金達寿の「族譜」2010/10/08

 金達寿はもうお亡くなりになりましたが、古くからの有名な在日作家です。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%81%94%E5%AF%BF

 彼は戦前から作家活動をしているのですが、この初期の時(1941年11月)に『族譜』という小説を発表しています。  彼の自伝である『わがアリランの歌』(中公新書 昭和52年6月)には、次のような記述があります。

「ちょうど十年振りに見る故郷、父やそれから馬山の叔母のもとで亡くなった祖母の墳墓などがあるその故郷も故郷で、このことはのち『族譜』という作品に書かれることになるが‥‥」(191~192頁)

 このように彼自身も、この小説を書いたことを認めています。ところがこれが彼の作品集には入っていないし、彼の略歴などにもなかなか出てきません。ちょっと気になっていたのですが、どのようにしたら入手できるのか分からなかったので、そのままにして置いたものでした。

 このほど、これが国会図書館に収蔵され、インターネットを通じて入手できることが分かり、さっそく手続きして送ってもらいました。さすがインターネットですね。わざわざ東京に行かなくても入手できるなんて、これだけでも、もうビックリ。

 読んでみて、なるほど彼自身が隠したくなるような作品だったんだなあ、と妙に納得しました。

 族譜にこだわり、両班を自慢して、周囲の百姓たちを侮蔑する老人(叔父)を描いています。またその時に施行された創氏改名については、何等批判することなく、淡々と描いています。それに作品の内容以前に、作者名を「大澤達男」と、日本名のペンネームを使っているのです。

 この小説自体の出来不出来の評価は私には手に余りますが、当時の朝鮮人たちが、創氏改名や族譜について、さらには日本の統治下にあったことについて、どのうような感覚をもっていたのか、を考えるのに、なかなか興味深いものと感じました。

 戦後、朝連・総連などで左翼活動した彼には、戦前のこの小説はちょっとした傷になっていたのかも知れません。

http://6322.teacup.com/tsujimoto/bbs/63