パク・チョンスで見る韓国人の考え方―『中央日報』2022/10/06

 ちょっと古いですが、韓国の『中央日報』2022年8月2日付けに、「日本・小田原で起きたこと」と題するコラムがありました。    https://www.joongang.co.kr/article/25091383   

 論者は韓国の円仏教(仏教系の新宗教団体)の教務であり、「チョンス分かち合い実践会」理事長であるパク・チョンス(朴清秀)さんです。 検索してみますと、1937年に全羅北道で生まれ、祖母の誘いで1945年に円仏教に入信、以降ハンセン病やカンボジアでの奉仕活動などに従事し、ノーベル平和賞の候補にも挙がったことがあるそうです。 

 パクさんは、2006年に日本の小田原で開かれた「道徳再武装(MRA)」国際大会に出席して発表しました。 「道徳再武装」なんて初めて聞きましたが検索してみますと、道徳と精神を標榜する国際的な組織で100年の歴史があるようです。 彼女はこの大会での思い出を語ったのが今回の『中央日報』のコラムです。 16年も前のことを鮮明に覚えているのですから、頭脳明晰な方ですね。

 ところでこのコラムでは、韓国人が日本に対してどう考えているかについて、分かりやすく端的に説明しています。 韓国人の発想法というか考え方というか、理解するにはちょうどいいと思って紹介します。 おそらく読んでみて、これはおかしいし間違っているという感想を持たれる方が多いと思いますが、彼らの実際の文章に接してその思考パターンを知ることも重要でしょう。 

日本と韓国はとても近い隣国です。 しかし相手国よりも強い国は常に弱い国を支配したがります。1910年、韓日両国にはとても悪い歴史が始まりました。 その当時、日本は韓国に比べてさまざまな面でとても強かったようで、その時代を生きた日本の人々は韓国を占領しました。 1945年韓国が解放されるまでの36年間、植民地として統治し、韓国の人々を抑圧して苦しめました。

私は幼いころ、その時の歴史を経験しました。最も強烈な記憶は、自分たちの言葉と文章を書くことができないことでした。 そして各自の姓と名前さえも日本語に変えなければなりませんでした。 そして私たちが栽培した米はすべて奪われ、韓国人は油を絞り出した豆かすで命をつないでいかなくてはなりませんでした。 私の母、祖母は金属器すら奪われるまいと奥に隠すことに苦心しました。 若い男性は戦場に連れて行かれて命を失い、いま韓国で挺身隊と呼ばれるその時代の若い女性たちは日本軍慰安婦として連れて行かれました。

 後半で並べられた歴史のうち、事実といえるのは金属器の供出くらいですかねえ。 「豆かすで命をつないだ」のは解放後の話で、植民地時代の話ではないと思うのですが。

 他の「自分たちの言葉を書けなかった」 「姓名を日本名に変えさせられた」 「米をすべて奪われた」 「男は戦場に連れて行かれて死んだ」 「挺身隊と呼ばれる若い女性が慰安婦として連れて行かれた」は、「歴史事実」とするには疑問であることはおそらく周知のことと思います。 これは「歴史事実」に対して、日本人と韓国人とでは認識が違っているからです。

 日本では歴史資料を丹念に収集し検討したうえで「歴史事実」を探るものとされていますが、韓国では特に日韓関係史ではあらかじめ定まった歴史があって、それを根拠付けるのが「歴史事実」ということになります。 別に言えば、日本では新たな歴史資料が発掘されてそれまで信じられてきた「歴史」が揺らぐなんてことは珍しくないですが、韓国では特に日韓関係史が侵略の歴史であることが揺らぐなんてことはあってはならず、侵略の歴史を証明するためのものが「歴史事実」です。

 別に言えば、日本では「歴史事実」は個々の各資料を緻密に検証していかねばならないということに対し、韓国では日本の侵略史を示す「歴史事実」をまず最初に知らなければならず、今さら事実の検証というのは侵略を否定しようとする意図があるからだ、ということになります。 日本人は自分たちこそが正しいと思うでしょうが、残念ながら世界では慰安婦問題等に見られるように韓国の方が理解を得られています。 (拙ブログ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/07/05/9506190 参照)

 なお日本人の中でも、「韓国はウソつき」を証明するために偏った資料ばかりを集める人がいますね。 これは韓国人が「侵略の歴史」を証明するために、これまた偏った資料を集めているのと同じレベルです。 そしてどちらも、「真実はこれだ!」「相手は歴史を直視していない!」と叫んでいます。 私はこのような日本人を「韓国化した日本人」と呼んでいます。 

日本植民地時代に抑圧されて苦痛を受けた韓国の人々はその全てのものを歴史として記録し、後の人々に語り継いでいます。 そのためこの時代を生きている現在の韓国の人々も胸中深く日本人を嫌って憎悪しているとみることができます。 私もそのような人でした。

 韓国人は歴史を語り継いできたから日本人を憎悪している、これが一般的な韓国人の考え方です。 

その瞬間、相馬さんの隣の席に座っていたケイコさんが急に私のところまでやってきて跪き、上半身をまっすぐにした姿勢で私を仰ぎ見ながら「パク教務、私たちをお許しください。私はキリスト教徒です。イエス・キリストの名の下に私たちの誤った過去に対して心からお詫びし、容赦を求めるのでお許しください」と涙声で話した。すると椅子に座っていた多くの人々が皆一緒に跪き涙を拭いて首をうな垂れた。

とても慌てた私はどうしたらよいか分からなかった。ケイコさんの視線は非常に強烈で、私が発表したすべてのことに一つひとつ言及して容赦を求めた。私は彼女を立たせて懐に引き寄せて軽く叩いた。私は他の人にもそのようにした。

 ここに韓国人が日本人に何を求めているのかが分かります。

 日本の過去の歴史の悪行を告発したパク・チョンスに、ひざまずきながらすり寄って涙声で許しを求める「ケイコ」。 彼女に合わせて周囲の日本人たちもひざまずき、涙を流してうなだれる。

 これに対し、パク・チョンスはケイコたちを抱きながら許しを与える。 

 韓国人が日本人に対してどのような関係を求めているのか、よく分かります。 このような関係に真剣に答えてくれる「ケイコ」のような日本人こそ、韓国人が期待する日本人像なのです。 韓国人が元首相の鳩山由紀夫さんを高く評価する理由も分かりますね。

 韓国では日本に対する「道徳的優位性」がよく議論になりますが、今回の『中央日報』のコラム「日本・小田原で起きたこと」を読めば、その韓国の「道徳」とは一体何なのかを理解しやすいのではないかと思います。

 本稿で言いたいのは、韓国を批判するのではなく、隣国の韓国ではそのような考え方をしているということを知るべきである、ということです。

【追記】

 8月26日付の『プレジデント』で、在韓日本大使館の元公使の道上尚史さんの一文があります。     https://president.jp/articles/-/60883

 韓国人と日本人の思考法について、冷静に分析されています。 一読の価値があると思い、紹介します。

【拙稿参照】

韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/21/9501927

韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(2)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/28/9504029

韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/07/05/9506190

韓国人のアンビバレントな感情 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/01/8690297

韓国の反日感情はいつ形成された? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/08/8698008

35年前における日韓の認識差(1)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/20/8731033

35年前における日韓の認識差(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/26/8734592

35年前における日韓の認識差(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/02/8738535

35年前における日韓の認識差(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/08/8744482

日韓交流は相互理解に役立ってきたか? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/13/8747383

30年前の反日感情と違いはあるか  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/28/8756501

韓国の対日感情は理解が難しい  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/29/8813934

矛盾      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/31/8862743

道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(1)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/03/9428968

道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(2)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/10/9430861

道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(3)https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/17/9432654

「法」に対する日韓の違い―韓国は民主的か?2022/10/13

 韓国は「法」よりも「情」を重視する、だから韓国は「法治国家」ではなく「情治国家」だ、というような考え方は昔からよく言われています。 確かに韓国のニュースや色んな本を読んでいる時、「法」に対して韓国人は我々日本人と違う感覚を持っているようだと感じることが多いものです。 これについては、拙ブログではこれまで下記の【拙稿参照】のようにたくさん論じましたので、参考していただければ幸い。

 これに関して、浅羽祐樹・木村幹『だまされないための韓国』(講談社 2017年5月)に、次のような対談があり、なるほどと思いましたので紹介します。

ところで気になるのですが、一度合意した条約なり、成立した法律なりをひっくり返す振る舞いについて、韓国側でそれを問題視するような意見は出てこないのでしょうか。

浅羽 ―「合意は拘束する」というのが古代ローマ以来の大原則ですが、韓国では「事情変更原則」が優先することが少なくありません。 「合意を結んだ当時とは、民主化したり政権交代があったり新しい司法判断が出たりと、事情が根本的に変わったので、もう一度ゼロベースでやり直しが可能である」と。

木村 ―基本的に韓国の人たちは法律に対する考え方が日本人とは違いますからね。司法積極主義というのですが、「法律は状況に合わせてどんどん解釈を変えていくべきだ」という考え方です。

木村 ―例えば現在(2017年2月16日)の朴槿恵大統領の弾劾についても、野党「共に民主党」の秋美愛代表は「国民の大多数が望んでいるので、憲法裁判所は早く罷免すべきだ」といった発言を行なっています。 日本人の感覚からすれば、政治家が司法に圧力をかけたように思える発言ですが、韓国ではこの発言に大きな違和感は持たれない。

木村 ―例えば国会による大統領の弾劾訴追が、法的にはそれにふさわしくない部分を含んでいて、これを審判する裁判所にとって認めがたいものがあったとします。 そのような場合でも、「国民が望んでいるのだから、裁判所はそれを認容(罷免)すべきだ」という主張は韓国では普通に通用してします。

しかし、そうした司法積極主義をとると、法律の運用のされ方がその都度ブレてしまうのではありませんか?

木村 ―もちろんそう言って反対する人もいます。 ただ韓国社会においてはこうした司法積極主義がむしろ前提になって議論が進んでいます。 だからこそ類似した問題についても、以前と異なる判断が出てきても許容される。

浅羽 ―大半の人はこれで法的安定性が揺らいでしまうとは捉えません。 「その都度立ち上がる新しい民意に沿った歴史の大きな流れ」だと受け止めます。 民意に沿って、より「正しい」解釈が更新されるわけですから、当事者としては社会がより「正しい」方向に着実に前進しているという実感をともなうものとなっています。

木村 ―そうですね。 むしろポジティブに受け止められていて、今回の弾劾を巡る展開でも「国民の命令」という表現が使われています。 そこには「国民の命令」である以上、国家による解釈も必要に応じて変えて然るべきであるという意味も込められています。 (以上29~31頁)

 うーむ、なるほど。 その時の国民の考え方(民意)こそが最高であり、これに「法」も司法も従わねばならないということですねえ。 三権分立の原則に反するような主張も「民意」であれば通る、あるいは外国との条約や合意も「民意」でひっくり返すことができる、それが韓国だというわけです。

 「国民の命令」、これは日本ではなかなか聞くことのない言葉です。 せいぜい「民意の尊重」くらいでしょう。

 韓国人の「民主」についての考え方に対し、どうも違和感を持つのはこういうことなんだなあと思った次第。 別に考えれば、その場その場の国民の気持ちによって国家(行政も立法も司法も)が左右されるのですから、何とダイナミックなことかと感心します。 これこそ「民主主義」だと言われれば、まあそうかも知れませんが‥‥。

【拙稿参照】

元徴用工判決「日本は法的な問題とみなしてはならない」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/12/06/9007579

法に対する思想が根本的に違う日本と韓国 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/11/6570566

法より情を優先する韓国社会       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/16/6575093

伊藤亜人さん 「法」より「惻隠の情」―毎日新聞  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/07/25/9133090

韓国の古代的法規範意識         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/10/27/1873691

韓国の法意識              http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/11/10/1900716

韓国の法意識(続)           http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/11/17/2393593

法を軽視する韓国の民族性        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/09/01/6967936

法を守るという価値観          http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/05/11/1501343

法治国家かどうか疑問の韓国       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/19/7496467

法治主義と儒教             http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/11/23/7500552

英雄を救うために法を変えよ―韓国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/03/25/7597162

朴槿恵の謝罪―親の罪は子の罪か?    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/09/25/6584335

韓国の非常識判決―対馬の盗難仏像  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/02/27/6732313

非常識がさらに非常識を呼ぶ―対馬仏像盗難事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/12/6744868

「賄賂は腐敗ではない」民本主義と法治主義―趙景達 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/02/28/7233914

「賄賂は腐敗ではない」民本主義と法治主義(続)  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/02/7235833

かつて対馬は我が領土と返還要求した韓国2022/10/20

 日本では北方領土・竹島・尖閣諸島の領有権について、ロシア・韓国・中国と争いになっています。 これ以外に日本領土に関して今は問題になっていませんが、ロシアの少数政党が「ロシアは北海道に権利を有している」と発言したり、中国では『人民日報』に「琉球帰属問題は解決していない。沖縄は日本領土とは言えない」と主張する論文が掲載されたりしています。

 これらは当然ながら政府の公式見解ではありません。 しかし国民のレベルでは、ロシアでも中国でもそう考えている人がかなり存在していることは確実です。 こういったナショナリズムを刺激する発言は広がりやすく、時には政府を動かすこともありますので、油断は禁物です。

 韓国でも同じように「対馬は我が国の領土」だと主張する人がいます。 竹島問題にからめる場合が多いですが、対馬韓国領土説を真剣に信じている韓国人は結構います。 具体的な動きとしては、国会議員が対馬返還要求決議案を国会に提出したり、議政府市の市議会では対馬返還要求を議決しています。 民間でも「対馬奪還本部」という市民団体をつくっていますね。 

 これは韓国人でも一部の人たちの主張です。 政府の公式見解ではありません。 ところが70年以上前ですが、韓国は外交ルートを通じて日本に対し「対馬は我が属領だから返還を要求」しました。 つまり政府の公式見解だった時期があるのです。 この事実はほとんど知られていませんが、韓国内では今でも「対馬我が領土説」が根強く残っていますから、これも含めて知っておいた方がいいと思います。

 水野俊平さんが著書のなかでこの「対馬領土説」に触れていますので、これを紹介します。 水野さんは韓国の歴史・文化等について、一般向けにちょっと面白おかしく書いたものをいくつか出版しています。 しかし元々まともな実証主義的研究者ですから、事実関係については信じていいと思います。 『韓vs日「偽史ワールド」』(小学館 2007年3月)の166~177頁に、「第5節 対馬は韓国の領土」という小見出しの一節があります。 このなかから主なものを引用します。

1948年1月、過渡政府(韓国政府の樹立以前なので「過渡」がつく)立法委員会で立法委員60名が「対馬は元々韓国の領土だったのであるから、対日講和会議で返還要求をすべきだ」と提案し、同年8月(韓国政府が樹立された)には李承晩大統領が「対馬島の返還」を日本に要求している。 これに対しては日本側の抗議があったが、9月には韓国の外務部が抗議に反駁する形で「対馬は我が国の属領」とする声明を発表している。 翌年の1月7日には李承晩大統領が新年の記者会見で対日講和会議への参加計画を明らかにする席で、対馬の領有権を重ねて主張した。 

李大統領は昨7日午前10時半、中央庁第一会議室で内外の記者と年頭の記者会見を開き、当面の諸問題に対して、ともに一問一答した。

李大統領: この問題(対日賠償請求)は関係者と協議しなければならないものであるが、私の考えでは壬辰乱(秀吉の朝鮮出兵のこと)まで遡及して請求したいが、だいたい、過去40年間我が国から搾取したものを要求する。 特に対馬返還をこれに含める考えだ。 (以上 171~172頁)

 対馬返還を公式に要求した韓国の動きに連合国(アメリカ等の講和会議当事国)が制止し、李大統領はこれ以降、対馬発言をしなくなりました。 そしてその後の日韓会談や1965年の日韓条約では、対馬は何も問題になりませんでした。

 ところが1990年代に入って、韓国では再び対馬返還要求の声が上がります。

96年2月13日に開かれた国会の統一外務委員会では‥‥金元応委員は孔魯明外務部長官に対して次のような質問を行なっている。

我が政府は対馬島の返還要求をして、対馬の領有権回復の前段階として対馬を紛争地域化するのが当然とであると考えます。 我が民族は対馬に対して長い間「故土意識」を持ってきました。 ‥‥私はこのような歴史的に明らかな根拠を持っている対馬島の領有権を回復するために日本に対馬返還を我が政府が公式的に要求しなければならないと考えます。

これに対して、孔魯明外務部長官は「対馬に対する我々の領有権主張は日本の独島(竹島)領有権主張をさらに激しいものにする恐れがあり、政府としてそのような主張をすることは望ましくないと、このように考えております」と答弁している。 (以上 170~171頁)

 ウィキペディアで「対馬島返還要求決議案」を検索してみると、2008年にも国会議員50名が対馬返還要求の決議案を国会に提出したとあります。

 また水野さんの本によると、対馬返還を実現するために対馬に韓国の国花であるムクゲを植える運動があるそうです。

黄ベクヒョン氏が04年4月に行なわれた国会議員選挙で配布したビラには、対馬関連の公約がちゃんと載せられている。

対馬島をムクゲの花畑にし、100年後大韓民国を文化国家にすれば、失った対馬は自然に我が領土になります。 これを成し遂げるために私をはじめとする「対馬島ムクゲ花畑づくり運動本部」の会員は毎年ムクゲを植えています。

公約で「対馬を韓国の領土にする」と主張するのは自由だが、黄氏の行為は明らかに植物検疫法違反である。(以上167~168頁)

 同じく上記のウィキペディアによれば、2012年に市民団体「対馬奪還本部」が発足したとあります。

 対馬が韓国領土だなんて我々から見れば荒唐無稽でしかありませんが、ナショナリズムはどこにどう広がるか分からないものです。 何をアホなことを言っているのかと思いながらも、注視しておく必要があるでしょう。

韓国の「満州我が領土説」2022/10/27

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/10/20/9534539 の続きです。

 前回で韓国では「対馬我が領土説」が跋扈している話をしました。 ついでに言うと、韓国ではもう一つ「満州は我が領土」と考えている人も少なくありません。 古代の高句麗・渤海の故地である満州は、元々わが国の土地だというものです。 最近、中国の博物館が韓国歴史年表から高句麗・渤海を省いていたことが判明して韓国側が強く抗議したのは、韓国では「満州領土説」が広まっているからです。  https://m.khan.co.kr/world/world-general/article/202209131927001

 1992年の韓中国交正常化後、中国東北地区(旧満州)に旅行する韓国人が多くなりました。 高句麗の首都であった集安にある博物館にも韓国人が見学に訪れます。 その時に「この満州は我が領土」と大声を張り上げる韓国人が何人もいたといいます。 中国には朝鮮族がいて、当然ながら韓国語を解しますから、「満州わが領土」を聞きつけて問題になったことがあったようです。 この博物館では一時、韓国人の出入り禁止になったという話を聞きました。 ですから日本人がこの博物館に行くと、韓国人か否かを尋ねられるそうです。

 さらに満州での韓中間の領土問題いえば、白頭山(中国名は長白山)に触れないわけにはいきません。

 2007年に中国の長春で開かれたアジア冬季競技大会で、女子ショートトラックリレーで銀メダルを取った韓国選手が表彰台で「백두산은 우리 땅 (白頭山は我が土地)」というプラカードを掲げたため、大きな騒ぎになったことがあります。

「白頭山」は朝鮮民族の聖山とされていますが、同時に中国では「長白山」という名前で中国満州族の聖山でもあります。 だから長春のアジア冬季競技大会では、長白山(白頭山)で聖火が採られたのでした。 韓国の女子選手たちは白頭山が中国のものだとする大会に我慢できず、抗議したということですね。

 今の白頭山は頂上を境に中国領と北朝鮮領と二つに分かれていますが、中国と北朝鮮の間には国境紛争はありません。 両国が仲良く白頭山(長白山)を分け合っていますね。 そこに韓国の若い女性選手たちが、世界に中継されるメダル授賞式で「白頭山は我が土地」を堂々と掲げたのですから、かなりの問題になりました。 結局は、未熟な若者が犯した軽率な行動ということで騒ぎが収まったという話を聞きましたねえ。

 さらに「満州」といえば、そこには中国朝鮮族がいることを忘れてはなりません。 人口は2010年調査で約180万人とされています。 しかし韓国人は朝鮮族を高句麗・渤海と結びつけて考えておらず、同じ民族同胞という意識が希薄なようです。 極端に言うと、満州という土地は我が領土だが、そこに住んでいる朝鮮族は同胞とは思えない、ということでしょうか。 ただし例外があります。 詩人の尹東柱です。

 尹東柱の詩は韓国の教科書に出てきますから、韓国人は尹を自分たちと同じ民族同胞だと考えています。 ところが実は尹は「満州」の間島出身であり、尹の生家と墓は中国吉林省延辺にあり、中国当局によって保存されています。 そして中国側は尹を我が国の朝鮮族であり中国国籍の愛国詩人であると評価しています。 これに対し韓国側は、尹は中国人ではなく韓民族の詩人だとして激しく反発しています。 しかしこの反発が今のところ「満州韓国領土説」に結びついていません。 そこがちょっと理解できないところですね。

 つまり「満州韓国領土説」と「中国朝鮮族」と「尹東柱」、韓国ではこの三つは繋がっていないのです。 韓国人は領土と民族を見る視点がわれわれとは違う、と考えればいいのかも知れません。 そうならば、韓国人の民族性を見る上で参考になるでしょう。

 いずれにしろ我々にとっては、「満州韓国領土説」は「対馬韓国領土説」と同様に韓国にはそんなことを言っている人がいるんだなあと、軽く触れるだけにしておけばいいことです。 まともに取り上げて賛成とか反論・反駁なんてすれば、火の粉が飛ぶでしょうから。

 高句麗・渤海および尹東柱については拙ブログで下記のように論じましたので、ご笑読いただければ幸い。

【拙論参照】

高句麗は韓国か、中国か      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/09/22/1812668

高句麗―韓国か中国か       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/09/28/3787613

高句麗は北朝鮮でもあり中国でもある http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/06/09/6849374

高句麗広開土王碑は全世界人民のもの   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/08/22/6954699

韓国のマスコミが語る「中国の歴史歪曲」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/10/17/5420260

南北国時代            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/05/18/6814446

尹東柱は中国朝鮮族か韓国人か   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/21/8075000

尹東柱の国籍は?         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/03/13/9356544

尹東柱と孫基禎の国籍について   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/07/18/9399145