中島岳志さん、それはちょっと違うのでは2019/10/15

 10月14日付の朝日新聞に、近頃の嫌韓現象について、中島岳志さんから意見を聞く記事がありました。 

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14217205.html?iref=pc_ss_date

 その中で、気になる部分を引用紹介します。

――何(近年の強い『嫌韓』の広がり)が、大きな要因に?

「その後(1980年代以降)、韓国が経済成長で国力をつける一方、世界における日本の相対的地位が下がったこと。根底にはこうした変化があると思います。韓国の姿勢も『日本に言うべきことは言う』と変化していきました。隣国の韓国が自己主張を強める姿は一部の日本人にとって、自信喪失と相まって気に入らない。保守派、とくに年長の世代により表れていると思います」

――朝日新聞の世論調査では、年長になるほど、韓国を「嫌い」と答える割合が増えていました。

「韓国を過去に見下していたような中高年世代にそうした傾向がある程度、あることは納得できます。この世代が時の変化に追いつけていない。それが今の日本のナショナリズムの姿です」

――80年代以降の政治における変化も影響しましたか。

「自民党が下野した93年の総選挙で初当選したのが安倍晋三首相です。このころ自民党内では、先の戦争を侵略戦争と認めた細川内閣やハト派の河野洋平総裁に反発する『歴史・検討委員会』が発足します。これが現在の安倍さんや周辺の動きにつながっていると思います。重要なのは、以前の自民党右派や保守論壇に反韓・嫌韓は強い形では見られなかったことです」

――「保守」のありようという視点でみると、安倍政権の韓国への姿勢はどう評価すべきですか。

「18世紀の英国の政治家エドマンド・バークに従えば、保守思想は、人間は不完全であり、人間の理性は間違いやすいと考えます。自分と異なる主張にも耳を傾け、『なるほど』と思える異論とも合意形成を図ろうとする。これが保守政治の矜持(きょうじ)です」

――保守政治家こそ韓国と対話すべきだ、と。

「そうです。『自分たちこそ正しい。韓国はおかしなことを言い続けている』という頑(かたく)なな姿勢は、私には保守とは見えません」

 近年の嫌韓の盛行は中島さんによると、かつて日本と韓国は大国と小国の関係であり、だから日本は韓国を見下してきた、しかし1980年代以降に韓国が力をつける一方、日本は国際的地位が低下してきた、そこで韓国は日本に対して強くものを言うようになった、しかしこれを理解できない日本の保守派がかつての小国だった韓国のイメージを持ち続けて、韓国は何と生意気になったのかと反発し、今の『嫌韓』となっている、というものです。

 彼は嫌韓をこのように解説しているのですが、ちょっと違うなあと感じました。 日本と韓国がかつて大国と小国であったのはその通りですが、当時は保守も革新も、日本は大国だから小国の韓国に対しては譲歩し、手を差し伸べねばならない、という考え方でした。 

 毎日新聞記者の澤田克己さんが、その著書『韓国「反日」の真相』(文春新書 2015年1月)で、日韓の政治家の重鎮がかつて次のような会話をしていたというエピソードを紹介しています。

韓国の金鐘泌元首相が「なんだかんだと言っても日本は大国ですから」と言い、中曽根元首相や竹下元首相らが「やっぱり韓国の事情も考えてあげないと」話していたのだという。(92頁)

 これに類した発言として「日本は大人の対応をせねばならない」というのがあり、これは言論人や知識人からしょっちゅう出ていました。 日本だけに「大人の対応」を求めるのですから、韓国を「子供扱い」していることになります。 革新系の政治家では、民主党政権の大蔵大臣だった藤井裕久さんが産経新聞のインタビューで「中韓は子供だと思って我慢すればいいんです」と発言していました。

 また毎日新聞の小倉孝保記者は、2014年6月13日付で「日韓関係について‥‥最近、日本側には誇りを傷つけられたと感じることも多い。ただ、そういうときこそ誇りを声高に主張せず、冷静に対応すべきだと私は思う。それが『強い国』の責任である」と書きました。 ここでは日本は「強い国」ですから、韓国は「弱い国」なのです。

 同じく毎日新聞は2014年2月17日の社説で「(日本は)成熟した民主主義国家として、中国や韓国に対して関係改善に積極的に動け」と主張しました。 日本が「成熟した民主主義国家」ですから、中国や韓国は「未熟な国家」ということです。

 以上のように、日本と韓国の関係は「大国と小国」、「大人と子供」、「強い国と弱い国」、「成熟した民主主義国家と未熟な国家」ということで、保守だけでなく革新も、そして言論界でも、最近まで有していた認識です。 中島さんは韓国を見下していたのは保守派のように語っていますが、実は革新派も、また韓国に理解があるとされているマスコミまでも同じであったことを指摘しておきたいと思います。

 そしてこういう関係だからこそ、日本は相手に言いたいことも言わずに遠慮し、手を差し伸べてきたのでした。 ここは中島さんが「以前の自民党右派や保守論壇に反韓・嫌韓は強い形では見られなかった」と言っているところですね。 いわゆる「金持ち喧嘩せず」の精神でした。 しかし中島さんの言う通り、今は韓国が力をつけ、日本は相対的地位が低下しました。 とすると日本はもう「金持ち喧嘩せず」の必要がなくなり、遠慮なく「言うべきことを言って」喧嘩する状況になったということです。 

 一方力をつけた韓国は、今度は日本との優劣関係が逆転したと思い始めたようで、日本を見下すことが露骨になってきました。 韓国の場合、自分が優位にあると思うと、その優劣関係を明瞭化しようと傾向が強いです。 劣位にある相手方を思いやるという発想は、なかなか出てこないのです。 

 中島さんは「保守政治家こそ韓国と対話すべきだ」と主張していますが、日本の保守政治家と韓国の政治家との対話は今でも時々やっていますね。 しかし互いに言いたいことを言い合うだけで物別れに終わり、感情的なしこりが残ったというものばかりです。 このままで対話しても、しこりが更に強くなるだけでしょう。 こんな状況で単に対話を呼びかけることは、無責任なだけです。 中島さんや朝日新聞が仲介の労を取り、実りのある対話ができるようにお膳立てすれば意味のある主張となるのですが、そんなつもりは全くないようです。 

【拙稿参照】

実は韓・中を見下している「毎日新聞」社説 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/02/19/7226754

「中韓は子供と思って我慢すればいい」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/27/7157809

毎日新聞 「“強い国”こそが寛容に」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/15/7344974

韓国では日本の存在感はない    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/02/17/8789342

世界で唯一日本を見下す韓国人      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/06/8216253

日本を見下す韓国(2)         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/12/22/8285733