道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(2) ― 2021/10/10
http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/03/9428968 の続きです。
―民主主義とポピュリズムという側面から、韓国の「外交」をどのように見られますか?
一般論として申し上げます。 外交というのは相手方があることで、自分の意のままにならないものではないですか。 大国、小国は言うに及ばず、まず相手方がなぜそのように主張するのか、その国内事情をよくリサーチせねばなりません。 また国際法、国際的慣例も当然把握せねばなりません。 そして色んなオプションの中で、国益上最善の政策を選ぶのですが、国内世論を説得するのも重要です。 国益に一番良い方針が国民に人気がないこともあるのですから。自由でないのが外交です。 相手国を十分研究してこそ外交は可能で、それは屈辱ではありません。 世論、雰囲気、コードで発想するならば、国家の羅針盤がよく機能せず、漂流する憂慮も出てきます。
「一般論」としていますが、韓国が日本を十分に研究しないまま対日外交を繰り広げていることへの批判ですねえ。
―外交官でいらっしゃいますから、韓国が日本に対して理解が足りない部分、または国際感覚において韓国が足りないと感じる部分があれば、おっしゃって下さい。
韓国には「私は寿司が好きだ、居酒屋に行く、日本旅行にたくさん行った、子供たちが日本語を勉強している、だから日本をよく知っている。私たちの世代は反日ではない」とおっしゃる方がいます。 しかし楽しんで消費することと、日本に対する外交は別個の問題です。 私が見るには、最近の韓国は対日関係を上手に構築しようと努力する姿が見えません。 国家の次元で相手方の国に対して緻密に研究し、神経を使うことが必要なのですが、対日関係をちゃんと管理し改善しようと作業が見えてこず、日本関連のニュースの一つ一つに即刻的に反応して反発するのが目立ちます。 日本は、韓国の外交・安保・経済の大きな構図の中で、鍵となる国の一つなのですよ。
そして昔に比べて、平均的な日本人の韓国に対する知識が大幅に増えました。 ソウルで暮らす日本のビジネスマンが「丙子胡乱」「三田渡の屈辱」を知っているのを見て、ちょっと驚きました。 目覚ましい経済発展で韓国の存在感が大きくなり、韓国の国内ニュースがすぐさま日本に伝わる時代です。 歴史の問題を内包する中国や東南アジアなど色んな国があり、日本ではそれぞれの国を比較するのでよく見えてくるのですよ。 そのうちの韓国は、日本に対する真剣で客観的な姿勢が一番に必要な国だと思います。
―朴槿恵政府と文在寅政府を経て、日本内で韓国に失望する人たちが多いと聞きますが、実際にそうなのですか?
はい。 実際にそうです。 私の親戚は政治の話に関心がありませんが、韓国を何度も訪問したり、韓流ドラマを字幕なしで楽しんで見る人たちなんです。 7~8年前に私に会った時、「お前は韓国の仕事をしている国家公務員だから言えないのだろうが、私らにとってあの国はもういい、友人になることが出来ない国だとよく分かった」と言うのですよ。平均的な日本人より韓国に親近感がある日本人がこうなのです。 韓国では日本の「嫌韓」を「保守勢力の政治活動」とする見方がありますが、実は違います。
もう一つ、日本の高校生たちが海外修学旅行にどこへ行くのかを集計した数字があります。2002年から2011年までは韓国がいつも1位か2位で、全体の20%を占めていました。 しかし2012年以降、急速に減少し、上位圏から消えました。 今は1%にもなりませんよ。 韓国に修学旅行に行く生徒数が、シンガポールの20分の1、オーストラリア、マレーシアの10分の1、ベトナムの4分の1です。 私が見ても衝撃的でした。 修学旅行は学校で生徒と保護者、先生が話し合って行き先を決めるのですが、これは政治とは関係のないことです。 平均的な日本人が韓国に対する気持ちが離れているということが分かります。
ところで20年前は、韓・日関係が良かったです。 1999年から2002年のワールドカップ共同開催前のころ、韓国の人たちがこんなことをよく言っていました。 「日本は誤解するな。私たちは成熟した社会だ。何でも韓国が正義、日本が悪だと規定するのではない。私たちは日本を客観的に見て、建設的な関係を結ぶことが出来る。」
その契機となったが1998年の金大中大統領の日本訪問でした。 日本の国会演説の中で「IMFの時、日本はどの国よりもたくさんの協力をしていただきました。 心から感謝します」とおっしゃいました。 その時、私を含めて日本国民が大変新鮮に感じ、感銘を受けました。待ちに待った指導者がやっと登場したんだなあ、日本を理性的・建設的に見て、感謝することは感謝して、国益上において日本の重要性を深く知っておられる方が登場したんだなあ、これから両国は信頼と協力関係を持つことができると期待しました。 ところで、このごろの韓国はどうですか? 大きく後退したように見えます。
韓国人に読まれることが前提のですので言い方はソフトですが、韓国に対してなかなか言えなかったことを吐き出したという感じですね。
―韓日関係がうまくいったならば、という気持ちが誰よりも切実でいらっしゃるのに大変残念です。
はい、一番最初に紹介しましたソウル大学教授の指摘のように、「日本はもうよく知っている。もう知ろうとする努力はしない」というのが今の韓国人の実態に近いです。 一時希望を見ただけに、余りにも残念です。 日本は過去40年の間に韓国を三回「発見」しました。 最初は1984~1988年です。 1984年に日本のNHKで韓国語講座を始めたのですよ。 88オリンピックは非常に影響が大きかったです。 それ以前は、韓国は学生デモや軍部独裁、拷問など暗い印象でしたが、この時期に漢江の奇跡、文化、スポーツなど多様な姿を知るようになりました。 二番目は1998~2002年です。金大中大統領の訪日と韓日ワールドカップ共同開催など、希望を持つようになった時期でした。 三番目は2012年以降現在までです。最初と二番目は肯定的な発見でしたが、三番目は韓国に対する失望と「距離を置く」状態です。 これは一時的な現象ではなく、構造変化と見なければならないものです。 韓国に対する偏見、優越感から生まれたものではないのですよ。 韓国をリスペクト(尊敬・敬意)していた人ほど失望が深いと言うこともできます。
「三番目は2012年以降現在までです‥‥韓国に対する失望と『距離を置く』状態です」とありますが、これは事実ですね。 2012年の8月に、時の李明博大統領は竹島に上陸し、天皇へ謝罪要求発言をしました。 これがきっかけで、日本の対韓感情が険しいものになったのでした。
それを具体的に示す数字は、道上さんは日本高校生の修学旅行先が2011年までは20%だったのに2012年以降急減し、今は1%以下だと指摘しておられました。 それ以外に日本から韓国への観光入国者数の急減も挙げておきます。 2012年9月まで毎月30万~35万人だった観光客は同年10月以降20万~24万人に激減し、回復することがありませんでした。
今の日本の対韓感情の悪化は、李明博大統領から始まったと言えるでしょう。 日本では韓国の進歩の反日にうんざりしたのか、保守に期待する人が多いようです。 しかし保守の李大統領が自ら率先して反日行動し、それが日本の対韓感情悪化につながって今に至っているのですから、韓国の反日は進歩も保守も関係ないということに留意する必要があります。
「韓国に対する偏見、優越感から生まれたものではないのですよ。 韓国をリスペクト(尊敬・敬意)していた人ほど失望が深いと言うこともできます」は、韓国人に是非知ってほしい日本人の本音ということなのでしょう。 しかし彼らが共感するのかどうか、たとえ共感できても、口になかなか出せないのが今の韓国ですからねえ。
道上尚史事務局長のインタビュー―『月刊中央』(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/10/03/9428968
李大統領の発言 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/08/18/6546033
『朝鮮日報』記事に出てくる若宮啓文のコラムとは http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/11/18/6636750