青木理・金時鐘の対談―帰化(1)2022/09/08

 「在日・帰化」について検索しみたら、ジャーナリストの青木理さんのサイトの中に、彼と金時鐘さんとの対談で在日の帰化について触れられているのを見つけました。

【青木理 特別連載】官製ヘイトを撃つ 第四回  「帰化した者は周囲の日本人が朝鮮人を悪し様に語るとき、 黙って相槌(あいづち)を打たなくちゃならんような立場」 在日一世の詩人・金時鐘氏に訊く①  (2019年7月17日付け) 

https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/column/hate/6472/3

 対談は金さんが帰化について解説し、青木さんが短く感想と質問を呈するものです。  まずは、在日社会では帰化をどう考えてきたのか、金さんは次のように説明します。

金時鐘: それにあの当時(1970~80年代)、在日朝鮮人同士のなかでも、いわゆる帰化という問題が、引きつづき日本で暮らしてゆくという定住の問題と絡んで表立ってきました。 それまでは帰化する……つまり日本人になってゆく人たちを同族の間で軽蔑していたんです。 いまはもうおおっぴらになっていますけどね。 在日朝鮮人はもう往年の半数にも充たない30数万といったところです。 それほど帰化した人が多くなってしまっています。

 「帰化する……つまり日本人になってゆく人たちを同族の間で軽蔑していた」は、事実ですね。 そして以下の対談を読むにあたって、金さん自身が帰化者への軽蔑を肯定する側に立っていることを念頭に入れてください。

 なお拙ブログでは下記のように帰化青年が民族に悩んだ末に自殺した事件を取り上げました。 自らの意思でなくても帰化していたという事実だけで在日同胞から軽蔑を受け、排撃されたのでした。 だから帰化青年は民族の裏切り者として自分を否定し、帰化を決めた父母を憎み、ついに自死を遂げたのでした。 在日同胞の帰化者への軽蔑が、犠牲者を生んだと言えるものです。

52年前の帰化青年の自殺―山村政明(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/08/17/9518301

52年前の帰化青年の自殺―山村政明(2)https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/08/23/9519952

52年前の帰化青年の自殺―山村政明(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/08/29/9521733

――(帰化は)特に最近は増えているようですね。

金: その日本国籍を取るにあたっても、差別の根の深さは如実ですよ。 帰化というのはまるで恩典のような扱いになっていて、日本国籍を申請するにも条件が非常に厳しいんです。 肉親に犯罪者がいてはならないとか、長期の疾病者であってはならないとか、納税をしているかどうかはもう基本条件で、かつては「窓口指導」というものまであったんですから。

 ここから金さんのウソが始まります。 

 金さんは帰化の「基本条件」として「肉親に犯罪者がいてはならない」「長期の疾病者であってはならない」「納税をしている」の三つを挙げています。 帰化の要件については検索すれば直ぐに6項目が出てきますので、金さんの言う「基本条件」と比べると彼のウソが分かります。 

 「肉親に犯罪者がいると帰化できない」なんてことはありません。 こんなウソを言っていたら、あの在日が帰化しないのはきっと肉親の誰かが犯罪者だからだなんていう噂が飛ぶかも知れませんねえ。 たとえ肉親に犯罪者がいても、世帯分離していれば帰化できます。 ただし同居家族に犯罪者がいれば、帰化は難しくなります。 分かりやすく言えば、在日の兄弟がいて兄が犯罪者の場合、弟は兄と同居していたら帰化ができず、弟が家を出て独立して生計を営んでいれば帰化することができます。

 また「長期の疾病者」もありません。 どんな疾病者であっても生計を営むだけの収入があって毎年確定申告しておれば、帰化は可能です。 こんなウソを書いていたら、障害者はどんなことがあっても帰化できないなんて噂が飛ぶかも知れませんね。 

「納税している」というのは不正確です。 夫が稼いで妻が専業主婦の場合、妻は被扶養家族として夫と一緒に帰化することができます。 この場合、妻は税金なんて納めていないで帰化します。 つまり「納税」は帰化の「基本条件」ではありません。

――窓口指導?

金: つまり市役所とか区役所とか町役場で、帰化申請の認可にあたって指導を受けるんです。 そこで日本人らしからぬ名前だと日本風に変えさせられたり。 しかも臭いのきついものは食べてはいかんとか、要するにキムチやホルモンなんかは食べてはいかんとか、そんな指導まで受けていた。

 ここはウソのオンパレードですね。 「市役所とか区役所とか町役場で、帰化申請の認可にあたって指導を受ける」は、全くのウソ。 市役所等は帰化申請書類に必要な外国人登録済証明書や納税証明書などを発行しますが、帰化申請の「指導」なんてする訳がありません。 帰化を取り扱う部局は、法務省の法務局です。 金時鐘という有名な在日知識人が、こんな常識を知らないことにビックリです。 

 百歩譲って法務局の「指導」があったとしても、「日本人らしからぬ名前だと日本風に変えさせられた」は、1985年以降はあり得ません。 85年からは、カタカナ姓でも帰化ができるようになったのです。 ですから帰化の際に日本風の名前を強制されたのは1985年までの話、85年以降はウソということです。

 次に「臭いのきついものは食べてはいかん」「キムチやホルモンなんかは食べてはいかん」という「指導」です。 法務局にしろ市役所にしろ、公務員がこんな「指導」をするなんて100%ウソです。 金さんはこんなウソをどこから仕入れてきたのでしょうか、そっちの方が気になります。

――信じがたい話です。まさに「官製ヘイト」じゃないですか。

金: さすがにこれは在日朝鮮人で市民運動をやっていた若者たちが抗議して、現在は窓口指導というのはなくなりましたがね。 それに帰化条件も近年になって、かなり緩和されてきてはいます。 でも、たとえば70年代前半ぐらいまでは、信用組合の取り引きひとつ簡単にはできませんでした。 保証人を2人は立てねばならず、そのうち1人は日本人じゃないといけない。そんな保証人になってくれる日本人はなかなかいませんよね。

 金さんのウソ話に、青木さんが「信じがたい」「官製ヘイト」だと憤慨しました。 私に言わせれば、どっちもどっち、です。

 「現在は窓口指導というのはなくなりました」は、上述したように「窓口指導」というのが元々ウソですから、なくなることもあり得ません。 法務局の窓口での指導というのは、帰化申請に必要な資料を説明し、それらをすべて集めてくださいと指導することくらいです。

 「信用組合の取引‥‥」以下の発言は、意味不明。 帰化すれば日本人となるのに、金融機関からお金を借りるのに何故日本人の保証人が必要だと言うのか、ここは金さんが混乱しておられるようです。 (続く)