韓国語の雑学―전산이기(電算移記)2023/06/17

 知り合いの在日韓国人女性から、夫が亡くなって今相続の手続きをしている、そのために領事館に行って戸籍(除籍謄本)を取り寄せた、自分はハングルが読めるので自分で翻訳している、しかしどの韓国語辞書を引いても出てこない言葉が出てくる、どういう意味なのか教えてほしい、と尋ねてこられました。

 何だろうかと見ますと「전산이기」でした。 その方が取り寄せた韓国戸籍はデジタル化された戸籍とデジタル化される以前の手書き・ワープロ打ちの戸籍の二種類があったのですが、前者のデジタル化された戸籍に「전산이기」という言葉がありました。 確かに「전산이기」は韓国語の辞書にはありませんねえ。

 実は「전산이기」を漢字に書き直すと「電算移記」になります。 韓国では20年ほど前に、それまでの戸籍をすべてコンピューターに移し替えてデジタル化しました。 このことを指しています。 ですから「전산이기」は、この日に“電算に入力した”という意味です。

 「전산이기」は戸籍にだけに使われる行政用語のようです。 一般の韓国人には何のことやら分からず、ましてや在日も分からないでしょう。 ただし在日は漢字を解しますから、「電算移記」と漢字にすると意味はすぐさま理解しますね。

 ところでその女性からお話を聞かせてもらうと、〝夫は昔運輸業を経営していて、その関係であちこちに不動産を所有して残っている、だから相続の手続きが必要になった"とのことでした。 また領事館近くの行政書士事務所では戸籍の翻訳は一枚5000円と言われてビックリして、それでは自分で翻訳すると言ってきたそうです。 〝民団に頼まなかったのか"と聞いたら、〝この地域の民団は加入者が減って、遠くの民団に統合されてしまった、その時はもう運輸業も止めていたのでそれを機会に民団から抜けた"とのことでした。

 ところで在日の相続ですが、相続人を確定するために韓国戸籍が必要になります。 今回の場合亡くなった方(男性)は兄弟が数人と少なく、また今の女性と結婚してずっと暮らしてきて、離婚とかせず、愛人も作らなかったので、取り寄せた戸籍(除籍謄本)は少なくて済みました。 それでも数十枚(本人だけでなく父母、祖父母、兄弟、兄弟の子孫のもの、しかもデジタル化したものとそれ以前のものの両方が必要)くらいだったそうです。

 今回は「전산이기」という韓国語の勉強でした。

 在日一世の男性の場合、色んなケースがあります。 例えば、戦前日本に渡航する前に既に結婚していて子供がいて、日本に来てから終戦となって朝鮮に帰れなくなり日本でまた結婚(重婚)して子供を作った、という場合が結構あります。 遺された妻が相続の手続きをせねばならないのですが、見たこともない韓国の本妻やその子供とどのようにして連絡を取るかで悩みます。

 また戦後に密航で来日して、不法に外国人登録証を入手してその名前で在日と結婚して子供を作った、という場合もあります。 この場合でも、本人が警察や入管に自首して新たな在留資格を得て、真正の身分での外国人登録と韓国戸籍整理をしてくれていたら楽なのですが、そうでない場合も結構あります。 

 こんな人が亡くなったら、後に遺族がせねばならない相続が実に複雑になりますね。 在日の相続については、日本人とは違う苦労があります。

【拙稿参照】

韓国語の雑学―賻儀  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/26/9543701

韓国語の雑学―将棋倒し http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/15/9235466

韓国語の雑学―下剋上  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/22/9237987

韓国語の雑学―「クジラを捕る」は包茎手術の意 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/10/9325273

韓国語の雑学―내로남불(ネロナムブル) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/01/04/9334079

韓国語の雑学―東方礼儀の国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/17/9388692

韓国語の雑学―동족방뇨(凍足放尿) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/09/02/9418323