金時鐘さんの法的身分(続々)2015/08/26

 金時鐘さんの法的身分について、先に疑問を呈しました。 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2015/08/13/7732281

 これについて、小熊英二・姜尚中編『在日一世の記憶』(集英社新書 2008年10月)に次のような聞き書きが記録されているのを見つけました。

せめて一年に一回は(親の)お墓の草刈りをしようと思う気になってね。 朝鮮籍だと墓参も五回が限度というから、2004年に韓国籍を取った。 韓国籍も本名では作れなかった。 領事館に尽力いただいて、一代きりの本籍を取得した。 済州島には恨みもあるけれど、懐かしさもある、だから済州島に本籍をおいた。そのときの心情は声明文にして、まわりの方に送ったよ。(570~571頁)

 ここでも韓国での戸籍が本名の「金時鐘」とは違う名前(「林大造」のこと)で作成されたとしています。 しかもその戸籍が「一代」限りのものであるとしています。

 ここが全く理解できないところです。 「林大造」は金さんが日本に密入国した際に入手した偽の外国人登録の名前のようです。 従って「林大造」は金さんにとっては他人の名前であって、偽名に相当します。 ところがこの名前で韓国の戸籍が出来たということが、なぜ可能だったのか? 

 法治主義の観点からすると、他人の名前・偽名で戸籍が作られることはあり得ません。 しかし韓国の当局(領事館や戸籍担当官署等)がそれを承知の上で戸籍作成したとしているのですから金さんの不法行為ではありません。 当局側が法治主義を曲げた例外的措置ということになるのですから、かなりの特殊事情があったと思われます。 しかしその事情が全く明かされていません。

 「一代限り」の戸籍というのも理解できないところです。 韓国の戸籍法にはこんな規定が見当たらないからです。 何故こんな戸籍ができたのか、その事情も全く明かされていません。