パク・チョンスで見る韓国人の考え方―『中央日報』 ― 2022/10/06
ちょっと古いですが、韓国の『中央日報』2022年8月2日付けに、「日本・小田原で起きたこと」と題するコラムがありました。 https://www.joongang.co.kr/article/25091383
論者は韓国の円仏教(仏教系の新宗教団体)の教務であり、「チョンス分かち合い実践会」理事長であるパク・チョンス(朴清秀)さんです。 検索してみますと、1937年に全羅北道で生まれ、祖母の誘いで1945年に円仏教に入信、以降ハンセン病やカンボジアでの奉仕活動などに従事し、ノーベル平和賞の候補にも挙がったことがあるそうです。
パクさんは、2006年に日本の小田原で開かれた「道徳再武装(MRA)」国際大会に出席して発表しました。 「道徳再武装」なんて初めて聞きましたが検索してみますと、道徳と精神を標榜する国際的な組織で100年の歴史があるようです。 彼女はこの大会での思い出を語ったのが今回の『中央日報』のコラムです。 16年も前のことを鮮明に覚えているのですから、頭脳明晰な方ですね。
ところでこのコラムでは、韓国人が日本に対してどう考えているかについて、分かりやすく端的に説明しています。 韓国人の発想法というか考え方というか、理解するにはちょうどいいと思って紹介します。 おそらく読んでみて、これはおかしいし間違っているという感想を持たれる方が多いと思いますが、彼らの実際の文章に接してその思考パターンを知ることも重要でしょう。
日本と韓国はとても近い隣国です。 しかし相手国よりも強い国は常に弱い国を支配したがります。1910年、韓日両国にはとても悪い歴史が始まりました。 その当時、日本は韓国に比べてさまざまな面でとても強かったようで、その時代を生きた日本の人々は韓国を占領しました。 1945年韓国が解放されるまでの36年間、植民地として統治し、韓国の人々を抑圧して苦しめました。
私は幼いころ、その時の歴史を経験しました。最も強烈な記憶は、自分たちの言葉と文章を書くことができないことでした。 そして各自の姓と名前さえも日本語に変えなければなりませんでした。 そして私たちが栽培した米はすべて奪われ、韓国人は油を絞り出した豆かすで命をつないでいかなくてはなりませんでした。 私の母、祖母は金属器すら奪われるまいと奥に隠すことに苦心しました。 若い男性は戦場に連れて行かれて命を失い、いま韓国で挺身隊と呼ばれるその時代の若い女性たちは日本軍慰安婦として連れて行かれました。
後半で並べられた歴史のうち、事実といえるのは金属器の供出くらいですかねえ。 「豆かすで命をつないだ」のは解放後の話で、植民地時代の話ではないと思うのですが。
他の「自分たちの言葉を書けなかった」 「姓名を日本名に変えさせられた」 「米をすべて奪われた」 「男は戦場に連れて行かれて死んだ」 「挺身隊と呼ばれる若い女性が慰安婦として連れて行かれた」は、「歴史事実」とするには疑問であることはおそらく周知のことと思います。 これは「歴史事実」に対して、日本人と韓国人とでは認識が違っているからです。
日本では歴史資料を丹念に収集し検討したうえで「歴史事実」を探るものとされていますが、韓国では特に日韓関係史ではあらかじめ定まった歴史があって、それを根拠付けるのが「歴史事実」ということになります。 別に言えば、日本では新たな歴史資料が発掘されてそれまで信じられてきた「歴史」が揺らぐなんてことは珍しくないですが、韓国では特に日韓関係史が侵略の歴史であることが揺らぐなんてことはあってはならず、侵略の歴史を証明するためのものが「歴史事実」です。
別に言えば、日本では「歴史事実」は個々の各資料を緻密に検証していかねばならないということに対し、韓国では日本の侵略史を示す「歴史事実」をまず最初に知らなければならず、今さら事実の検証というのは侵略を否定しようとする意図があるからだ、ということになります。 日本人は自分たちこそが正しいと思うでしょうが、残念ながら世界では慰安婦問題等に見られるように韓国の方が理解を得られています。 (拙ブログ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/07/05/9506190 参照)
なお日本人の中でも、「韓国はウソつき」を証明するために偏った資料ばかりを集める人がいますね。 これは韓国人が「侵略の歴史」を証明するために、これまた偏った資料を集めているのと同じレベルです。 そしてどちらも、「真実はこれだ!」「相手は歴史を直視していない!」と叫んでいます。 私はこのような日本人を「韓国化した日本人」と呼んでいます。
日本植民地時代に抑圧されて苦痛を受けた韓国の人々はその全てのものを歴史として記録し、後の人々に語り継いでいます。 そのためこの時代を生きている現在の韓国の人々も胸中深く日本人を嫌って憎悪しているとみることができます。 私もそのような人でした。
韓国人は歴史を語り継いできたから日本人を憎悪している、これが一般的な韓国人の考え方です。
その瞬間、相馬さんの隣の席に座っていたケイコさんが急に私のところまでやってきて跪き、上半身をまっすぐにした姿勢で私を仰ぎ見ながら「パク教務、私たちをお許しください。私はキリスト教徒です。イエス・キリストの名の下に私たちの誤った過去に対して心からお詫びし、容赦を求めるのでお許しください」と涙声で話した。すると椅子に座っていた多くの人々が皆一緒に跪き涙を拭いて首をうな垂れた。
とても慌てた私はどうしたらよいか分からなかった。ケイコさんの視線は非常に強烈で、私が発表したすべてのことに一つひとつ言及して容赦を求めた。私は彼女を立たせて懐に引き寄せて軽く叩いた。私は他の人にもそのようにした。
ここに韓国人が日本人に何を求めているのかが分かります。
日本の過去の歴史の悪行を告発したパク・チョンスに、ひざまずきながらすり寄って涙声で許しを求める「ケイコ」。 彼女に合わせて周囲の日本人たちもひざまずき、涙を流してうなだれる。
これに対し、パク・チョンスはケイコたちを抱きながら許しを与える。
韓国人が日本人に対してどのような関係を求めているのか、よく分かります。 このような関係に真剣に答えてくれる「ケイコ」のような日本人こそ、韓国人が期待する日本人像なのです。 韓国人が元首相の鳩山由紀夫さんを高く評価する理由も分かりますね。
韓国では日本に対する「道徳的優位性」がよく議論になりますが、今回の『中央日報』のコラム「日本・小田原で起きたこと」を読めば、その韓国の「道徳」とは一体何なのかを理解しやすいのではないかと思います。
本稿で言いたいのは、韓国を批判するのではなく、隣国の韓国ではそのような考え方をしているということを知るべきである、ということです。
【追記】
8月26日付の『プレジデント』で、在韓日本大使館の元公使の道上尚史さんの一文があります。 https://president.jp/articles/-/60883
韓国人と日本人の思考法について、冷静に分析されています。 一読の価値があると思い、紹介します。
【拙稿参照】
韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/21/9501927
韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/06/28/9504029
韓国の「道徳」は日本と違う―小倉紀蔵(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/07/05/9506190
韓国人のアンビバレントな感情 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/01/8690297
韓国の反日感情はいつ形成された? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/08/8698008
35年前における日韓の認識差(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/20/8731033
35年前における日韓の認識差(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/11/26/8734592
35年前における日韓の認識差(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/02/8738535
35年前における日韓の認識差(4) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/08/8744482
日韓交流は相互理解に役立ってきたか? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/13/8747383
30年前の反日感情と違いはあるか http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/12/28/8756501
韓国の対日感情は理解が難しい http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/29/8813934
矛盾 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/31/8862743
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/03/9428968
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/10/9430861
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(3)https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/17/9432654