嫌韓は「日本の韓国化」である―小倉紀蔵2014/12/23

 小倉紀蔵・小針進編『日韓関係の争点』(藤原書店 2014年11月)を購読。 筆者は、編者以外では小倉和夫(元駐韓大使)、小此木政夫(慶応大名誉教授)、金子秀敏(毎日新聞元論説委員)、黒田勝弘(産経新聞元ソウル支局長)、若宮啓文(朝日新聞元主筆)と錚々たるメンバーです。 内容はレベルの高いもので、成程と納得したり、よく勉強しているなあと感心したりする部分が多かったです。 ちょっと違うんじゃないかと思える部分も当然あるにはありましたが、全体的によく出来た本だと思います。

 このなかで、これは鋭い分析だと思ったところを紹介します。 小倉紀蔵さんは冒頭で、日韓に関する言説は「嫌韓」と「左」の枠組みにきれいに分かれているとして、次のように論じています。

たとえば「韓国は伝統的に中国の属国であった。だから韓国人は独立心に乏しく模倣と権謀術数のみに長けている」という「枠組み」にのっとって韓国を叙述しようとするなら、それなりの「韓国論」をいとも簡単に書くことができるだろう。この「枠組み」に都合のよい事実のみを拾い上げてきて羅列し、都合のよくない事実は排除すればいいのである。材料は日本語による二次資料だけを使えばよいので、おそらく高校生でもいっぱしの「嫌韓本」を書くことができる (1頁)

 「材料は日本語による二次資料だけを使えばよい」というのは、嫌韓派は韓国語ができないことを遠回しに皮肉るものですね。

これは嫌韓とは反対の陣営である左派の世界認識と、さして異なるものではない。むしろ左派とは相似形をないし対称的な関係にある。戦後の長いあいだ、左派は強力なヘゲモニーを日本社会で握りながら、心地よい「左派の枠組み」のなかで朝鮮半島を認識してきたのである。 嫌韓派はこれに叛旗を翻した。この抵抗運動は高く評価できるであろう。しかし結果として嫌韓派がつくりあげたものは、左派とまったく同型の閉鎖的な「枠組み」でった。(2頁)

さらにいうなら、このような「枠組み」づくりを国家レベルで営々とやってきたのが韓国および北朝鮮である。韓国・北朝鮮の日本認識は、ほぼ完全に「枠組み」のなかに閉ざされている。その「枠組み」のなかで道徳志向的感情の共同体を強力に形成し、永遠に続くかと思われるような同語反復の回路のなかで快く自足している。‥そこには「イデオロギー」はあるが「思考」は存在しない。‥「枠組み」とは「思考停止装置」なのである。(2頁)

日本における嫌韓派の運動に対する正確な解釈は、「日本の韓国化」である。‥‥日本の「右」は日本社会を「韓国化」しようとしている。そして「日本の韓国化」とは、「日本の思考停止化」と同義なのである。(3頁)

 小倉さんは日本の嫌韓派について、左派と同型の「閉鎖的枠組み」を有し、韓国と同様の「思考停止の枠組み」にはまって「韓国化」していると分析しています。 これはなかなか鋭いというか、うまく表現したものだと感心しました。

 嫌であれば無視すればいいだけです。 しかし嫌いで相手の悪口ばかり言っていると、相手方の醜い姿を想定して自分の心に常に留めることになります。 だから今度は自分の姿が相手方に似て醜くなるということですね。