水野・文『在日朝鮮人』(22)―帰化2016/11/08

在日朝鮮人を、植民地支配に由来する韓国・朝鮮籍保持者(おおむね韓国・朝鮮籍の特別永住者で、いわゆるオールドカマー)に限定すると‥‥オールドカマーの減少の第一の原因は、日本国籍の取得、いわゆる「帰化」の増大である。 この間の世代交代や、帰化要件・手続きの効率化(*)などもあいまって韓国・朝鮮籍の帰化者数が著しく増加し、2013年現在累積の帰化者数は35万人近くに達している。      (*)かつての帰化には、複雑な手続きと二年から三年の期間が必要であったといわれるが、90年代の以降の特別在留資格をもつ在日韓国人の帰化手続きの事例は、ほぼ一年余りで帰化手続きが完了している(浅川晃広『在日外国人と帰化制度』) (213頁)

 この本では帰化については詳しく書かれていません。 だから帰化要件や手続きが具体的にどうなっているのか、「効率化」されたと言いながら何が「効率化」されたというのかが記されておらず、浅川さんの言を紹介しているだけです。

 ところでこの本では、この浅川晃広さんの『在日外国人と帰化制度』のどこかの部分を引用しているような体裁にしていますが、実際にはこのようなところは見当たりません。 さらにこの紹介文では「特別在留資格」となっていますが、「特別永住」と「特別在留」は違うものです。 浅川さんの本には「特別永住」のみが記されており、「特別在留」には全く言及していません。 従って、これはこの紹介文を書いた水野直樹・文京洙の間違いだと考えた方がいいようです。 

 浅川さんは帰化者へのアンケート調査により、帰化申請受付から許可までの期間について次のようにまとめています。(118頁)

   半年以内 半年~1年 1年~2年 2年~3年 3年以上 無回答   計 

韓国   48     129     46      3     1      1    228

 この数字は植民地に由来する特別永住だけでなく、近年のニューカマーも含んだ数字です。特別永住だけの数字はありません。 それはともかく、帰化書類が十分に整っていたら、許可までの期間は一年もかかっていないことを示しています。 ここでも水野・文の紹介文にある「在日韓国人の帰化手続きの事例は、ほぼ一年余りで帰化手続きが完了している」とあるのが、かなり不正確であることが分かります。 おそらく浅川さんのこの本を実際に読んでいないものと推測できます。

 ところで帰化手続きで、かつては時間がかかったが近年は時間がかからないということについて、在日韓国・朝鮮人をよく知っていれば分かることです。 在日のお年寄りの場合、本国の戸籍に記載されている名前や生年月日等が日本の外国人登録簿にあるそれと違っていることが多く、それを解決しなければ帰化書類が調えられないという事情があり、時間がかかりました。 しかし若い世代になると、本国における正確な戸籍記載が進んでいるので帰化書類を調えやすく、また日本で生まれ育っているものですから日本国内の書類も簡単に入手できますから帰化手続きがスムーズに行くのです。

 在日が帰化しようとしたら、昔は民団に行って高い手数料を払って取り寄せてもらっていたのですが、今は領事館に行くと自分や両親の戸籍を簡単に直ぐに発行してもらえます。 ただそれはハングルなので、それの日本語訳が必要になることぐらいがネックになります。 しかしこれも、近頃の韓流ブームで韓国語を読める人が日本人でも飛躍的に増えましたので、難しくないでしょう。 在日の世代交代に伴い、本国における身分証明関係書類(戸籍など)が調えやすくなったことが、帰化の期間短縮に繋がっているのです。

 近年では若い在日が帰化を申請して受け付けられたら、半年もかからないで許可されるのが現状です。 しかしこれは日本の帰化制度が「効率化」されたからではありません。 浅川さんも前述の著で「現在の非効率的かつ非合理的帰化手続は早急に改善されなければならない」(179頁)と提言するように、「効率化」からほど遠いのが今の日本の帰化制度です。 帰化は所属する国家の変更で、本人にとっても国にとっても大変重要なことですから、慎重に進めるべきものです。 元々が「効率化」には馴染める法制度ではありません。

【これまでの拙稿】

水野直樹・文京洙『在日朝鮮人』(1)―渡日した階層 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/06/8066021

水野・文『在日朝鮮人』(2)―渡航証明と強制連行 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/11/8069125

水野・文『在日朝鮮人』(3)―強制連行と強制送還  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/17/8072649

水野・文『在日朝鮮人』(4)―矛盾した施策 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/25/8077594

水野・文『在日朝鮮人』(5)―強制連行と逃走  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/29/8080041

水野・文『在日朝鮮人』(6)―渡航の要因 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/09/8086320

水野・文『在日朝鮮人』(7)―人口の急増 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/14/8089137

水野・文『在日朝鮮人』(8)―戦前の強制送還者数 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/05/19/8092119

水野・文『在日朝鮮人』(9)―ハングル投票  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/19/8115076

水野・文『在日朝鮮人』(10)―子弟の教育 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/22/8116734

水野・文『在日朝鮮人』(11)―尹東柱   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/26/8118773

水野・文『在日朝鮮人』(12)―財産を形成した在日 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/12/8129867

水野・文『在日朝鮮人』(13)―関東大震災への疑問 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/19/8134282

水野・文『在日朝鮮人』(14)―終戦直後の状況 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135824

水野・文『在日朝鮮人』(15)―外国人の地位 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/25/8138588

水野・文『在日朝鮮人』(16)―国籍剥奪論の矛盾  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/07/30/8142349

水野・文『在日朝鮮人』(17)―小松川事件 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/08/15/8152243

水野・文『在日朝鮮人』(18)―北朝鮮帰国事業  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/08/21/8156717

水野・文『在日朝鮮人』(19)―関東大震災・吉野作造 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/04/8169265

水野・文『在日朝鮮人』(20)―南朝鮮革命に参加する在日  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/08/8173965

水野・文『在日朝鮮人』(21)―同化  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/09/23/8197450

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