ラムザイヤー教授の部落論(2)―同和事業の裏では2021/12/31

 論文では同和対策事業の実像を、次のように説明しています。

日本において「部落民」は歴史的に差別に直面していた人々のことである。 1969年「同和対策事業特別措置法」の下、国および地方自治体は巨額の補助事業を開始した。 2002年までに、政府は15兆円を費やしたが、特措法上の事業以外でも多額の資金を費やした。 同和事業に関連する贈賄、歪んだ雇用、恐喝的行為による支出、および税収の喪失は、その社会的費用をさらに押し上げた。

 「2002年までに、政府は15兆円を費やした」 「同和事業に関連する贈賄、歪んだ雇用、恐喝的行為による支出、および税収の喪失は、その社会的費用をさらに押し上げた」とあるのは、その通りです。 同和対策事業は1969年から2002年までの33年間にわたり15兆円の公費が投入されました。 事業の始まった1969年は大卒初任給が3万4千円くらいで、国立大学の年間授業料が1万2千円だった時代です。 それを考えると「15兆円」というのは今の貨幣価値でいうと、とんでもない巨額であることが分かります。

 そしてまた同和対策に関連して、様々な不正・不当手段で税金がたくさん使われたということです。 「歪んだ雇用」というのは、公務員採用の際の同和特別枠が多くの自治体で設けられていました。 部落民は解放同盟支部長等の推薦があれば、無試験で公務員になれたのでした。

 「恐喝的行為による支出」というのは、私の知っているところでは、自治体の各課で「解放新聞」や「部落解放」とかの定期刊行物を3冊ぐらい強制的に購入させられていました。 各課ですから、全体でかなりの部数になります。 そんなものを誰も読みませんから、裏の倉庫に置かれて埃にまみれ、いつの間にかゴミとなって廃棄されました。 このような機関紙購入の強制は、民間企業も同様だったと思います。

 また「税収の喪失」というのは、企業が解放同盟傘下の「部落解放企業連合会」を通すと確定申告がフリーパスになるということを指すものと思われます。 有名なところは「大阪府企業連合会(略称―大企連)」ですね。 言葉を変えれば、解放運動の力で脱税できたということになります。

 それでは「部落民」とは何か? 論文では「日本において『部落民』は歴史的に差別に直面していた人々のことである」という建前が書かれています。 つまり「部落民」というのは近世の「穢多・非人」身分の後裔とされていることを、「歴史的」といっています。 しかし実際の同対事業の対象者である「部落民」では、その先祖が「穢多・非人」だと言えるのは少数です。

 明治以降、戦後に至るまでの間に、元々部落出身でない者が部落に住みついたり、部落産業である食肉・皮革関係で仕事したりして、「部落民」扱いされたと考えられる人が多いです。 1980~90年代に「あなたも部落に20年ほど住めば、部落民になれますよ」という話が出回っていましたが、これは一面の事実を表わしています。 つまり「部落民」というのは非常に曖昧で、部落民か否かを区別する客観的なものがないということです。 そして同和事業の対象者である「部落民」は、結局は解放同盟等の同和団体が認めた者という主観的基準によることとなりました。 

 ラムザイヤー教授には、このことを追究してほしかったですね。 解放同盟等の同和団体の幹部たちに、あなたが歴史的に部落民であるとする根拠を見せてほしいと尋ねることは出来たと思うのですが。

【拙稿参照】

ラムザイヤー教授の部落論(1)―同和対策事業 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/12/26/9450880

かつての解放運動との交渉風景  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/08/27/6074508

【ラムザイヤー教授論文】

https://jigensha.info/2021/10/16/ramseyer2018-1/

https://jigensha.info/2021/10/23/ramseyer2018-2/

https://jigensha.info/2021/10/30/ramseyer2018-3/

https://jigensha.info/2021/11/06/ramseyer2018-4/