韓国の小説の翻訳に挑戦(9)―ファン・ジョンウン2016/07/05

 韓国の小説の翻訳です。

 若手の作家ですから、日本ではほとんど全く知られていません。この作品は韓国の文学賞を受賞しましたので、韓国人には情緒に合うものなのでしょう。日本では受け入れられるものなのか、私には分かりませんが‥。

上流は猛禽類 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/jyouryuuhamoukinnrui.pdf

【これまでの小説の翻訳】

クォン・ヨソン「伯母」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/imo.pdf

申京淑「ある女」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/aruonna.pdf

申京淑 「伝説」  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dennsetsu.pdf

申京叔「今私たちの横に誰がいるのでしょうか」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/imawatashitachinoyokoni.pdf

孔枝泳 「真剣な男」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/shinnkennnaotoko.pdf

孔枝泳「存在は涙を流す」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/sonnzaihanamidawonagasu.pdf

殷熙耕 「私が暮していた家」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/watashigakurashiteitaie.pdf

殷熙耕「他の雪片と非常によく似たたった一つの雪片」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/tanosubete.pdf

由来の不明な韓国の半跏思惟像2016/07/07

 今、東京国立博物館で奈良中宮寺の半跏思惟像と韓国の国宝78号の半跏思惟像が並んで展示され、話題になっています。 この日曜日で見納めですが。

  韓国にはこの国宝78号以外に83号の思惟像があり、こちらの方は京都広隆寺の思惟像とよく似ていることで有名です。

 ところでこの有名な韓国の思惟像について、一体どこのお寺に祀られていたものか、といった基本的な情報が全くないことに気付かれたでしょうか。 これは日韓併合後に、骨董屋から入手されたもので、その骨董屋がどこでどのように手に入れたのか、よく分からないためです。

 韓国では李朝時代に仏教が弾圧され、僧は賤民階級に落とされます。 従ってその時まで大切に祀れていた仏像は、大部分が行方不明になります。 かなりの仏像が日本に流出したり、あるいは破壊から守ろうとしたのか地中に埋められたりしました。

 従って日本ではあり得ない話ですが、韓国では完形の仏像が「出土品」として紹介されるものがあります。 今回の展示にはありませんが、もう一つの国宝83号は「出土品」とされています。

 今回の78号半跏思惟像も、韓国のどこの地方の、どこのお寺にあったものなのかすら不明です。 少なくとも李朝時代の数百年間は、他の仏像と同様に全く祀られず、大切にされていなかったと言っていいものです。

 今回の展示を見に行かれる方は、韓国の仏像受難史に思いを馳せてくれたらいいなあと思います。

 韓国の半跏思惟像については、これまで拙論で三回ほど取り上げたことがあります。 合わせてご閲覧下さい。

金銅弥勒菩薩半跏思惟像   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/10/09/553649

金銅弥勒菩薩半跏思惟像(2)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/12/11/7514362

金銅弥勒菩薩半跏思惟像(3)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/10/29/7874375

水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日2016/07/12

1946年3月、10万円以上の財産をもつ資産家に財産税が課せられているが、その対象となる朝鮮人はおよそ1,000人に達していた。 ‥‥10万円は現在の金額で5千万円以上に値するといわれる。(85~86頁)

 この時の財産税とは、敗戦直後の財政難と超インフレの対策の一つとして、戦災で財産を失わなかった富裕層から税金を取ろうとしたもので、一時的措置でした。 この財産税の課税対象者に朝鮮人が1,000人もいたとは! この事実はこれまで知りませんでした。

 私は在日朝鮮人の色んな手記を読んだり一世のお年寄りたちから話を聞いたりしてきましたが、言葉も分からず知り合いも少ない日本にカバン一つでやって来て、ただひたすら働いて故郷に仕送りして生活してきたという身の上話ばかりです。 だから在日朝鮮人は無一文から出発したといって過言ではありません。

 しかしせいぜい長くて30年、大抵は10~20年ぐらいの間に、当時のお金で10万円(現在の価値では5000万円以上)の財産を形成し、戦災でその財産を失わなかった朝鮮人が1,000人もいたのです。 戦災で財産を失った朝鮮人も多くいたでしょうから、それも含めると何千人かの植民地人が帝国主義本国で、言葉に不自由しながらも裸一貫の無一文から始めて、これだけの財産を作ることができたということになります。 彼らには家族もいたでしょうから、朝鮮人資産家の人数はかなりの数になるでしょう。 

 戦前の日本は、朝鮮人でも誰でも法律・ルールを守ってまじめに働き、質素・倹約の生活をすればそれなりの財産を築くことが出来たということが、この本からも分かります。

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/14/8089137

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/19/8092119

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/19/8115076

水野・文『在日朝鮮人』(10)―来日した朝鮮人子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/26/8118773

安部首相は大物なのか小物なのか2016/07/14

 日本では安倍首相をヒットラーになぞらえる人が多いです。 「安倍 ヒットラー」で検索すると、かなりヒットします。 日本の首相は世界政治にそれほど大きな影響力を与える存在でないはずですが、日本の反対派や野党からはヒットラー並みの大物として評価されているわけです。

 しかし韓国の朝鮮日報では、安倍首相を「大きな器ではない」とする記事が出ました。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/07/13/2016071300760.html

日本の安倍首相は大きな器ではない。 交友は幅が狭く、風ぼうは線が細く、考えは偏っている。 うまく行っていたアベノミクスも壁にぶつかった。 それにもかかわらず、衆参両院を掌握した。 一人で成し遂げたわけではない。 弱い野党のアシストがなければ、こうしたことにはなっていなかっただろう。

 韓国ではえらく小物に見られたものです。 しかも「交友は幅が狭く、風ぼうは線が細く、考えは偏っている」とまで言っています。 わが韓国の朴大統領は交友が広く、風貌の線は太く、考えは公平であると思っておられるのでしょうねえ。

 安倍首相をどう評価するかは各自それぞれですが、こういう評価の違いを見ていくと、興味深いですね。

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問2016/07/19

23(大正12)年9月1日、関東地方を襲った大地震とそれによる大火災のなかで、数多くの朝鮮人が日本の軍隊・警察、さらには日本人自警団などによって虐殺される事態が生じた。 「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「爆弾を持って襲撃してくる」などの根拠のないデマが流れ、それを信じた自警団が避難する朝鮮人を捕まえて殺害したり、警察が保護を名目に朝鮮人を収容しながら、警察署の中で殺害したりする事件が関東地方各地で起こった。 殺された朝鮮人の数は司法省の発表では233名、朝鮮総督府の資料では832名、政治学者吉野作造(1878~1933)の調査では2,711名とされるが、朝鮮人留学生らの「罹災同胞慰問団」の名目で行なった調査では6,415名という数字があげられている。 日本政府が朝鮮人虐殺の事実を隠すため調査を妨害したので、正確な死者数は不明だが、千名単位の死者があったことは否定できない。(18~19頁)

 在日朝鮮人の歴史では必ず出てくる「関東大震災の朝鮮人虐殺」です。 内容はどの本を見ても大体同じで、この本もその一つです。これを読みながらいつも疑問に思うことが幾つかあります。

① 殺された朝鮮人の数については、いろんな説があるのは分かるのですが、‘殺された’のではなく‘災害で亡くなった’朝鮮人の数を記しているものが一つもない、ということです。 大震災で亡くなった人の総数は今は10万5千人ぐらいとされており、この中には当然朝鮮人が含まれているはずです。 しかし何人の朝鮮人が災害で亡くなったのかが、分からないのです。 そして研究者はこの人数を調べようとせず、ただひたすら日本人に‘殺された’朝鮮人の数だけを調べているのです。

② 何千人もの朝鮮人が殺されたのが事実であるなら、在日朝鮮人の人口統計に出てくるはずです。 そこで大震災発生年である1923年を中心に1920年~1925年の人口統計を探してみました。 (樋口雄一『日本の朝鮮・韓国人』同成社 2002年6月 206頁 より作成)

 年    在日朝鮮人人口  対前年比増加率(%)

1920年    30,189

1921年    38,651         28

1922年    59,722         55

1923年    80,415         35

1924年    118,152         47

1925年    129,870         10

 このように在日朝鮮人口は一貫して増加しています 。特に大震災のあった1923年の前後を見れば、数千人が殺されたはずなのに、人口が数十%の割合で増加しているのが分かります。 (ちなみに1925年の増加率が10%と低いのは、朝鮮人の日本渡航制限が始まったからです)

 つまり何千人もが虐殺されたとは、とても考えられない統計数字なのです。 これを説明する研究者がいないのは、どうしたことでしょうか?

③ 朝鮮人が殺されたという話ばかりが出てきますが、朝鮮人を守ったという話が出てきません。 例えば大川常吉という警察署長は300人の朝鮮人を自警団から守り、朝鮮人たちから感謝状を贈られています。 http://www.bo-sai.co.jp/kantodaisinsaikiseki5.html  こういう話はもっと取り上げられたらいいと思うのですが、在日朝鮮人史の本には出てくるのを見たことがありません。

 以上、疑問点を挙げました。 こんな疑問は誰もが持つものと思っていたのですが、そうでもないみたいですねえ。

水野・文『在日朝鮮人』(14)―終戦直後の状況2016/07/22

表3は、この頃の在日朝鮮人の生活が植民地期以上に悪化していることを物語っている。④には日雇いから失業者まで雑多な範疇が含まれているが、これらはみな事実上、失業者である。‥‥1947年に朝連が独自に実施した調査では、「稼働人口」の30万3512人に対して「失業人口」は20万4986人(67.5%)となっている。 東京の代表的な朝鮮人コミュニティとして知られる枝川町では、50年当時、14歳から59歳までの「生産年齢層」(538人)のうち、まともに仕事に就いているもの(完全就業者)がわずか47人という惨憺たる状況であった。(117頁)

 「表3」は下記にあります。 戦後直後の在日朝鮮人は失業者が多くて大変な苦労をしていたことを立証しようとするものです。 ところがこの本の別の個所では、当時の在日朝鮮人の次のような姿を書いています。

「解放の喜びと独立国民という自尊心を誤解し、さまざまな不祥事」(1946年10月に開催された朝連〈在日朝鮮人連盟〉第三回全国大会報告)を起こす朝鮮人も少なくなかった。 「多少知識や財産のある非良心的な層は、なんら事業もせずに、毎日、自動車と宴会に明け暮れ一攫千金を夢見ている。彼らは、何かの会とか同盟とかいう二・三人の団体をつくっては酒とタバコなどの物資を獲得し、私腹を肥やすなど口に出すのも憚られるような悪行を重ねている」と朝連自身が総括せざるをえなかった。(89~90頁)

占領初期には旧植民地出身者に対する日本政府の検察・裁判権は現地占領軍によって否認され、在日朝鮮人側も敗戦国日本の法律に従う必要はないとの思いこみがあった。 勢いその振舞いは無軌道なものとなった。 取り締まりに及び腰の警察当局は、テキヤや侠客とむすんで闇市での朝鮮人や中国人の台頭を押さえようとした。 朝鮮人の側もこれに組織的に対抗するために朝連や共産党に頼ったのである。(90頁)

 ここに出てくる「なんら事業もせずに、毎日、自動車と宴会に明け暮れ一攫千金を夢見ている」「何かの会とか同盟とかいう二・三人の団体をつくっては酒とタバコなどの物資を獲得し、私腹を肥やすなど口に出すのも憚られるような悪行を重ねている」人たちは、上記の「表3」(下記)ではどこに分類されるのでしょうか。 やはり「失業人口」に入るものと思われます。

終戦直後の在日朝鮮人は失業者となって生活に困って惨めであったというイメージがあるようです。 確かにそういう人もいましたが、一方では自分の民族性を示して大儲けしたり乱暴を働いたりした人も多くいた、ということです。 

(表3) 戦前と戦後の職業分布比較図(単位%) (117頁)

職業別                       1940年(A)  1952年(B)  B-A

① 鉱、工、土建業                   66.5     18.9    -47.6

② 農、水、運、自由業                 15.1     10.2    -4.9

③ 商業                          14.9     18.5     3.5 

④ 日雇、その他の職業、家事使用人、失業者   3.5     52.4     48.9

【拙稿参照】

張赫宙「在日朝鮮人批判」(1)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/10/27/7024714

張赫宙「在日朝鮮人批判」(2)   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/11/01/7030446

権逸の『回顧録』          http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/11/07/7045587

終戦後の在日朝鮮人の‘振る舞い’  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/11/14/7054495

在日朝鮮人の「無職者」数      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/01/05/7971706

闇市における「第三国人」神話    http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuusandai

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/14/8089137

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/19/8092119

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/19/8115076

水野・文『在日朝鮮人』(10)―在日朝鮮人子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/26/8118773

水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129867

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/19/8134282

水野・文『在日朝鮮人』(15)―外国人の地位を求めた2016/07/25

朝連や建青が求めていたのは、敗北した日本国民とは区別される‘解放国民’、つまり外国人としての処遇だった。 ‥‥連合国民をはじめとする外国人に与えられていた特別配給(日本人の主食配給が一日2.7合に対して4号が支給された)も朝連や建青は、外国人としての立場から一貫してその適用を要求した。(108~109頁)

【註】 朝連とは「朝鮮人連盟」の略。終戦直後に結成された。北朝鮮を支持。後の朝鮮総連に繋がる。 建青とは「朝鮮建国促進青年同盟」の略で、朝連の共産主義化に反対して結成された。 後の民団に繋がる。両方を合わせて終戦直後の在日社会を代表する組織と言える。

1952年、一片の通達を通じて在日朝鮮人を一律に「外国人」としたが、在日朝鮮人側も自らを「外国人」として律していたわけである。(143頁)

 以上のように、在日朝鮮人は自分たちが「外国人」であることを望んでいたことが分かります。 そしてこれは本国政府の考え方でもありました。

在日朝鮮人の国籍問題は講和条約の発効(1952年)を控えて開かれた日韓予備会談でも議論されたが、韓国側は国籍の選択権よりも在日朝鮮人を一律に韓国国民として認定することを日本政府に迫った。(126頁)

 自分たちは解放されたんだ、もう日本人ではなくなったんだ、という気持ちは、在日すべてが共有し、本国政府も同じように考えていました。 日本政府は当事者の意向通りに、日本国籍を正式に喪失させたのでした。

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/14/8089137

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/19/8092119

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/19/8115076

水野・文『在日朝鮮人』(10)―在日朝鮮人子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/26/8118773

水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129867

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/19/8134282

水野・文『在日朝鮮人』(14)―終戦直後の状況 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135824

水野・文『在日朝鮮人』(16)―国籍剥奪論の矛盾2016/07/30

 在日自身も本国政府も、在日は日本国籍ではなく外国人だということで一致していたことは、前回の通りこの本に記述されています。 ところがこの本には次のような矛盾する記述が出てきます。

日本政府の姿勢は‥‥在日朝鮮人の日本国籍を一律に奪う方向に転じたのである。(126頁)

 1952年に在日朝鮮人が日本国籍を喪失するということは、正式に「外国人」になるということです。 これは前回論じたように在日自らが求めていたものであり、また本国政府の考え方でした。 従って日本政府が在日の日本国籍を喪失させたのは、在日にとっては自分たちの願いが実現したことになるはずですが、この本ではこれを「奪う」と被害を与えたように表現しています。

 「日本国籍を奪う」というのは、いわゆる「日本国籍剥奪論」のことです。 この論の前提は、在日がそれまで有していた日本国籍は正当である、というものです。 つまり正当に取得された日本国籍を日本政府が一方的に「奪った」「剥奪した」ということになります。 これは更に、1910年の日韓併合条約は合法的になされたので全朝鮮人は日本国籍を有することになったという歴史に繋がります。 

 しかし韓国や北朝鮮では、日韓併合条約は不法であり従って朝鮮人は当初より日本国籍を有していたことはない、という歴史になっています。 この歴史からすると、1952年に在日が「日本国籍喪失」したのは本来の姿に戻ることであって喜ばしい事態です。 従って「日本国籍剥奪論」は本国の歴史観に反し、併合条約を合法正当化しているトンデモない考え方ということになります。

 日本国内で国籍剥奪論を唱える人は多いですが、この矛盾についてはなかなか言及しません。 小林知子さんが「在日朝鮮人の『帰国』と『定住』」(岩波書店『東アジア近現代通史7』2011年2月所収)のなかで、この矛盾を次のように記しています。

日本政府は‥‥国籍選択権利さえ与えずに、日本国籍を剥奪した(註2)。(199頁)‥‥(註2)韓国併合を不法不成立とみる見解からは、朝鮮人には日本国籍があったという前提自体も問い直されるべきではある。(205頁)

 本文と註に、たったこれだけです。 本文に堂々と「日本国籍を剥奪」と記していながら、矛盾に気付いて註に「日本国籍があったという前提自体も問い直されるべきではある」と付け加えたようです。

 しかし「問い直されるべき」は本文で「剥奪」と記したご自分に対してであって、これに自身の見解を何も出していないのは、いかがなものかと思います。

【拙稿参照】

国籍剥奪論        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/07/15/445780

古田博司 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(6) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/04/01/7263575

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/14/8089137

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/19/8092119

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/19/8115076

水野・文『在日朝鮮人』(10)―子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/26/8118773

水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129867

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/19/8134282

水野・文『在日朝鮮人』(14)―終戦直後の状況 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135824

水野・文『在日朝鮮人』(15)―外国人の地位 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/25/8138588