韓国政府は、自分が慰安婦問題に関して日本とは単なる交渉役に過ぎず、最終的決定権は市民団体にあるという立場を表明しているのです。

 いわば市民団体は社長、韓国政府は営業社員です。 営業社員が「社長が何を考えているのかよく分からないので、社長の気に入りそうな案をそっちで考えて作ってください。」と言いながら取引先と交渉しているようなものです。 さらに営業社員は取引先が社長の気持ちを汲んでくれないと、関係のない周囲の人たちに不満をぶちまけているのです。

韓国政府は慰安婦問題に関して自分に当事者能力がないことを認めているのですから、日本政府はこんな韓国政府を相手にいくら話し合っても意味がないのです。

【拙稿参考】 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/12/28/7525901

コメント

_ 無名氏 ― 2015/03/09 21:45

2012年10月に政府間協議になって2012年11月18日∼20日の間に日韓頂上会談で妥結しようとしたが、その直前の11月16日に日本の衆議院解散で失敗に終わったという説もあります。
李明博大統領の回顧録『大統領の時間』に収録された内容。
当時政府間交渉については諸情況を調査しなければならないようですね。

_ 辻本 ― 2015/03/10 05:50

 2012年11月に日韓首脳会談について、当事者である李元大統領と野田元首相とでは、全く食い違っています。

 どちらが正しいかについては、おそらく野田元首相の方が正しいと思われます。

 下記の記事の中に、野田元首相の次のような発言があります。

>回顧録の記述が事実かを野田前首相に確認すると、「2012年11月に李大統領と首脳会談の予定はなかった。水面下で様々なやり取りがあったが(回顧録の記述は)自分が承知している内容とはかなり違いがある」との回答だった。

 http://ironna.jp/article/1059

_ 無名氏 ― 2015/03/10 15:27

はい、 同意します。 それは多分大韓民国側で推進した案であり、当時交渉はかなり進捗されたが合意に到達したのではないようです。もし合意になったのなら、首脳会談直前に衆院を解散しなかったでしょうね。

_ 辻本 ― 2015/03/11 02:58

 韓国政府は、日本政府に対しては挺対協が納得する案を作れという要求ですから、具体的な解決案を持っていないでしょう。

 これは当時もそうだったし、現在もそうであると言えます。

 毎日新聞の澤田記者は、その著書のなかで次のように記しています。

>日韓関係を担当する日本の外交官からは、「韓国はゴールポストを動かす」という不満を聞くことが多い。歴史問題の解決策に合意したはずなのに、後になってから「やっぱりあれではダメだ」と言い出すということだ。(194頁)

_ 無名氏 ― 2015/03/11 05:52

まあ、そうです。 今まではその戦術が韓国側に有利な方式だったからです。非紳士的だとできますが、外交問題に真に公平というものが存在するかは疑問です。

ところが、慰安婦問題をはじめとするいわゆる民間人賠償問題の未解決は大韓民国政府側でも負担な事案なので結局は現実的妥結策を模索するようです。憲法裁判所でも政府の消極的な対応を違憲と判決を下しました。
「佐佐江案」については民間でも肯定的な反応があるので、現実的な妥協案として有力な状況ですね。

_ 辻本 ― 2015/03/12 05:25

>大韓民国政府側でも負担な事案なので結局は現実的妥結策を模索するようです
>「佐佐江案」については民間でも肯定的な反応があるので、現実的な妥協案として有力な状況

 韓国のニュースはできる限り読むようにしていますが、こんな情報は初めてです。
 私の印象では、日本に対して全く妥協しないということです。「現実的妥結策」も、「肯定的反応」も、「現実的な妥協案」も、おそらくあり得ないと思われます。
 たとえ一部にあったとしても、表面には出て来ず、大勢にはならないでしょう。

_ 無名氏 ― 2015/03/12 22:50

勿論、体感はお互いに違うはずです。
ただし、私見ですが、日韓関係は複合的なので単に反日基調で全てのことを説明することは難しいのです。現実的に対日関係の悪化は韓国側に有用ではないです。結局は名分と実利の妥協点を追求することに立つと思います。
過去日韓国交正常化の事例を見れば当時に激しい反対があったが韓国政府は結局妥協したから、今後も可能性があるでしょう。対中国関係や対北朝鮮関係で日本の協力は明確に必要しますから。

_ 辻本 ― 2015/03/13 08:30

>現実的に対日関係の悪化は韓国側に有用ではないです。結局は名分と実利の妥協点を追求することに立つと思います

 韓国政府は、慰安婦問題では他にどんな不利益があろうとも、原則を貫いて日本に要求しています。

 その原則というのは具体的なものではなく、挺対協という市民団体が満足するものということです。市民団体ですから、自ら責任を取ることなく、日本に対して無限大の要求を掲げます。

 韓国政府は、日本が絶対に飲めない要求を掲げる挺対協の意に沿う対日外交を続けるものと思われます。

 それは、「有用」「実利」「妥協」は考慮しないということです。

_ (未記入) ― 2015/03/28 19:12

韓国政府に当事者能力が無いというのは、面白いと思います。そうなると韓国政府は、外交能力が無いことになりかねない。条約そのものが意味がない。

彼らは、日韓併合等の国家間の条約が無効と平気で主張するのは、このあたりのセンスから来ているのでしょうか。

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