韓国の「満州我が領土説」2022/10/27

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/10/20/9534539 の続きです。

 前回で韓国では「対馬我が領土説」が跋扈している話をしました。 ついでに言うと、韓国ではもう一つ「満州は我が領土」と考えている人も少なくありません。 古代の高句麗・渤海の故地である満州は、元々わが国の土地だというものです。 最近、中国の博物館が韓国歴史年表から高句麗・渤海を省いていたことが判明して韓国側が強く抗議したのは、韓国では「満州領土説」が広まっているからです。  https://m.khan.co.kr/world/world-general/article/202209131927001

 1992年の韓中国交正常化後、中国東北地区(旧満州)に旅行する韓国人が多くなりました。 高句麗の首都であった集安にある博物館にも韓国人が見学に訪れます。 その時に「この満州は我が領土」と大声を張り上げる韓国人が何人もいたといいます。 中国には朝鮮族がいて、当然ながら韓国語を解しますから、「満州わが領土」を聞きつけて問題になったことがあったようです。 この博物館では一時、韓国人の出入り禁止になったという話を聞きました。 ですから日本人がこの博物館に行くと、韓国人か否かを尋ねられるそうです。

 さらに満州での韓中間の領土問題いえば、白頭山(中国名は長白山)に触れないわけにはいきません。

 2007年に中国の長春で開かれたアジア冬季競技大会で、女子ショートトラックリレーで銀メダルを取った韓国選手が表彰台で「백두산은 우리 땅 (白頭山は我が土地)」というプラカードを掲げたため、大きな騒ぎになったことがあります。

「白頭山」は朝鮮民族の聖山とされていますが、同時に中国では「長白山」という名前で中国満州族の聖山でもあります。 だから長春のアジア冬季競技大会では、長白山(白頭山)で聖火が採られたのでした。 韓国の女子選手たちは白頭山が中国のものだとする大会に我慢できず、抗議したということですね。

 今の白頭山は頂上を境に中国領と北朝鮮領と二つに分かれていますが、中国と北朝鮮の間には国境紛争はありません。 両国が仲良く白頭山(長白山)を分け合っていますね。 そこに韓国の若い女性選手たちが、世界に中継されるメダル授賞式で「白頭山は我が土地」を堂々と掲げたのですから、かなりの問題になりました。 結局は、未熟な若者が犯した軽率な行動ということで騒ぎが収まったという話を聞きましたねえ。

 さらに「満州」といえば、そこには中国朝鮮族がいることを忘れてはなりません。 人口は2010年調査で約180万人とされています。 しかし韓国人は朝鮮族を高句麗・渤海と結びつけて考えておらず、同じ民族同胞という意識が希薄なようです。 極端に言うと、満州という土地は我が領土だが、そこに住んでいる朝鮮族は同胞とは思えない、ということでしょうか。 ただし例外があります。 詩人の尹東柱です。

 尹東柱の詩は韓国の教科書に出てきますから、韓国人は尹を自分たちと同じ民族同胞だと考えています。 ところが実は尹は「満州」の間島出身であり、尹の生家と墓は中国吉林省延辺にあり、中国当局によって保存されています。 そして中国側は尹を我が国の朝鮮族であり中国国籍の愛国詩人であると評価しています。 これに対し韓国側は、尹は中国人ではなく韓民族の詩人だとして激しく反発しています。 しかしこの反発が今のところ「満州韓国領土説」に結びついていません。 そこがちょっと理解できないところですね。

 つまり「満州韓国領土説」と「中国朝鮮族」と「尹東柱」、韓国ではこの三つは繋がっていないのです。 韓国人は領土と民族を見る視点がわれわれとは違う、と考えればいいのかも知れません。 そうならば、韓国人の民族性を見る上で参考になるでしょう。

 いずれにしろ我々にとっては、「満州韓国領土説」は「対馬韓国領土説」と同様に韓国にはそんなことを言っている人がいるんだなあと、軽く触れるだけにしておけばいいことです。 まともに取り上げて賛成とか反論・反駁なんてすれば、火の粉が飛ぶでしょうから。

 高句麗・渤海および尹東柱については拙ブログで下記のように論じましたので、ご笑読いただければ幸い。

【拙論参照】

高句麗は韓国か、中国か      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/09/22/1812668

高句麗―韓国か中国か       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/09/28/3787613

高句麗は北朝鮮でもあり中国でもある http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/06/09/6849374

高句麗広開土王碑は全世界人民のもの   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/08/22/6954699

韓国のマスコミが語る「中国の歴史歪曲」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/10/17/5420260

南北国時代            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/18/6814446

尹東柱は中国朝鮮族か韓国人か   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/21/8075000

尹東柱の国籍は?         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/03/13/9356544

尹東柱と孫基禎の国籍について   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/07/18/9399145

コメント

_ 海苔訓六 ― 2022/10/27 14:54

西尾幹二という保守系の評論家が以前朝鮮人の小中華思想とか事大主義根性を批判して『朝鮮人は下に見ている日本人には遠慮なく文句言うけど上に仰ぎ見ている支那に対しては文句を言えない』みたいなことを書いていて
『胡散臭い主張だな』と思ったのを覚えていますが、
今回のブログ記事を読むとショートトラックの朝鮮人選手が支那相手に『我が国の領土』というプラカード掲げるエピソードが紹介されていたので、やはり俗論だったのだろうと感じました。
少し前のオリンピックの男子サッカー銅メダル決定日韓戦で、日本が負けたときに韓国の選手が『独島は我が国の領土』というプラカード掲げて問題になってますけど支那に対しても同じことをしているわけですから『朝鮮人は下に見ている日本人には遠慮なく文句言うけど上に仰ぎ見ている支那に対しては文句を言えない』という理屈は通らないだろうと思います。
サッカー男子U-18アジア大会決勝で支那を破った際にも現代高校の選手が支那を破った証の優勝カップを踏みつけるパフォーマンスをして観客の支那人が激怒したエピソードもあります。
http://kagami0927.blog14.fc2.com/blog-entry-3620.html
やらかしたことは最低なので擁護するつもりはありませんが少なくとも支那に遠慮して萎縮していたら支那人の衆人環視の中でこんなことしないだろうと思います。
私が韓国観光したときに現地ガイドしてくださった日本語の出来る朝鮮人大学生と話して一番心に残った朝鮮人の国民性は『朝鮮人は権威主義で事大主義根性が強いけれども、同じくらい反骨精神も強いのが特徴だ』という言葉でした。
日本に対して反日プラカードパフォーマンスするけれども支那に対しても反中プラカードパフォーマンスしたり優勝カップ踏みつけて挑発するのも、どちらも朝鮮人の国民性だと思います。

韓国プロ野球のSKワイバーンズで活躍した門倉健さんがSKワイバーンズ在籍時代にチームメイトの代表捕手(たぶん朴勍完選手だと思う)から『日本の野球を教えてください』と頼まれたエピソードをYouTubeで話しています。
https://youtu.be/JmrbEsNgZ0E

この中で朴勍完選手は『俺たちは日本の野球を、日本の野球選手をすごくリスペクトして上にみている。決して見下したり下にはみてないんだ。ただ、代表戦で自分達の力がどの程度か?一番良く自覚できるのが日韓戦なので、そこで日本に勝つと心がワーッ!と沸き上がってマウンドに国旗立てたりしてしまうんだ』と話しています。
門倉健さんも『朝鮮人選手は権威主義傾向は強いので、こちらの日本での実績を良く調べていて、ある程度実績のある僕みたいな日本人選手の話やアドバイスは素直に聞いてくれる。逆に実績の無い日本人コーチの話は聞かない』というようなコメントしてますね。
要するに小中華思想とか事大主義根性というのは確かに朝鮮人は持ってるのでしょうけど、それと同じくらい反骨精神も強いのが朝鮮人なのだろうと感じました。

_ citywall ― 2022/10/28 10:33

韓国では、「満洲全域」への領有権主張というのはほぼなくて、高句麗、渤海時代への「憧れ」レベルに留まると思います。
その一方「間島」領有権主張というのは、現実感がある形で主張されていると思います。朝鮮・清との交渉で未確定だった「間島」領有権を、1907年、日本が韓国を保護国にしていた時に、日本と清で勝手に国境画定交渉して「間島=清領土」と決めてしまったと。
日本に強制された条約やなんかはもともと無効だったんだ、というのが現在の韓国の主流の考え方ですから、韓半島統一後は、確実に中国との領土問題になり、再交渉するという話になってくると思います。それには、北朝鮮が中国と決めてしまった白頭山の国境線も含まれてくると思います。

_ 辻本 ― 2022/10/28 12:13

>>韓半島統一後は、確実に中国との領土問題になり、再交渉するという話になってくる

そうはならないでしょう。
理由は次の通りです。

北朝鮮と中国は1962年に「朝中国境線条約」(中国側の呼称は「中朝辺界条約」)を締結しています。
内容は公表されていませんが、鴨緑江と豆満江を国境とし、白頭山は頂上で国境を分けるものと推定されています。
北朝鮮と中国との間には国境紛争が全く起きていませんので、おそらくその推測の通りでしょう。

 韓国が朝鮮半島の統一を中国にも認めてもらおうとすれば、この条約を尊重することになると思われます。

_ citywall ― 2022/10/28 14:43

現実的には厳しそうですね。中国の現体制が崩壊するでもしないかぎり・・・。
まあマスコミは色々言い続けるでしょうね。

北の国境条約統一後に効力があるか(東亜日報)
https://www.donga.com/news/Politics/article/all/20080807/8612987/1

_ 竹並 ― 2022/10/28 16:42

例えば、インドの正式国名は「バーラト」というのですが、「ヒマラヤ山脈の南」のインド半島全域は、色んな種族が(Mass(群衆)としては…)いるにせよ、国民国家(Nation-State)としては一体の共同体(脚注 1)なんだよ、という意味の「バーラト」だと理解しております。

私見によれば、「白頭山の南」が、一体の国(共同体)だというのは、「明治維新」の後、李氏朝鮮に起こった「国民国家」の運動を(少なくとも、結果的には)支える思想となっているのではないでしょうか?

朝鮮半島には、歴史的に鴨緑江、白頭山の北(=満洲平原)からの狩猟・遊牧種族の流入があり、半島の南北(39度線?)では種族(ethnicity)が異なる、半島内部でも支配層と常民の間で種族が異なる(脚注 2)、という状況があり、そこから共同体(国民国家)を作り上げるという、過去の営為から(その韓国人スケート選手の行為は)逸脱するものではないか、と感じますね。


[脚注 1]
「民族自決」の「自決」は「Self Determination」で「自決」が直訳なのですが、その前にある「民族」がどういう単語に当たるかということは、欧米言語圏の人には怖すぎて書けません。
というのは、「Nation」なのか「Ethnic」なのか、まさにこのこと自体が殺し合いの理由になるのです。

「Nation」というのは、主権国家を持つ意志と能力を持つ集団のことをいいます。
「Ethnic」は、主権国家を持つ意志と能力を持たない集団です。

人種なら、肌の色で区別がつきます。
部族なら血統、つまり誰と誰が親子関係にあるかという血縁関係で区別がつきます。
自然科学的に説明できることです。

けれど、「民族」という場合、「Nation」なのか「Echinic」なのかで、最終的には実力で解決するしかないのです。
つまり殺し合いで決着をつけるしかないのです。

このことは「戦争」にもなりません。
戦争というのは決闘です。
ですからルールがあります。

ルールがないケンカや殺し合いは、戦争ではなくて紛争です。
だから民族「戦争」という言葉は、ありません。
すべて民族「紛争」です。
     ・・・・・
実際、漢民族のみが「Nation」で、チベット、ウイグルは「Ethnic」であるという政策を中共(=PRC)は推進中です。

昔は主要五大民族と言っていたのですが、今は漢民族だけが「Nation」で、あとは少数民族の「Ethnic」だという政策を江沢民(=党・軍事委員会・国家主席)あたりから強化しています。
(pp.19 - 21,「歴史戦は『戦時国際法』で闘え」倉山満、2016.4.25.)


[脚注 2]
「皇帝たちの中国」第4章 第5回「李成桂は女真人・国名は明が命名」宮脇淳子 田沼隆志(動画 2:30 - 5:50)【チャンネルくらら】
https://www.youtube.com/watch?v=7wnq9tnIq0k

_ 辻本 ― 2022/11/01 07:45

>半島内部でも支配層と常民の間で種族が異なる

 朝鮮の支配層は「両班」といいます。
 両班と常民との区別は法的に決められていないし、種族の違いでもありません。
 その境界は極めて曖昧です。
 ですから常民でも両班になることができます。

 両班になる方法で一番よく使われたのは「族譜を買う」です。
 お金に困った両班の家系図(族譜)に、金儲けした常民が自分の一族を編入させることです。
 これによって、その常民は両班を名乗るようになります。
 もう今や韓国でも在日でも、私は両班ではありませんなんて言う人はいないでしょう。

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