水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層2016/04/06

 1年前に出た本ですが、その時に拙ブログでも取り上げたことがあります。http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/04/27/7620516  最近読み返してみたところ、もっと詳しく細かく論じた方がいいと思うようになり、今回取り上げる次第です。 読んで気付いたり気になったところから論じ、あるいは感想を書いていきますので、順番には意味はありません。

渡日を選んだのは、朝鮮社会の最下層ではなくむしろ中層(ないし下層の中の上位クラス)に属する者が多かった。 最下層の者は日本に行くための経済的・文化的な能力を備えておらず‥‥中層の者は少しばかりの金を持ち、日本語も少し話せるが、かといって朝鮮内では社会的上昇を望めないため、渡日の道を選ぶことになった。(25頁)

 私には当時の農村で食い詰めたから日本に来たというイメージというか思い込みがありましたから、渡日した朝鮮人が中層に属するとはこの本を読むまで知りませんでした。 なぜこう思い込んでいたかというと、この本にも次のように書いているような類の解説を、昔から繰り返し読んでいたからです。

1910年代の土地調査事業によって土地所有権が明確化される中で、土地を失う農民が増加したことが原因であった(22~23頁)

 農村で土地を失えば生活手段がなくなることですから、その日その日をどう暮らせばいいのか分からない最下層に転落して生活は苦しくなった、だから住んでいた村を離れて日本に行った、という思い込みでした。 しかし実はそうではなく、村の中層クラスが日本に行ったということです。

 ということは、その村では資産家とは言えないが貧民とも言えず、子供に学校に行かせることが出来る程度の経済的豊かさを有していた家庭であったということになります。 一般に流布されている「植民地支配の過酷な収奪」とは違うところです。

 ところで、ある程度の生活が出来ていた中層階級の家の子弟が渡日して、日本では被差別部落民と同じ最下層の地位に置かれた、ということになるのでしょうかねえ。 在日朝鮮人が被差別部落と比べられるのを嫌がった理由はここらあたりにあるのかも知れません。

【関連拙稿】

「白丁」考           http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuunanadai

金達寿さんの父が渡日した理由   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/12/24/1044999

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック