金九―「妻の体を売ってでも美味しいものを」2021/06/30

 韓国の『中央日報』2021年6月29日付けの「【中央時評】コンプレックス民族主義と歴史清算=韓国」と題する記事を読む。  https://news.joins.com/article/24093297     https://japanese.joins.com/JArticle/280208    この記事の冒頭は、次の通りです。

金九(キム・グ)は韓国人が最も尊敬する人物のひとりだ。私はそうでない軸に属するが、かなり以前『白凡日誌』を初めて読んで受けた衝撃のためかもしれない。監獄生活の苦痛をありったけぶちまけた後、彼はこう続ける。「妻が若いので体を売ってでも美味いものを持ってきてくれたらとさえ思う」。

今日の政治家が金九のような言葉を残したとすればどうなるだろうか。社会も変わり、人々の意識も変わった。しかし今日、私たちが金九の話をどう思おうが、彼の言葉が当時の社会と人々の意識を反映しているのは事実だ。それを認めることは歴史に対する基本的態度に続く。今日の社会と意識を歴史的状況にかぶせることは、歴史解釈ではなく脚色あるいは創作だ。

 金九は李朝末期から植民地時代・大韓民国時代にかけての反日民族主義者として超有名人で、現在でも「韓国人が最も尊敬する人物のひとり」です。 ソウルには彼を顕彰する「白凡・金九記念館」があります。 彼の経歴や業績、評価についてはネット上でもかなり知ることができますので、関心のある方はお調べ下さい。

 ところで、この記事の中で私の目を引いたのは、金九が獄中で「妻が若いので体を売ってでも美味いものを持ってきてくれたらとさえ思う」とした部分です。 本当かな?と思って、平凡社東洋文庫『白凡逸志―金九自叙伝』(昭和48年6月 梶村秀樹訳注)を取り出して探してみました。 すると確かにありました。

いっそう耐えがたいのは、飢えさせる拷問だった。飯の量をぐっと減らしてかろうじて死なない程度だけ食べさせるのだが、こうして腹がすきにすいているときに、(ひとが)差し入れを受け取って食べている肉汁やキムチのにおいをかいだときなどは、食べたくて気が狂いそうになった。「妻が、年若いその身を売ってでも、おいしい食べ物を毎日いれてくれればよいのに」というような、あらぬ考えさえ浮かぶのだった。 (186頁)

わたしは、「女房を売ってでもおいしいものを思うぞんぶん食べてみたい」などと考えていたころに、警務総監明石元二郎(いわゆる憲兵警察の総元締め)の部屋に呼び入れられて、たいへんな優遇をされた。これ以下はないというような下の下の待遇にげんなりしていたわたしにとって、この優遇が嬉しくないわけがない。 (187頁)

 以上の二ヶ所です。 妻の体を売ってでも美味しいものを食べたい。 当時の朝鮮社会で実際にあったことかどうかは分かりませんが、金九がそうしたいと考えたのは事実でしょう。

 人間は追い詰められると、こんなことまで考えるようになるということでしょうか。 あるいは、妻の体を売ることにそれほど抵抗感がなかった時代だったということでしょうか。

 当時の女性の地位が極めて低く、男性は축첩(蓄妾)することが珍しくなかったですから、妻に売春させて金銭を得ることにハードルが低かったのではないかと私は思うのですが、どうなんでしょうかねえ。  そういう発言に違和感がなかった時代ということなのでしょう。

 今の韓国人が歴史上人物でもっとも尊敬するとされる金九が、実は「女房を売ってでもおいしいものを思うぞんぶん食べてみたい」と恥ずかしげもなく言っていたという事実を知ることができました。 こんな言い方は今の価値観で過去を裁断するものなのですが。

【拙稿参照】

伝統的朝鮮社会の様相(1)―女性の地位 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/08/29/9146768

コメント

_ 朝鮮雑記 ― 2021/08/19 11:17

金九の発言を疑問に思うなら、朝鮮雑記を読めば疑問は晴れると思います。
朝鮮雑記は1894年の朝鮮半島の風俗や習慣を記録した本で、時代的にもマッチしてると思います。
様々な項目ごとに分類されていて、「娼妓」の項目を読むと、夫は妻の為に客引きをし、料金の徴収もするそうです。
「娼屋」の項目も参考になりますので、こちらも読んでみて下さい。
朝鮮雑記は今でも買えますが、国立国会図書館から無料でダウンロード可能ですから誰でも読めます。
ただ明治時代の本のコピーなので、読み難い部分も多いです。

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