4・3事件―ハンギョレ新聞も南労党を隠ぺい ― 2022/11/03
韓国のハンギョレ新聞に「ヤン・ヨンヒ監督「記憶を失っていく母…日本人婿に打ち明けた済州4・3」と題する記事がありました。(2022年10月21日付け)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1063651.html?_ga=2.176699488.433915441.1666479846-33680394.1595957328 https://japan.hani.co.kr/arti/culture/44898.html
ヤン・ヨンヒ監督の『スープとイデオロギー』という題名の映画を紹介するものです。ヤン監督の母親は済州島4・3事件の際に日本に密入国した方で、長年その事件を語ってこなかったが、娘のヤン監督が日本人男性と結婚したことを契機に事件を語り出したというドキュメンタリー映画です。
この記事を読んで一番の違和感は、「南労党(南朝鮮労働党)」が全く出てこないことです。 4・3事件を簡単に概説しますと、
1948年の4月3日までの済州島では、南労党を中心に単独政権に反対する活動が活発で、それに対して警察や右翼(西北青年会)による激しい弾圧が続いていた。 そしてこれに対抗して4月3日の未明、南労党の武装組織(遊撃隊とか山部隊、武装隊と呼ばれる)が決起し、警察署12ヵ所と警察官・右翼の家を襲撃したことから始まるのが「4・3事件」である。
当初は南労党側が圧倒的優勢で、済州島における単独選挙の阻止に成功し、選挙は延期された。 その後も南労党の優勢が続くのだが、本土から軍部隊が応援に入り、形勢は互角となる。 そして両者の赤色テロと白色テロの応酬のなか、警察・軍側が優勢となる。 単独選挙は翌年の5月に実施された。 南労党はどんどん縮小していき、少数の残存部隊が1953年まで活動を続けたのであるが、結局は壊滅した。
事件のあらましは以上ですが、事件の当事者であるはずの「南労党」がハンギョレ新聞の記事には全く出てこないことに、大きな違和感を持つのです。
事件では、済州島の住民は赤色テロと白色テロの激烈な闘いのなかでどちらかを選択することを強制されます。 南労党側についた村は警察・軍側から見ればパルゲンイ(赤)の村と見なされましたから、過酷な弾圧の対象となり、白色テロが横行しました。 パルゲンイ村は漢拏山の中山間部に分布しており、生業の畑作や牧畜がほとんど不可能になりました。 村人は生活に困難を極め、多くの人が日本へ密航しました。 ヤン・ヨンヒ監督の母親もこの時に日本に来たようです。 ですから、おそらくパルゲンイ村の村人だったのでしょう。 記事では次のように続きます。
2018年に母を連れて4・3事件70周年の犠牲者追悼式に参加するために済州を訪れた‥‥母の初めての帰郷だった。 「母は韓国に行くことを怖がっていました。 もう民主化されて、4・3事件も政府が認めて、平和公園もできたのだと言っても信じませんでした」。 若い頃は、北朝鮮を強く信じる母は何も知らないのだと思っていたが、韓国では銃刀で脅され追い出されるように日本に渡り、日本では数十年間差別されたことで、「心の故郷、祖国が本当に欲しかった人なんだな。 つらいことがあった人ほど信じるものがなければ生きていけないけれど、母には北朝鮮が信じるものだったんだな」ということを理解した。
母親が「北朝鮮を強く信じた」理由は、4・3事件では南労党側にいて凄惨な白色テロを見たからではないかと考えられます。 以上のような経緯でしたから、記事に南労党が出てこないことに私が大きな違和感を持つのはご理解いただけるでしょう。
次に、日本人婿の荒井さんの発言にも、大いなる違和感を持ちました。
荒井カオルさん‥‥は「4・3事件は日本の植民地支配の責任とも結びつく歴史だ。日本人が、外国の歴史ではなく自分の祖母や祖父につながる過去だということを映画を通じて知ってくれれば」と語った。
1945年の解放(終戦)時に、日本は植民地としていた朝鮮の統治を終了させ、その後の治安・経済・政治の全てを現地の朝鮮人に任せて、朝鮮から去りました。 解放後の朝鮮は全的に朝鮮人たちが責任を負うことになります。 4・3事件はその解放から3年も経って発生した事件です。 事件当事者である南労党も警察・軍も朝鮮人たちが自らつくった組織なのであって、日本は関係ありません。
その南労党と警察・軍との双方が悪魔と化して狂気のテロを互いに繰り広げたのが4・3事件です。 つまり解放後の朝鮮人(韓国人)たちは自らの行く道を自ら選び、そして敵対関係となって殺し合いの闘争をしたのです。 そんな事件がなぜ「日本の植民地支配の責任と結びつく」のか、もう全く理解できません。 荒井さんという方は歴史をどのように勉強されたのでしょうかねえ。
【拙稿参照】
済州島4・3事件の赤色テロ(1) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/10/8890890
済州島4・3事件の赤色テロ(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/18/8896622
済州島4・3事件の赤色テロ(3) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/23/8900976
済州島4・3事件の赤色テロ(4)-警官家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/06/30/8906338
済州島4・3事件の赤色テロ(5)―右翼家族へのテロ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/05/8909472
済州島4・3事件の赤色テロ(6)―評価は公平に http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/07/10/8912907
4・3事件-南労党を隠ぺいする読売解説 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/11/19/9000560
4・3事件 南労党を隠ぺいする毎日新聞 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/02/29/9218957
南労党を隠ぺいする韓国マスコミ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2019/04/04/9055271
韓国映画『チスル』 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/06/01/7332806