朴一さん『在日という病』を読む(4) ― 2025/09/01
https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/27/9798735 の続きです。
韓国に留学するとアイデンティティが揺らぐ
朴一さんは1997年に韓国に留学した時、自分の韓国人としてのアイデンティティに揺らぎを感じます。
いつものようにタクシーを利用し、運転手といろいろ話をしていたら、運転手から突然、こんなことを言われました。
「お客さん、日本人なのに、韓国語うまいね」
私が運転手に「私が日本人に見えますか。 これでも韓国人なんです」と言うと、彼はこう言い返しました。
「韓国人にしては韓国語がへたやね」
‥‥この運転手の一言は、本当の韓国人になりたいと頑張っていた私には棘のある言葉でした。 (以上、126~127頁)
在日が本国の韓国を旅行して〝自分は日本人ではなく韓国人だ”と名乗ると、必ずと言っていいほどに〝ハングギニンデ ジェデロ モタヌンガ(韓国人なのに、ろくに喋れないのか)”と返されたという経験をしますね。 〝自分は民族性を取り戻すために祖国にやってきました”なんて言っても、本国の韓国人は感心するのではなく〝ハングゴガ ノム ソトゥルロ(韓国語が下手くそ!)”と厳しい言葉を浴びせます。 朴さんも例に漏れず同じ経験をしました。
つまりは〝日本で朝鮮人だとバカにされ、韓国に来てみたら言葉ができないとバカにされ‥‥、結局在日は日本でも韓国でも差別される”ということになります。 それで「自分は日本人でも韓国人でもない」という意識になるようです。 だったら、どうすればいいのか? 朴さんは「在日としての生き方を模索」しました。
(1997年の韓国)大統領選挙で味わった、何ともいえない疎外感は、自分は韓国人でありながら韓国人でないというアイデンティティの揺らぎを再確認する機会になりました。 私が日本人でも韓国人でもない在日という生き方を模索するようになったのは、それからのことです。 (136~37頁)
しかし朴さんは自分が「日本人でも韓国人でもない在日だ」と決意しても、それは主観的な情緒に過ぎず、客観的には韓国人なのです。 ですから海外に出かける時には韓国政府から発給される韓国パスポートを持っていくしかなく、そこでは「私は日本人でも韓国人でもない在日だ」と言い張っても通じません。 〝韓国人なのに、なぜ韓国人でないと言うのか?”と怪しまれるだけでしょう。 あるいはまた〝韓国パスポートを持っていながら下手な片言韓国語をしゃべるこの人間は本当に韓国人なのか?”と不審がられるでしょう。 「在日という生き方」は日本国内だけで通用するもので、国際的に通用しないのです。
参考までに、ある在日韓国人がアメリカに旅行した時の手記を紹介します。
在日韓国人がアメリカを旅行する時、いつも経験することですが、アメリカ人は日本で生まれた私たちを、日本人だといいます。 「いいえ違う、韓国人だ」と言っても、韓国から来ている〝ほんとうの韓国人”に比べると、自分はどことなく日本人のような気がします。 そんなことを説明すると、アメリカ人は「じゃ、お前は、韓国にルーツをもつ日本人で、イタリア系、ドイツ系アメリカ人のようなものだ」と言います。 「いや、そうではない、私は韓国系日本人じゃなくて、在日する韓国人だ」といくら言っても、彼らにはこの違いが容易に理解されません。 (李貞順「『在米』から『在日』を考える」 1983年『三千里』所収)
私の知り合いも、同じような経験をしていました。 その話は、20年ほど前ですが拙稿「在日朝鮮人が海外旅行すると‥」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuunidai で発表しました。 (続く)
【拙稿参照】
在日韓国人と本国韓国人間の障壁 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/12/12/9641974
『在日コリアンが韓国に留学したら』を読む(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/11/9738817
韓国人でも日本人でもない―しかし同化する在日韓国人 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/02/14/9562752
在日が民族の言葉を学ぼうとしなかった言い訳 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/12/12/5574193
姜信子『棄郷ノート』を読む http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/10/19/8977899
在日コリアンと本国人との対立 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/11/20/6208029
在日コリアンの「課題」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/01/08/6282960
朴一さん『在日という病』を読む(5) ― 2025/09/07
https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/09/01/9800016 の続きです。
名前・国籍・言葉
朴一さんは著書の最後の方で、次のように結んでおられますが、私には大きな疑問があります。
考えてみれば、在日コリアンという出自や国籍の違いをめぐる葛藤は、私が在日韓国人としてこの国に受けた瞬間から生み出された問題だった。 なかでも名前の問題(日本名を使うか、民族名を使うか)、国籍の問題(韓国・朝鮮籍のまま生きるか、日本籍を取得するか)、言語の問題(母語と母国語の乖離)などは、私のアイデンティティ形成に良かれ悪しかれ大きな影響を与えてきた。 思い起こせば、外国人への「同化」圧力が強い日本で生きていくため、名前や国籍の問題で思い悩んだ頃からの、私の「当事者研究」は始まっていたのかもしれない。 (192頁)
朴さんは在日の当事者として、「名前」と「国籍」と「言語」の問題でご自分のアイデンティティに影響を受けたとおっしゃいます。
ところで在日の「名前」について、民族名を使うのか日本名を使うのかは本人自らの判断で選択すべきことで、周囲がこうすべきだなどと言うことはできません。 また「国籍」もご自分で判断してくださいとしか言いようがないもので、第三者が介在できるものではありません。 そして「言葉」は、在日はほぼ100%日本語ができますので、問題というのは本国の言葉を使えるかどうかということでしょう。 本人が民族性を持とうと決意したのなら本国の言葉をしゃべれるように勉強するだろうし、反対に民族性なんか要らないと思えば言葉を覚えないでしょう。 どうするかはご自分で決めてくださいとするしかありません。 以上「名前」「国籍」「言葉」は本人が選択すべきことで、周囲がとやかく言うことではないということです。
つまり「名前」も「国籍」も「言葉」も、在日それぞれ個々人が主体的に判断して選択せねばならない問題です。 本名(民族名)を使おうが通名(日本名)を使おうが、韓国・朝鮮籍を維持しようが捨てて帰化しようが、本国の言葉を知っていようが分からないままでいようが、それは本人が決めることです。 周囲の人たちがすべきことは、本人のその選択を尊重することです。
ところで朴さんは、「外国人への『同化』圧力が強い日本で生きていくため」と言い出してきたことにビックリします。 国民国家という枠組みの中で、外国人が社会生活するためにはその国の言葉を理解してその文化や価値観に「同化」することが要求されるのは世界各国共通で、日本だけのことではないでしょう。 外国人が「同化」を拒否し、わが本国ではそうではないと押し通すことは摩擦・衝突を生じさせるだけです。 しかし、朴さんは著書で「同化」そのものが悪いことのように論じておられるので、大きな違和感を持ちます。
繰り返しますが、外国人は完全に同化して日本人のように生きるのか、あるいは外国人としての民族性を保つのか、それは本人が自ら決めることです。 外国人には法律やルールを守っている限り、他人である日本人が干渉することはありません。 日本はその外国人の主体的な判断を尊重しつつも、周囲の社会との間に摩擦・衝突が起きないように「同化」を期待し指導するのみです。 従って日本にとっては、〝外国人に納得してもらえる「同化」とは何か”が課題になるべきものです。 「同化」をどこまでも拒否して摩擦・衝突を繰り返す外国人には、残念ながら排除するしかありません。
外国人労働者をとにかく受け入れればよいというものではない。 受け入れる以上は、彼らが日本に来てよかったと思えるような、受け入れをめぐるインフラ整備や対応が必要ではないだろうか。 日本に暮らす外国籍住民が「在日という病」と思わない社会、日本が外国人にとって希望のある社会になってほしいものである。 本書が、日本の今後の外国人受け入れ政策を考えていくための一助になれば幸せである。 (194頁)
「在日という病」は本の題名になっているものですが、その「病」というのは朴さんが言うには前述したように「名前」「国籍」「言葉」の三つです。 これは何十年も昔から在日韓国・朝鮮人に限って言われてきた「病」ですが、当然のことながら当事者自身が主体的に判断・選択するべきものです。 そして日本に対しては自分たちの判断と選択の尊重を求め、日本はそれを認めることによって「病」なるものが治癒(解決)されるのです。
〝外国籍を維持しながら日本と闘う”という主張
朴さんは「(日本は外国人を)受け入れる以上は、彼らが日本に来てよかったと思えるような、受け入れをめぐるインフラ整備や対応が必要」「日本の今後の外国人受け入れ政策」とあるように、日本側の変革を要求しておられるようです。 「名前」を例にとりますと、朴さんはおそらく、〝日本は在日に通名(日本名)を強制してきた、日本はこれを反省して在日が本名(民族名)を名乗ることができるような社会を作れ”というようなことを要求しているのではないかと思われます。 このような要求はかつての民族差別と闘う運動団体でよく語られたものです。 朴さんも関係しておられたようなので、全くの想像ではありません。
しかし何度も繰り返しますが、在日や外国人がやるべきことは「名前」も「国籍」も「言葉」も自分たちが先ず主体的に判断し選択することです。 しかし朴さんはそんな自分たちの判断と選択の過程を飛ばして、日本に「外国人受け入れ政策」を要求し「闘う」としているところに、私は大いなる疑問を感じるところです。
朴さんはおそらく、〝自分たち在日は日本と闘うことによって権利を獲得し展望を切り開いてきた、だから他の外国人たちもこれに見習って日本と闘うべきだ”と主張しておられるようです。 実際20年ほど前ですが、朴さんは『歴史のなかの「在日」』という本の中の座談会で、次のように発言しておられます。
韓国・朝鮮籍を維持したまま、日本で私たちが国籍条項の壁と闘っていくことで、出自とか国籍による不利益を受けない社会をこの国でつくり出していきたい。 (『歴史のなかの「在日」』藤原書店 2005年3月 74頁)
ですから朴さんは在日の闘いをさらに拡大して、〝外国人は外国籍を維持したまま日本に対して闘え!”と闘争を呼びかけていると思われます。 彼は〝日本との闘い”に自分のアイデンティティを見出してきた活動家だからこそ、このような主張をしておられるのでしょう。
これに対する私の考えを言いますと、〝近代国家というのは領土と国民の範囲を明確にするもので、具体的にいうと自国と外国の間に引かれる「国境線」と内国民と外国人を区別する「国籍」を明確にすることである。 「国境線」によって法律を施行する領域が定められるのと同時に、「国籍」によって人の法的立場に違いがあることは近代国家である限り当然、問題は日本と外国との間の壁が合理的なものかどうか”ということです。 従って朴さんが主張すべきは「国籍条項の壁と闘う」ではなく、「合理的な国籍の壁」を要求することだと考えます。
そして将来、〝内国民と外国人の明確な区別”は、最近の欧米人の移民に対する考え方の変化を見るように全世界的にさらに厳しくなっていくだろう、つまりこれからは全世界で近代国家の理念がより厳格化していくだろうと予想します。 従って在日は〝まるで日本人のように見えるが実は外国人”というような曖昧な存在は許されず、〝日本国籍を取得して日本人として生きていく”のか、それとも〝あくまで日本人とは違う外国人である”として生きていくのかが厳しく迫られることになるでしょう。 在日は、内外国民では義務と権利が違うことを明確に知った上で、どのような生き方するのかを主体的に判断して選択することが重要です。 朴さんのような指導的立場にある人は、先ずはこれを自分たち在日社会に呼びかけるべきだと考えます。
朴さんの著書『在日という病』について、他にも突っ込みたいところが一杯あるのですが、これで終わります。 (終わり)
朴一さん『在日という病』を読む(1) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/15/9796104
朴一さん『在日という病』を読む(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/21/9797365
朴一さん『在日という病』を読む(3) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/27/9798735
朴一さん『在日という病』を読む(4) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/09/01/9800016
【在日に関する拙稿】
第54題 「差別・同化政策」考 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuuyondai
第19題 消える「在日韓国・朝鮮人」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuukyuudai
第40題 在日朝鮮人は外国人である http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuudai
第41題 (続)在日朝鮮人は外国人である http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuuichidai
第32題 在日朝鮮人が海外旅行すると‥ http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuunidai
第49題 合理的な外国人差別は正当である http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuukyuudai
30年前の在日韓国人論―四方田犬彦 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/01/05/8762608
1980年代在日韓国人活動家の考え方―曺功鉉(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/03/21/9570847
1980年代在日韓国人活動家の考え方―曺功鉉(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/03/25/9571842
1980年代在日韓国人活動家の考え方―曺功鉉(3) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/03/29/9572830
水野・文『在日朝鮮人』(16)―国籍剥奪論の矛盾 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/30/8142349
水野・文『在日朝鮮人』(21)―同化 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/23/8197450
韓国では大統領を揶揄する小話があった ― 2025/09/14
1970~80年代の韓国は軍事独裁政権と言われていたぐらいで、新聞や放送などの統制が厳しく、国民は政治に対する批判を公然とすることが難しいなど、言論の自由なんてものはないのと同然でした。 しかしそれでも庶民たちは場末の飲み屋で、大統領を面白おかしく風刺・揶揄する小話を交わして楽しんでいました。 どんな小話かと言いますと、例を一つ挙げてみます。
ねえねえ、こんな話知ってる?
全斗煥がアメリカ訪問中にNASAの本部を訪れた時のことなんだけどね、そこにはロボットのような機械が置いてあってね、案内人が、これは誰でも頭を差し出せば知能指数をすぐに調べてくれる機械だっていったの。
全斗煥がお付きの者に、「お前が先にやってみろ」といって、機械のぽっかり開いているところに首を入れさせたんだって。 すると、機械が「大変優秀です、さすが大統領の随行員です」と言ったんだって。
お付きの者が「閣下もどうぞお試しください」と言うと、全斗煥も頭を入れたんだって。 するとロボットが「機械が壊れます、イタズラしないでください」って言ったんだって。 全斗煥はかんかんに怒って「けしからん、こんな機械」と言って、傍にあった大きな石を機械に放り込んだんだって。
するとロボットが「閣下、ようこそお出で下さいました」。
このように大統領という最高権力者に関心を持ちながら、政治に直接関係しない範囲で、フィクションであることが誰にでも明らかで、聞けばちょっと笑える小話が発達していたのです。 40~50年前の軍事独裁政権下の韓国ではこのような状況でした。
【全斗煥に関する拙稿】
全斗煥 元大統領 死去 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/11/23/9442532
全斗煥政権がオリンピックを誘致し成功に導いた http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/08/8784411
全斗煥の功績 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/13/8787078
オリンピック誘致で全斗煥政権を応援した日本の市民団体 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/01/30/8778939
木村幹『全斗煥』を読む(1)―捏造の北朝鮮軍事情報 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/06/9745027
木村幹『全斗煥』(2)―歴史問題は中曽根訪韓から https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/11/9746259
木村幹『全斗煥』(3)―反共主義で時代に取り残される https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/19/9748278
北朝鮮では首領様を揶揄もできない
私は当時(1970~80年代)、北朝鮮も韓国と同じ独裁国家だから人民も同じように最高権力者の金日成を揶揄する小話を交わしているに違いないと思っていました。 なにしろ北朝鮮では、学校でも職場でも地域でも次のような話が大真面目に語れており、全員これを全て完璧に覚えさせられていたのです。
偉大な首領金日成大元帥様におかれては、全社会を主体思想化する事業で、わが党と人民の前に生じる当面の闘争課業は社会主義の完全な勝利を成し遂げることだと言われました。
全社会を主体思想化するということは、偉大な首領様の革命思想、主体思想を唯一の指導方針として、わが革命を前進させ、主体思想に基づいて共産主義社会を建設し、完成していくことを言います。
わが人民は、敬愛する首領様と偉大な元帥様を党の首位に高く戴いた矜持と自負心を持って、主体革命の偉業を代々継承し最後まで完成する固い決意をする。
わが首領は、かつて誰一人身につけたことのない非凡な英知と卓越した指導力、高邁な共産主義的特性を一身に体現し、深淵な革命理論と偉大な革命的実践によって、現代史を新しく切り開き輝かしめた労働者階級のもっとも偉大な首領である。
ここでは四つだけを取り上げましたが、北朝鮮の人民はこんな話を何百・何千個も延々と聞かされるだけでなく、一つ一つ完璧に覚えて復唱せねばなりません。 だからそんな場が終わってから友人らと一杯やったりする時なんかには、「わが国で主体的にものを考えているのは、首領様だけだね」のような小話を言い合っていると私は思っていました。 つまり北朝鮮の人民は韓国の庶民と同じ民族なのだから、権力者からの抑圧には小話で揶揄するなどのささやかな抵抗をして、鬱憤を晴らすとか溜飲を下げていると思っていたのです。
ところが、そういうことは全くありませんでした。 北朝鮮では、そんな小話をちょっとでもすればすぐさま密告されて、本人だけでなく家族全部が粛清されるのです。 私はその事実を知って、北朝鮮の人民は韓国の庶民と同じ民族なのに全く違っていることをようやく知ったのでした。 北朝鮮は変なことを変だと呟くこともできず、おかしいことをおかしいと思ってもいけない社会だったのです。 そうして北朝鮮から漏れ出る人民生活の現状は、この観点から見てやっと理解できるようになりました。
当時、作家やジャーナリストたちが北朝鮮を訪問して、“北朝鮮の人々は質素ながら幸せに生活している”というような報告をする本や記事を出していました。 雑誌では『朝日ジャーナル』が多かったですね。 しかしそれらは虚構で、真実はその隠れた裏にあることを知り、『凍土の共和国』『悪夢の北朝鮮』などの北朝鮮の実態を告発する本を素直に読めるようになりました。 また韓国も軍事独裁国家でしたが、北朝鮮に比べればはるかにマシな国であることも分かってきました。
韓国の民主化活動家たちは場末の飲み屋で、時の全斗煥大統領を上述したような皮肉小話して楽しむことが出来ましたが、北朝鮮では首領様の小話が例え家族間でも全くできないほどに抑圧されていたのです。 ところが韓国民主化運動家たちは何故かそのことを黙っていることを知り、北朝鮮こそ民主化が本当に必要なのに何故?と、非常に白けた気分になったものでした。 私はさらに1989年以降の東欧やソ連の社会主義崩壊を契機に、北朝鮮批判をはっきりと言えるようになりました。 そして韓国の民主化運動=進歩は、北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できるものではないと考えるようになって今に至っています。
4・50年前の思い出話を書いてみました。
再度言います。 今の韓国ではいわゆる進歩勢力(かつて軍事独裁政権下で民主化運動を担い、それを受け継いでいる人たち)が政治・社会に大きな影響力を有し、大統領を輩出するにまで至っていますが、彼らは北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できるものではないということです。 自国の民主化運動をしながら、同じ民族で将来に統一せねばならないはずの北朝鮮を放ったらかしにするなんて、彼らの「民主化」理念はあまりにも疑問です。
わが日本でもこんな韓国の民主化運動=進歩勢力に同調・連帯する人たちが昔も今も多くいますが、彼らもまた北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できません。
光州事件は民主化運動として普遍化できるのか? https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/25/8859204
【北朝鮮に関する拙稿】
この世はすべて金―北朝鮮 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/05/25/9687110
在日朝鮮人が話す北朝鮮 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/12/19/9643754
北朝鮮には税金がない、その代わり‥‥ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/18/9660183
脱北して戻ってきた在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/25/9662215
北朝鮮の内部情報は? https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/28/8834853
天皇制と首領制の比較 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuugodai
北朝鮮と小中華思想 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuunanadai
朝鮮総連の人から聞いた話 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyakugodai
「南」に厳、「北」に寛だった日本のマスコミ https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/24/8832065
韓国のボイスフィッシング(特殊詐欺)犯の告白 ― 2025/09/21
2025年8月9日付けの拙ブログで、韓国と日本の特殊詐欺を比較するニュース記事を翻訳しました。 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/09/9794862
ところで韓国の有力雑誌『週刊朝鮮』2867号(2025年7月14日)に、ボイスフィッシング(特殊詐欺)に加担した韓国の若者の詐欺犯を取材した記事がありました。 参考になるかと思い、翻訳してみました。 韓国の特殊詐欺は、日本のそれと瓜二つですね。
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ある20代のボイスフィッシング(特殊詐欺)犯の告白 「私はお金を受け取る回収役(受け子)でした‥‥800万ウォンを儲けて懲役3年に服したのです」
「先週、懲役3年を終えて満期出所しました。 回収役(受け子)でした。」 この話はボイスフィッシング被害者の悲しい事件ではない。 知らないうちにボイスフィッシング法にかかり、実刑に服して出てきた、ある20代の話だ。 生活苦に悩んだAさんは2022年初め、ボイスフィッシングに加担した。 Aさんの役割は被害者に会ってお金を直接受け取る「回収役(受け子)」で、最初に仕事を始めた時はボイスフィッシングとは分からなかった。 何回かお金を受け取って運ぶ仕事を繰り返して、やっとAさんは「私がボイスフィッシングの加担者なんだ」と思ったという。 結局、仕事を始めて4ヶ月余りで警察に捕まった。 Aさんに適用された容疑は「詐欺」「公文書・私文書偽造」だった。
「みんなは私を罵ると思います。」 詐欺を犯した彼は自分をかばってほしいと言うつもりはない。 反省するという意味だったのか? 彼は記者の取材の求めに応じた。 そう言って、これまで知られていなかったボイスフィッシング犯罪の内幕を解説した。 「被害者の方たちには今も、これからも一生謝罪します。 またこの瞬間も加担している人たちや、ひょっとして加担するかも知れない人たちには私のようになるなと言いたいです。」
「求職アプリ」に建設現場の日雇い求人広告
事情で生活苦に悩んでいたAさんは2022年の初め、ある求職プラットホームを通してアルバイトを探した。 彼の目に入ってきた「建設現場 日雇い」広告は、賃金がかなりよく決められていた。 直ぐに広告を押して志願し、ほどなくして非対面の面接を経た。 それ以後、業者の担当者から合格の知らせが入ったカカオトーク(日本ではLINEに相当)のメッセージが来た。 Aさんは業の割り当て過程で、担当者から配慮をしてもらった感じがした。 「腰がちょっと悪くて心配だ」と言うと、担当者は「それでは楽なように、取引先を移動しながらお金を受け取る業務に決めてあげよう」と言って、最終的に業務は「決められた人と会って、相手が渡してくれるお金を受け取ること」だった。
Aさんは「慎重でなかった」と言いながらも「生活に窮していたので、『何か変だが、これでもしなければならない』という気持ちだった」と言う。 結局Aさんは仕事をすることに決めて、「お金を回収する仕事」を引き受けた。 人に会ってお金を受け取って仲間に渡したり、特定ATMに行って入金するというやり方だった。 これは典型的なボイスフィッシングの回収役(受け子)または運搬役の仕事だった。
Aさんによると、ボイスフィッシング組織の体系は、「指示役(もしくは元締)」を始めとして「中間リーダー役」そして「実行役(もしくは下っ端)」に区分される。 指示役は中国などの国外にいるボイスフィッシング元締たちを指すもので、中間リーダー役はよく言われるところの「コールセンター職員」のような人たちをいう。 一番下の「実行役(下っ端)」はAさんが担当していた回収役(受け子)や引出役(出し子)、運搬役など三つに分けられる。 回収役(受け子)は直接被害者に会って彼らが準備した現金を受け取ってくる役割で、その現金を渡された仲間は上部が定めた口座に入金する。 Aさんは「私がもし汝矣島でお金を受け取ったら、もう一人の回収役が鐘路にいるとすれば、鐘路に行って渡すこと」と説明した。 引出役(出し子)は被害者が直接送金する場合にその金を口座から引き出してくる役割で、運搬役は仲間から現金を受け取って上部に渡す役割をする。
「収益は被害金額の2%」
具体的な犯罪過程で、タクシー代などの移動費用は上部が提供した。 Aさんは「最大限、記録を残さないために絶対いつもタクシーに乗って移動しろと指示される」と言い、「集金のためにソウルから江原道の江陵まで行ったことがある」と打ち明けた。
興味深い点は、上部が組織的にそれぞれの出し子を監視する場合もあるという点だ。 ある日、現金受け取りのための被疑者との約束が何時間か後になった状況で、Aさんはしばらくある食堂で昼食を取っていた。 料理が出ると、上部から「被害者が着いたから、早く移動しろ」という命令がテレグラムのメッセージに来た。 「トイレに寄ってから行きます」と報告し、もう一匙でも食べようとした矢先だった。 「Aさん、今食べているのを置いておきなさい。」 Aさんは「この時から、どこかから私を見ていると確信しました」と語った。
Aさんによると、組織はAさんが仕事を終えてから家に帰る姿を写真に撮って送ってきたり、彼が仕事中にタクシーで移動する時ももう一台のタクシーに乗って尾行することもした。 彼は次のように推定した。 「ひょっとして警察に行って自首しないかと思ってそうしたようだ。」
受け取った現金を決められた口座に入金したり、また他の運搬役に渡したりする過程を終えれば、一番の「下っ端」である回収役(受け子)の役割は終わる。 Aさんは最後の段階で利益を分け与えられると言う。 彼によれば、被害額の2~4%程度を回収役(受け子)が貰い、残りの金額をATMを通して送金したり、仲間に渡す形だ。 Aさんは「もし被害額が1億ウォンであるなら、被害者から受け取る1億ウォンのうち200万ウォンを私が貰い、残りはすべて送るやり方」だと説明した。 このようなやり方で、彼は総2億8千万ウォン相当の被害額を17回にわたって受け取り、このうち800万ウォンの収益を得た。
ただしAさんは、中間リーダー役ないしは指示役は一回も見たことがないと言う。 「下っ端」である彼は、自分と同じ役割をする回収役(受け子)や運搬役だけに何回か会った。 すべての連絡はテレグラムを中心に進められ、時おりテレグラム通話を通して指示が来ることもあった。
捜査が始まると、「携帯電話を捨てて、耐えろ」
仕事を始めて4ヶ月くらい過ぎた頃、Aさんはソウルのある警察署から連絡を受けた。 詐欺の疑いだった。 そして何日か経ってから首都圏のあちこちの警察署からの連絡が来始めた。 呆れたのは、この時の指示役の反応だった。 Aさんがその間のいきさつを説明すると、指示役は「安心しなさい」と言った。 続けてAさんは次のような言葉を聞いた。 「使っている携帯電話を捨てなさい。 耐えましょう。 私がちゃんとやりますから、心配しないでください。」 そしてこの対話がAさんと指示役の誰かと受け答えした最後のテレグラムメッセージだった。
Aさんは自分を「もう腑が抜けた状態だった」と表現した。 この時点でやっと、Aさんはボイスフィッシングを止めた。 もうこれ以上、指示役から命令や指示は来なくなった。 彼は「その時から『今でも止めねばならない』という心情で2~3週間ほどは何もしなかった」と語った。 ついには自ら命を断とうと思ったこともあったAさんは、結局しばらくして逮捕された。 そのようにして彼の犯罪は終わり、法の審判を受けることとなった。
「よく犯行を犯す者も悪いが、被害を受けた者もボケていたり不注意で被害に遭ったのだ」と考える人がいるが、それは絶対に違う。 被害に遭わない訳にはいかない。」 Aさんはボイスフィッシング犯罪の被害者に対する否定的な視覚について、同意できないと言う。 彼は特にスマホのハッキングを指摘する。 「言葉では予防して備えていますが、このごろスマホがハッキングされたら112(日本の110に該当)に電話するとか検察に電話をかけても、すべて彼らに繋がっている。 アプリをインストールしようとした瞬間、ウィルスもうつされている場合があるので、避けることのできないのだ。 技術は発展しているのではないか。 この組織は誰よりもそんな技術に遅れを取ることはない。」
Aさんは貸し付け詐欺の事例も挙げた。 彼によると、貸し付け詐欺の場合、「私たちは一般の銀行より、今はもっと安く貸し出すことができます」といった風に低金利をエサに被害者を狙う。 Aさんは自分が会った被害者に対して「本当に一生懸命に暮らしている人たちだった」と思い返した。 色んな方法を通して騙された人たちは、直接現金を渡したり、お金入りの封筒を渡してくれる。 結局Aさんに検察は懲役7年を求刑し、裁判の結果、懲役3年が確定した。
Aさんは被害者らのことに言及するたびに、「ごめんなさい」を繰り返した。 彼は「あの人たちに洗い流せない間違いを犯したのだから、一生反省し、またこのようなことはしない」と言葉を繋げた。 「今ボイスフィッシングに加担している人に一言あるか」という質問に、彼は淡々と次のように言った。
「今やっている仕事が疑わしいなら、自首しなければ」
「自分がしている仕事が疑わしいのなら、今からでも本人自ら警察に行って自首するのが正しいと思います。 ちょっとでも関係していると思ったら、自首することが個人的にも刑罰を受けるのに軽くなるはずだから。 そして『悔しい』とか『自分は知らない』とか言わない方がいいです。」 国内にはいないと推定される詐欺の元締めについて尋ねると、Aさんの声が高くなった。 彼はしばし目をつぶったかと思うと目を開けて、「自業自得、いつかは必ずやったことだけのことが返ってくる」という話を始めた。 「お前らがあのように儲けた黒い金。 そんな金は、本当に早く消えるではないか」と言い、「ずっとそのように生きていろ。いつか、お前らがあのように死ぬのだから。 私はこの言葉以外に言うことはありません」と付け加えた。
最近、警察庁が発表した統計によれば、今年の四半期(1~3月)に発生したボイスフィッシング犯罪は総5878件である。 一日平均49件に達する被害が続出していて、これは昨年同期より17%増加している数値である。 被害者一人当たりの平均被害額も3000万ウォンを越える。 今この瞬間にも各種のボイスフィッシングが全国を駆け巡っていて、彼らに命令し操縦している組織上部の元締めも、どこかに存在している。 しかし元締めまで「根絶やし」にすることは、はるか遠くに見えるだけだ。
【特殊詐欺に関する拙稿】
韓国と日本の特殊詐欺(ボイスフィッシング) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/09/9794862
韓国の特殊詐欺 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/08/31/9290686
韓国の特殊詐欺ニュース https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/10/01/9300924
左翼過激派の性暴力 ― 2025/09/26
産経新聞に「過激派内部で繰り返される『性暴力』 女性解放を掲げながら…閉鎖空間と上下関係が原因か」と題する記事が出ました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3eb23e9b2d5d2c01facdaeae19813facf540acf8 https://www.sankei.com/article/20250924-VRUKNI55GRGXDHHEJ7CL75SH2E/ https://www.sankei.com/article/20250922-EY7WB3RYKFEW7IYKPMTB5AQBHM/
おそらく内部からの密告に基く記事と思われます。 密告先がなぜ右翼新聞とされる産経なのかといえば、リベラルと思われている新聞は取り上げてくれないだろうという判断なのでしょう。 過激派だけでなく人権団体とされる組織内でも、残念ながら性暴力はたびたび起きています。 ただし彼らは国家権力・警察への対抗意識があるので、被害届とか告発とかをすることは、まずないです。 ですから表面化することは滅多にないのですが、 〝問題化して世間に知ってもらいたいが警察沙汰にまでしたくない”と思った時、やはり右翼新聞となったと考えられます。
左翼・人権団体での性暴行について、拙ブログでも過去に取り上げたことがありますので、お読みいただければ幸い。
【拙稿参照】
左翼人士の性犯罪に思う https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/03/11/9568486
人権派ジャーナリストの性暴力事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/02/01/9031087
相次ぐ有名人の性暴行事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/12/29/9194983
活動家によるレイプ事件考 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/03/07/2708813
それは泣き寝入りではなく自殺だった http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/08/19/5296007
解放運動の「強姦神話」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/07/28/1685192
1960年代の入管問題―金東希と任錫均(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/02/07/9752842
暴力にみる民族的違和感 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihachijuunanadai
韓国Me too運動の記事 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/05/9231706
Me Too:韓国を揺るがす著名文化人のセクハラ暴露 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/28/8795521
韓国民主化世代の性犯罪 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/07/30/9273345