道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(3) ― 2021/10/17
https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/10/9430861 の続きです。
―韓国と日本がもっと近寄って善隣関係を回復するために、助言をして頂けるとしたら?
将来コロナ19が小康状態に差しかかる時になったら、ビジネスマンや一般学生たちが互いに自由に往来することを切に期待しています。 しかし客観的に余裕を持ってお互いを見つつ、約束と礼儀をちゃんと守る関係になることを望んでいます。 一つ申し上げますと、1990年代までは韓日関係に問題が起きると、韓国が日本に対して憤慨し批判する場面が多かったです。 ところが21世紀、特にここ8~9年の間に、その基本構図が替わりました。 韓国は先ずその点を冷静に直視されるのがいいと思います。 「我々は日本をよく知っている、日本は韓国を知らない」という固定観念では、何も出来ないのです。
「『我々は日本をよく知っている、日本は韓国を知らない』という固定観念」は、逆に日本の嫌韓派が韓国を論じる際の固定観念も同じレベルですね。 嫌韓派は韓国語すらできないのに、韓国のことは何でも知っているかのような発言を平気でします。 韓国の反日と日本の嫌韓は同じ穴のムジナと言っていい、と私は考えています。
―中国にも勤務されたようです。中国の日本観と韓国の日本観には違いがありますか?
私が2007年~2009年、中国の政府官僚、教授、記者たちとたくさん会いました。 中国の新聞で「中国は二次大戦後の日本に対する理解が足りず、偏見がある」という反省の文章が載っているのを何度も見ました。 「中日関係が順調でない要因が何か」と問う世論調査で「我が中国の民族意識と反日感情」と答える人たちが10%程度あるのを見て、驚きました。 これは中国の短所ではなく長点です。 私がその当時、文化とメディアの担当公使をしていたのですが、中国の北京大学、精華大学、人民大学、北京外国語大学などの名門大学がアニメーション・映画・ドラマなど盛大な日本文化イベントを主催して、学生たちが熱狂する姿に驚きました。 北京大学の学生たちが、私の知らない日本のアニメ曲を教えてくれるほどです。 日本の政治家や社会現象に対する官僚や学生たちの関心が、韓国よりも中国の方が大きいことがよくありました。 浮世絵や歌舞伎などの日本伝統文化に対する関心もそうです。 中国は日本を知るために、常に努力しています。
韓国に比べて中国を高く評価しておられます。 私の狭い範囲ですが、中国人は個人的に知識が広く優秀な人が多いと思いますが、国家レベルで対日本となるとどうなのか。 これは韓国人でも同様に思えるのですがねえ。 日本を客観的に見る意見が、中国でも韓国でも弱いように感じます。
―韓国が現在繰り広げている対中外交について、助言していただけますなら‥‥。
韓国は経済規模もあり、国際的影響力もありますが、中国に対しては「どうしようもない」という「無力感」が見えると思います。 東南アジアは韓国と比較できないくらいに中国に対する経済依存度が高いではないですか。 それでも幾つかの国は中国に対して堂々と外交・安保の主張をしていますよ。 アメリカ・日本と手を握ることも有効だと言うし‥‥。 そうすることもできるのではないかと思います。 ところで韓国は日本に対して、対中国のような無力感とは正反対というのですか、まるで「日本は韓国の意のままに動かねばならない」、こちらの言うことが違うと思ったら「歴史の軽視であり帝国主義の残滓だ」という式ですよね。 韓国が中国と日本に対して、このようにそれぞれ、ちょっと独特の傾向がありますが、韓国の外交において有利なことではないと感じます。
「韓国は日本に対して‥‥まるで『日本は韓国の意のままに動かねばならない』、こちらの言うことが違うと思ったら『歴史の軽視であり帝国主義の残滓だ』という式ですよね」は日本人の大多数がそう考えているのですが、果たして韓国人が自分たちのそれを分かっているものなのかどうか。
韓国人全体が「日本=悪」「韓国=善」という思考に凝り固まっているような印象があります。 なお日本でも一部ですが嫌韓派やネットウヨなんかで「韓国=悪」という思考に凝り固まっている人がいますので、あまり偉そうなことは言えないですね。
―最近、日中韓三国協力事務局で主催した「高齢化とビジネス革新」フォーラムを聞いたのですが、有益でした。 日中韓三国は、高齢化が世界で一番急速に進行しています。特に日本は80年代から高齢化、60年代から環境問題、もっと以前から災害防止に真剣に取り組んできました。 このようなところは、韓国も中国も参考になるでしょう。
ありがとうございます。 高齢化は韓国、中国、日本の共通課題です。 ある人が言っていたのですが、韓国は高齢化の速度が一番早くて「最速」だと、中国は規模が一番大きくて「最大」だと、日本は昔からであって「最古」だと言うのですよ。(笑い) 研究者たちが参加して興味深く具体的な対話を交わしました。 高齢化の他にも、三国のコロナ19対策、都市再生、学生交流、記者交流、農村活性化についてウェビナー(オンライン セミナー)を開催しました。 日中韓三国の政府間では首脳会議と21個の長官級会議があります。私が特にやりがいを感じる分野は環境、災害防止、保健など、三国すべてで切実な問題です。 この分野は何といっても日本が経験を多く蓄積していて、韓中が多くの関心を持っています。 ところで韓中の強化された行政について日本も注目しています。 例をあげると、全国民的医療と保険データベースは韓国にだけあるのですよ。 一言で言って互いに学ぶことが多いのです。
―今日も韓国語でインタビューを進めましたが、事務局長は韓国語もお上手です。 文章も韓国語でお書きになるのですか? 40年近い歳月の間、韓国語もたくさん変わりましたが、お感じになられた点があれば、おっしゃってください。
日本の外務省で英語に加えて韓国語を勉強するよう指示されたのが私の運命であり幸運でした。 韓国についての関心は言葉の勉強から始まりましたね。 韓国語で、人でない無生物に敬語を使うのはちょっとどうですかね? 「ピザが出てこられました。トイレは右側におられます」などなど。 ああ、それよりお年寄りたちの記憶と認知に問題が生じると「痴呆」と言いませんか? 日本も20年前にはそうだったのですが、今はその症状に対する偏見を助長するとして使いません。 当然のことながら、このようなことは韓国の方が判断されるものですが。
「치매(痴呆)」は韓国ではよく使われます。 漢字で書くと差別語であることが丸わかりですが、ハングルではそういう差別性が分からなくなるのかも知れません。 韓国人に「인지증(認知症)」と言っても通じません。 (終わり)
【拙稿参照】
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/03/9428968
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/10/9430861
韓国語のできない嫌韓派 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/28/9052386
韓国語が出来ずに韓国を論じる人たち http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/03/16/9047781
嫌韓派と韓流派 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/01/17/7540292
水野俊平『笑日韓論』 (続) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/09/20/7439097
漢字を廃止した韓国で「知的荒廃」?-呉善花(12) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/03/09/7240684