漢字を廃止した韓国で「知的荒廃」?-呉善花(5)2014/01/22

 韓国では漢字語をハングルで書き表します。この弊害として指摘されるのは、同音異義語の区別ができないことです。

 ハングルだけで表現することは同音異義語の区別が難しくなります。例えば「防火」と「放火」、「陣痛」と「鎮痛」などはハングルで書くと同じですが、意味が正反対です。

 実際に起きた事件でよく取り上げられるのは「防水」と「放水」です。ハングルではどちらも「방수」で全く同じですが、意味は正反対です。KTX(韓国高速鉄道)工事に使う枕木の製造マニュアルに「방수」と書かれていたのを、製造担当者が逆の意味に解釈して、防水材を入れねばならないのに水を注入してしまったという事件です。

 また「義士」と「医師」はハングルでは同じですから伊藤博文を暗殺した安重根「義士」をお医者さんと間違う人がいたり、「神社」と「紳士」が同じですから日本の靖国「神社」を靖国さんという名前の紳士と勘違いする人もいます。これらの例は韓国の新聞で報道されていますので、実際に起きたことのようです。それ以外に「技能」と「機能」、「量子」と「陽子」などはその分野での本のなかに出てくるものですが、やはり混乱するようです。

 そしてハングルで書く漢字語は漢字という裏付けがない状態ですから、本来の意味から離れてトンデモない方向に行く場合が出てきます。

 韓国のある市役所の案内書に「住民の方から陳情を受け付ける際に ‘불편부당’ な応対や不親切なことがありましたら‥」とありました。‘불편부당’はどの辞典をみても「不偏不党」という以外にありません。しかしこの市役所では「不偏不党」のハングルを「不便・不当」の意味に解釈して使っているのです。ハングルでは同じになりますが、意味は全く違います。漢字を知っていればこんな間違いは起こり得ません。しかしハングルだけの漢字語ではあり得ることです。ただしこの間違いは今の韓国でかなり普及しているようなので、市役所だけを責めるわけにはいきません。

 今は漢字を廃止してそう時間が経っていませんので、ハングルで書かれた漢字語の間違いはまだ少ないです。しかし漢字を知らないのですから、漢字語の誤りを間違いとは意識されなくなります。だからこれからは間違いが多くなっていくものと思われます。

 余りに多くなってくると今度は間違いが間違いでなくなり、逆に本来の正しい使い方が間違いに扱われる時代が来ることになるでしょう。また同音異義の混乱は、別の言い方(外来語や別の漢字語など)に置き換わるなどによって解消していくかも知れません。

 そうなれば韓国語は今と全く違った様相を示すことになります。おそらく将来の韓国人は現在の韓国人の文章を、同じハングルであっても読めなくなっているのではないかと思われます。だからといって呉善花さんが予想するように‘抽象度の高い思考を苦手とする’‘思考水準の低下’という現象が現れるのかどうか、今は何とも言えない段階です。

 言語は人間の意識を外部に表現したものですから、意識自体に「高度の精神性と抽象性」があれば、それを表現する言葉もそれに相応するものとなります。だからハングルだけであっても、それを表現できるだけの言葉になっていれば問題はないだろう、というのが私の考えです。

 しかし呉さんは言葉が「高度の精神性と抽象性」を表現できない形になれば、意識自体の「高度の精神性と抽象性」が不可能になると考えています。分かりやすく言えば、私は意識→言語、呉さんは言語→意識という考え方の違いです。

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