韓国では大統領を揶揄する小話があった ― 2025/09/14
1970~80年代の韓国は軍事独裁政権と言われていたぐらいで、新聞や放送などの統制が厳しく、国民は政治に対する批判を公然とすることが難しいなど、言論の自由なんてものはないのと同然でした。 しかしそれでも庶民たちは場末の飲み屋で、大統領を面白おかしく風刺・揶揄する小話を交わして楽しんでいました。 どんな小話かと言いますと、例を一つ挙げてみます。
ねえねえ、こんな話知ってる?
全斗煥がアメリカ訪問中にNASAの本部を訪れた時のことなんだけどね、そこにはロボットのような機械が置いてあってね、案内人が、これは誰でも頭を差し出せば知能指数をすぐに調べてくれる機械だっていったの。
全斗煥がお付きの者に、「お前が先にやってみろ」といって、機械のぽっかり開いているところに首を入れさせたんだって。 すると、機械が「大変優秀です、さすが大統領の随行員です」と言ったんだって。
お付きの者が「閣下もどうぞお試しください」と言うと、全斗煥も頭を入れたんだって。 するとロボットが「機械が壊れます、イタズラしないでください」って言ったんだって。 全斗煥はかんかんに怒って「けしからん、こんな機械」と言って、傍にあった大きな石を機械に放り込んだんだって。
するとロボットが「閣下、ようこそお出で下さいました」。
このように大統領という最高権力者に関心を持ちながら、政治に直接関係しない範囲で、フィクションであることが誰にでも明らかで、聞けばちょっと笑える小話が発達していたのです。 40~50年前の軍事独裁政権下の韓国ではこのような状況でした。
【全斗煥に関する拙稿】
全斗煥 元大統領 死去 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/11/23/9442532
全斗煥政権がオリンピックを誘致し成功に導いた http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/08/8784411
全斗煥の功績 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/13/8787078
オリンピック誘致で全斗煥政権を応援した日本の市民団体 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/01/30/8778939
木村幹『全斗煥』を読む(1)―捏造の北朝鮮軍事情報 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/06/9745027
木村幹『全斗煥』(2)―歴史問題は中曽根訪韓から https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/11/9746259
木村幹『全斗煥』(3)―反共主義で時代に取り残される https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/01/19/9748278
北朝鮮では首領様を揶揄もできない
私は当時(1970~80年代)、北朝鮮も韓国と同じ独裁国家だから人民も同じように最高権力者の金日成を揶揄する小話を交わしているに違いないと思っていました。 なにしろ北朝鮮では、学校でも職場でも地域でも次のような話が大真面目に語れており、全員これを全て完璧に覚えさせられていたのです。
偉大な首領金日成大元帥様におかれては、全社会を主体思想化する事業で、わが党と人民の前に生じる当面の闘争課業は社会主義の完全な勝利を成し遂げることだと言われました。
全社会を主体思想化するということは、偉大な首領様の革命思想、主体思想を唯一の指導方針として、わが革命を前進させ、主体思想に基づいて共産主義社会を建設し、完成していくことを言います。
わが人民は、敬愛する首領様と偉大な元帥様を党の首位に高く戴いた矜持と自負心を持って、主体革命の偉業を代々継承し最後まで完成する固い決意をする。
わが首領は、かつて誰一人身につけたことのない非凡な英知と卓越した指導力、高邁な共産主義的特性を一身に体現し、深淵な革命理論と偉大な革命的実践によって、現代史を新しく切り開き輝かしめた労働者階級のもっとも偉大な首領である。
ここでは四つだけを取り上げましたが、北朝鮮の人民はこんな話を何百・何千個も延々と聞かされるだけでなく、一つ一つ完璧に覚えて復唱せねばなりません。 だからそんな場が終わってから友人らと一杯やったりする時なんかには、「わが国で主体的にものを考えているのは、首領様だけだね」のような小話を言い合っていると私は思っていました。 つまり北朝鮮の人民は韓国の庶民と同じ民族なのだから、権力者からの抑圧には小話で揶揄するなどのささやかな抵抗をして、鬱憤を晴らすとか溜飲を下げていると思っていたのです。
ところが、そういうことは全くありませんでした。 北朝鮮では、そんな小話をちょっとでもすればすぐさま密告されて、本人だけでなく家族全部が粛清されるのです。 私はその事実を知って、北朝鮮の人民は韓国の庶民と同じ民族なのに全く違っていることをようやく知ったのでした。 北朝鮮は変なことを変だと呟くこともできず、おかしいことをおかしいと思ってもいけない社会だったのです。 そうして北朝鮮から漏れ出る人民生活の現状は、この観点から見てやっと理解できるようになりました。
当時、作家やジャーナリストたちが北朝鮮を訪問して、“北朝鮮の人々は質素ながら幸せに生活している”というような報告をする本や記事を出していました。 雑誌では『朝日ジャーナル』が多かったですね。 しかしそれらは虚構で、真実はその隠れた裏にあることを知り、『凍土の共和国』『悪夢の北朝鮮』などの北朝鮮の実態を告発する本を素直に読めるようになりました。 また韓国も軍事独裁国家でしたが、北朝鮮に比べればはるかにマシな国であることも分かってきました。
韓国の民主化活動家たちは場末の飲み屋で、時の全斗煥大統領を上述したような皮肉小話して楽しむことが出来ましたが、北朝鮮では首領様の小話が例え家族間でも全くできないほどに抑圧されていたのです。 ところが韓国民主化運動家たちは何故かそのことを黙っていることを知り、北朝鮮こそ民主化が本当に必要なのに何故?と、非常に白けた気分になったものでした。 私はさらに1989年以降の東欧やソ連の社会主義崩壊を契機に、北朝鮮批判をはっきりと言えるようになりました。 そして韓国の民主化運動=進歩は、北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できるものではないと考えるようになって今に至っています。
4・50年前の思い出話を書いてみました。
再度言います。 今の韓国ではいわゆる進歩勢力(かつて軍事独裁政権下で民主化運動を担い、それを受け継いでいる人たち)が政治・社会に大きな影響力を有し、大統領を輩出するにまで至っていますが、彼らは北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できるものではないということです。 自国の民主化運動をしながら、同じ民族で将来に統一せねばならないはずの北朝鮮を放ったらかしにするなんて、彼らの「民主化」理念はあまりにも疑問です。
わが日本でもこんな韓国の民主化運動=進歩勢力に同調・連帯する人たちが昔も今も多くいますが、彼らもまた北朝鮮の民主化に取り組まない限り信用できません。
光州事件は民主化運動として普遍化できるのか? https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/05/25/8859204
【北朝鮮に関する拙稿】
この世はすべて金―北朝鮮 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/05/25/9687110
在日朝鮮人が話す北朝鮮 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/12/19/9643754
北朝鮮には税金がない、その代わり‥‥ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/18/9660183
脱北して戻ってきた在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/02/25/9662215
北朝鮮の内部情報は? https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/28/8834853
天皇制と首領制の比較 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuugodai
北朝鮮と小中華思想 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuunanadai
朝鮮総連の人から聞いた話 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daihyakugodai
「南」に厳、「北」に寛だった日本のマスコミ https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/24/8832065
コメント
_ 海苔訓六 ― 2025/09/14 12:53
_ (未記入) ― 2025/09/15 06:15
そう考えると旧ソ連は、まだまともな政治体制だったんですね。
まあ北朝鮮は規模が小さいからこそ、カルト的な体制が成立しているんでしょうが。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
トロツキーは共産主義(民主化)の考え方を自国だけじゃなくて世界中に普及させなければならない!と主張したのに対してスターリンは自分の国だけ共産主義化(民主化)させれば良いだろ!と主張して、結局トロツキーは追い出されました。
今の韓国の民主化勢力はスターリンみたいですね。