在日韓国・朝鮮人自然消滅論(2)2024/12/01

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/11/26/9734747 の続きです。

 なお坂中英徳さんよりも2年ほど前に、在日消滅論を公然と唱えた者がいました。 それは他ならぬ私でして、『現代コリア』第361号(1996年5月号)に「消える『在日韓国・朝鮮人』」と題して投稿しました。 この論稿は2000年10月付けの拙ホームページに再録しております。 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuukyuudai  ここでは次のように論じました。

坂中さんによると、在日の帰化者は年間約八千人である。一〇年ほど前までは五千人だったはずであり、これもまた急増している。

在日はその婚姻状況から圧倒的多数が日本人と親族関係となっていき、そしてこれから日本国籍を加速度的に取得していくのである。 冠婚葬祭という民族にとって重要な場面においても大多数の日本国籍とほんのわずかの韓国・朝鮮籍の人々の集まりとなるのは、もはや時間の問題である。 ‥‥ そしてこの間違いなく起こる将来の事態の確認は「新鮮」ではなく「衝撃的」である。

韓国・朝鮮籍という外国籍をもつ存在としての在日は、まもなく消滅しようとしている。

 当時(1996年)、「在日消滅」は心では思っていても公の場で言える雰囲気のなかった時代でした。 「在日の消滅」は個人的に陰でこそこそ言われることは多々あったのですが、公然と論じられたのはおそらく『現代コリア』の拙稿が最初だったと思います。 ただしこれは在日問題に関心を持った無名の日本人の論稿でしたから無視されたようで、大して話題にはならなかったし、その後の在日問題を扱う本や論文なんかでも全く取り上げられていません。  

 そして30年近く経った今、在日の現状はどうなっているのか、本当に消滅するのでしょうか‥‥。 法務省の在留外国人統計 https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html と民団が公表している在日韓国・朝鮮人統計 https://www.mindan.org/syakai.php を紹介します。

 これによると韓国・朝鮮籍の特別永住者数は、1992年から10年毎の数字を拾いますと

   1992年 585,170人

   2002年 485,180人

   2012年 377,351人

   2022年 285,459人

10年毎に約10万人、つまり毎年1万人ずつ減少していることが分かります。

 また民団の「性別及び世代別の現状 2021年12月末現在」の統計数字も紹介します。 在日韓国・朝鮮人は、六歳ごとの数字を拾いますと、

   0歳            702人

   6歳(小学校入学時)  1,354人

   12歳(中学入学時)  1,571人

   18歳(大学入学時)  1,882人

   24歳          3,256人

   30歳          5,330人

 ただしこの数字は近年のニューカマーも含まれています。 特に18歳を越えると韓国からの留学生らがいますので際立って多くなります。 在日の本来の意味である「特別永住者」はそういったニューカマーを除外せねばなりませんので、この表の数字よりもっと少なくなります。

 特別永住者に限った年齢別数字は見つかりませんでしたが、いずれにしても年齢が下がるとともに在日の数がどんどん減っていっていることは明確です。 つまり在日社会もまた少子高齢化しているのです。 いま朝鮮学校は入学者減少のために統廃合が進んでいますが、在日の総連系離れだけでなく、少子高齢化による現象とも言えます。

 以上により、在日は「帰化」「日本人との婚姻」「少子高齢化」の三つの要因により人口減少の道を歩んでいることは明らかでしょう。 そしてそれは止めることの出来ない道なのです。 従って坂中英徳さんの「在日韓国・朝鮮人自然消滅論」は今のところその見通しの通りに進んでおり、将来の「21世紀前半中の消滅」という予想はおそらく当たることになると思われます。

 在日社会は21世紀半ばまでに、植民地支配に起因する「特別永住者」は0とは言えませんがほとんどが消え去り、日本国籍取得者やニューカマーなどに置き換わっていくことになるでしょう。  従って「在日問題」は近い将来に、数ある「外国人問題」のうちの一つでしかなくなり、その後は過去の問題として歴史の中に埋没していくものと考えられます。   (終わり)

在日韓国・朝鮮人自然消滅論(1) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/11/26/9734747

 

【追記】

 拙稿 「第19題 消える『在日韓国・朝鮮人』」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daijuukyuudai にある “在日の結婚割合”について、下記のように説明を追加していますので、ご笑読下されば幸い。 ただし25年前のものです。

第42題 在日朝鮮人同胞どうしの婚姻の割合  http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuunidai

 

【追記】

 水野直樹・文京洙『在日朝鮮人 歴史と現在』(岩波新書 2015年1月)では、次のように論じられています。

先細るオールドカマー ‥‥ オールドカマーの減少の第一の原因は、日本国籍の取得、いわゆる「帰化」の増大である。 ‥‥ こうした帰化の増大にくわえて、日本人との<国際結婚>の増加も特別永住者急減の原因となっている。‥これに帰化者を加えると在日朝鮮人は、国籍上50~60万人に及ぶ人口の損失を経験したことになる。 (213・214頁)

 「先細る」の先は「消滅」になると思うのですが、そこまでは論じていませんね。 それどころか、下記のように明るい展望を論じているので、大きな違和感があります。

90年代以降、留学などで韓国で学ぶ在日朝鮮人の若者も急増し、日韓双方にまたがる職業や、学術・文化・スポーツ活動を営む在日朝鮮人も少なくない。‥‥ “国民”についての画一的な見方を前提に常に日本か本国かの選択を迫られてきた在日朝鮮人のあり方にも新しい可能性を開くものだ  (232頁)

 在日の定義を「特別永住」だけでなく、日本国籍者まで広げようとしているようですが、果たしてこれで「新しい可能性を開く」ものなのでしょうか。 「在日問題」をいつまでも続けていきたいという“願い”のように思われます。

『在日コリアンが韓国に留学したら』を読む(1)2024/12/06

 韓国ではビックリ事態。 戒厳令が敷かれたかと思うと、6時間後に解除。 混乱が続いているようです。 今ここではそんなことに関係なく、拙ブログを続けます。

 韓光勲『在日コリアンが韓国に留学したら』(ワニブックス 2024年10月)を購読。 まず著者の韓光勲さんの経歴は、この本の最後のページによると

1992年大阪市生まれ。 在日コリアン3世。 2016年、大阪大学法学部卒業。 2019年、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士前期課程修了。 2019年4月から2022年7月まで、毎日新聞で記者として働く。 2023年3月から約1年間、韓国で留学生活を送った。

 それではどんな家庭だったのでしょうか。 家族構成は本文では次のように書かれています。

父は韓国生まれで、23歳のとき日本に働きにやってきた。 母は大阪市生まれの在日コリアン二世。 (4頁)

父は韓国・済州道で生まれ、23歳まで済州道にいました。‥‥ 母親は大阪市西成区で生まれ育った在日コリアン二世。 (94頁)

僕の兄2人と姉  (16頁)

 以上から判明することは、まず父親の姓が「韓」であり、韓光勲さんは父親の姓を受け継いでいることです。 韓国の当時の戸籍法(今は家族関係登録簿)では、子供は生まれると父親の戸籍に入って、父親の姓を受け継ぐからです。 なお両親が事実婚で韓さんが婚外子の場合、母親の戸籍に入って母親の姓を受け継ぎますが、当時としては極めて特殊事例なので考える必要はないでしょう。

 韓さんは4人兄弟の末っ子として1992年に生まれました。 とすると、韓国で生まれ育ったニューカマー(来日)の父親と日本で生まれ育ったオールドカマー(在日)2世の母親は、1980年代に結婚したと推定できます。

 次に、家庭内ではどんな言葉が話されていたのかです。

家族の会話はもっぱら日本語だ。 (4頁)

家庭ではずっと日本語を使っているからだ。 (15頁)

父親の母語は韓国語です。‥‥ 母親の母語は日本語で、韓国語は話せません。 自然と、家での共通言語は日本語になりました。 父は日本語が堪能です。 (94頁)

 ニューカマーとオールドカマーとが結婚して日本で暮らす場合は、家庭内の言葉は日本語になりますね。

 ただ一般的にニューカマーは母国(韓国)の父母や祖父母、兄弟らとの関係が切れておらず、コミュニケーションを取っているものです。 だから韓さんの場合、父親はしょっちゅう母国に帰っていただろうし、そして家族・親戚らも来日していただろうと思われます。 また韓さん自身も幼い時から母国のハラボジ・ハルモニ宅に帰省することがあっただろうと推測します。 ですから家庭内の日常語は日本語でも、本場の韓国語に接し喋る機会は多かっただろうと思うのですが、この本ではそんな話が出てきませんね。

 韓さんの本では、民族性について強い影響力を持っているはずの父親の存在感が薄いです。 読んでいて、父親は家から離れていると思ったくらいでしたが、次の記述でそうではないと判明しました。

韓国出身の父は当初、(2018年文在寅政権時の)南北対話に大きな期待感を持っていた。 父は南北対話を伝えるニュースを見ながら涙を見せていた。 (119頁)

 次に韓さんのアイデンティティです。 彼は次のように述べます。

僕は日本では「韓国人」として扱われることもあるが、「日本人」として扱われる場合も多い。 国籍は大韓民国であり、韓国のパスポートを持っているから「韓国人」なのかといえば、必ずしもそうではない。 初対面の人に「国籍は日本ですよね」と言われる場合が多くある。 これは仕方ないと思う。 僕の生活様式は完全に日本だ。 だが、行政の場に出ると、全く違う。 完全に「韓国人」として扱われる。 厳密にいえば「特別永住者」という立場だ。 (148頁)

僕の場合、「名前」は韓光勲で、「国籍」は韓国、「出身地」は大阪、「第一言語」は日本語、「民族」は韓国人、「アイデンティティ」は在日コリアンだ。 日本か韓国のどちらかに統一されていない。 それには歴史的な経緯がある。 このことを初めて会った人に理解してもらうのは骨が折れる。  (166頁)

 ここにある「統一されていない」は、鄭大均さんが言うところの「今日の在日韓国人に見てとれるのは、韓国籍を有しながらも韓国への帰属意識に欠け、外国籍を有しながらも外国人意識に欠けるというアイデンティティと帰属(国籍)の間のずれであり、このずれは在日韓国人を不透明で説明しにくい存在に仕立て上げている」(『在日韓国人の終焉』文春新書 2001年4月 4頁)にあることと同じですね。 自分を客観的に証明する法的地位(韓国国籍や特別永住)と自分を主観的に意識するアイデンティティ(言語や生活様式など)とが統一されておらず、“ずれ”があるのです。 韓さんは、その“ずれ”を周囲の日本や本国の人には理解してもらうのに「骨が折れる」とおっしゃっています。

 ただ、このような“ずれ”は在日だけが有するものではなく、他の外国人にも当てはまります。 日本で生まれたとか幼少の時に来日したという外国人の中には、幼稚園からずっと日本の学校に通ってきたという人が多くなりました。 外見も名前も国籍も外国人なのに、言葉や身のこなしは完璧な日本人という“ずれ”を有することになります。 近頃は、外国人のこの“ずれ”をテーマにしたユーチューブがよく出てきていますね。

 韓さんは外見までもが完璧な日本人で、外国人だと分かるのは名前や国籍を自ら名乗る時だけになっているようです。 ですから何も喋らなければ全くの日本人として見せることになり、周囲も本人が言わなければ同じ日本人と思うでしょう。 とすると外国人だと発覚した時の“ずれ”の感覚は、当然に大きいでしょう。 従って別に言えば、これは在日特有の問題ではなく、外国人問題の一つの類型としてとらえるべきではないかということです。 そしてその解決は、当人がその“ずれ”をなくすのか、それともそのままにしておくのかになるでしょうが、自分で判断して選択する以外になく、周囲はそれを理解し尊重することが求められるでしょう。   (続く)

 

【在日に関する拙論(最近のものです)】

在日韓国・朝鮮人自然消滅論(1) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/11/26/9734747

在日韓国・朝鮮人自然消滅論(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/01/9736094

在日の「国籍剥奪論」はあり得ない https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/11/19/9732903

在日の定義は歴史意識にある―『抗路11』 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/03/24/9670017

在日韓国人と本国韓国人間の障壁  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/12/12/9641974

在日のアイデンティティは被差別なのか―尹健次 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/12/9387023

『抗路』への違和感(2)―趙博「外国人身分に貶められた」 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/02/9383666

『在日コリアンが韓国に留学したら』を読む(2)2024/12/11

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/06/9737449 の続きです。

 次にアイデンティティと大いに関係のある言葉です。 韓光勲さんが韓国に留学した目的は、韓国語の習得です。

僕は母語が日本語で、韓国語を勉強するために韓国に留学しに来ている。 (151頁)

僕は、韓国語を「取り戻したい」と思って韓国にやってきた。 (157頁)

(韓国語は)僕の母方の家族が一度失ってしまった言語。 父方の家族が話す言語だ。 それは母語でもなければ、単なる「外国語」でもない。 (158頁)

 韓さんは自分の民族的アイデンティティを確認するために韓国語を勉強しておられるようです。 これは私のように外国語を趣味や教養でやる者とは違って、勉強の意気込みがすごいですね。 しかし彼が民族を取り戻すべくここまで思い入れて学んでいる韓国語は、本国の韓国人から評価されません。

(韓国での)飲み会の席で初めて会った30代くらいの韓国人女性に、英語でこう言われたのだ。 「Can you speak English? Because your Korean is not fluent. (あなた、英語を話せる? あなたの韓国語は流暢じゃないから)」  驚いてすぐに反応できなかったが、やがて怒りでワナワナ震えた。 こんな侮辱はない。 「あなたの韓国語は流暢じゃない」なんて一番言われたくない言葉だ。 おまけに「韓国語じゃなくて英語を話せ」と言われているのだ。(150~151頁)

韓国語のレベルは中級~上級くらいだと思う。 当時、語学堂では、上から2番目のクラスに所属していた。 韓国語能力試験の6級(最高級)合格したこともある。 その韓国人女性の言葉は、僕をバカにしているだけでなく、韓国語を学びにわざわざソウルにやってきた僕の人格を否定する言葉だと感じた。 在日コリアン三世として育った僕が、どんな思いで韓国語を勉強してきて、語学堂にいま通っているのか。 少しでも想像力を働かせてほしい。 とにかく悲しかった。 (151頁)

こうやって僕が学んできた韓国語を、韓国人から侮辱されるのはたまったものではない。 (158頁)

 誰でもそうですが、成人になって外国語をいくら学んでも、なかなか流暢に話せるものではないです。 「韓国語能力試験の最高級」を合格したとしても「レベルは中級~上級くらい」「上から二番目のクラス」であるなら、本国の韓国人と対話したら「かなり違う」「流暢でない」と感じられてしまうのは当たり前でしょう。 しかし韓さんはそれを言われて、「僕をバカにしている」「人格を否定している」「侮辱されている」と反発を感じたと言います。

 私のように日本人なら「ハングンマル チャラシネヨ(韓国語、お上手ですね)」と言ってくれますが、在日は同じ韓国人ですから「ハングギニンデ ジェデロ モタヌンガ(韓国人なのに、ろくに喋れないのか)」と言われることになります。 本国の韓国人は「民族を取り戻すために韓国語を勉強しています」と聞かされても、「韓国人のくせに」となってしまうようです。 韓さんが「少しでも想像力を働かせてほしい」と願っても、相手の本国韓国人は温かい目で見るのではなく大きな違和感を持つのですから、先ずは韓さんの方が「想像力を働かせる」べきではないでしょうか。

 また韓さんは日本でも似た体験をしたと言います。

初対面の人に名前を名乗ると、「日本語が上手ですね」とか「日本には長く住んでいるのですか」と言われることがあるのだ。 もちろんイラッとする。 僕は古文が昔から得意だし、日本史はセンター試験ではほぼ満点だったし、今でも明治以降の外交文書や擬古文はすらすら読める。 ライターもしているし、「あなたよりも日本語能力は高いですよ」と思う。 生粋の大阪生まれで、関西弁をこんなにべらべら話しているのに、「日本に長くすんでいるか」なんて愚問でしかない。 (152~153頁)

 初対面の日本人に「韓光勲(ハン・カンフン)」と名乗ると、その日本人には来日した外国人なのか日本で生まれ育った外国人なのか、区別がつかないものです。 そんな日本人が失礼にならないように思って口から出た言葉が「日本語が上手ですね」「日本に長く住んでいるのですか」なのでしょう。 「愚問」ではないし、悪気もないので「イラッとする」こともないと思うのですが‥‥。 日本で「韓光勲(ハン・カンフン)」と名乗ると相手の日本人はどう受け取るのか、これもまた先ずはご自分の方から「想像力を働かせればいい」のではないでしょうか。 なぜ他人に「想像力を働かせる」ことを要求するのか、ちょっと理解できないところです。

日本で「日本語がうまいですね」と言われるとき。 あるいは韓国で「あなたの韓国語は流暢じゃないから」と英語で話されるとき。 僕の心はやっぱり傷ついてしまう。 同じ社会に住んでいる人として対等に扱われない感覚。 いつまでも「よそ者」として仲間に入れてもらえない感覚。 そうした感覚を抱かせてしまう言葉  (157頁)

 韓さんは、日本では喋りや身のこなし等はすべて日本人と同じなのに外国籍であるから「よそ者」扱いされ、韓国では同じ韓国人なのに言葉が流暢でないから「よそ者」扱いされる、だから「仲間に入れてもらえない」「対等に扱われていない」という感覚になるようです。 これは韓さん個人の感覚なのですが、そうならばどう行動すればいいのか、です。 だからこそ「仲間入り」しようと努力するのか、あるいはどうせ仲間入りできないのなら「よそ者」でも構わないとするのか、それともそんなことは何も考えないとするのか、「よそ者」扱いする日本人が悪いとして闘うのか、‥‥いろんな道が考えられます。 その道は韓さん自身が判断して選択すべきことだと思います。

在日コリアンは「社会の常識」を揺り動かす存在になれるとも思う。 もし「あなたは韓国人の名前なのになぜ日本語が話せるんですか?」と質問されたり、少しでもこういうテーマに関心のある人に出会ったりしたときは、「名前や言葉、国籍、民族、出身地って、本当にいつも一致するものなのでしょうか?」と逆に質問してみたい。 その人の常識を揺り動かしたい。‥‥ 新たに出会う人にそうやって質問していけば、僕の周りにいる人の持つ「常識」をちょっと変えることくらいはできる。 (167頁)

 「名前や言葉、国籍、民族、出身地はいつも一致する」という「社会の常識」を揺り動かそうという韓さんの話は、世の中にはそういう “一致しない”外国人もいることを知ってほしいという点に限れば理解できます。 なお「出身地」は、韓さんの言うものと一般に使われているものとが少し違っているようです。

 ところで「名前や言葉、国籍、民族、出身地って、本当にいつも一致するものなのでしょうか?」という質問に対して、私ならこう答えます。

 「 “一致しない”つまり “韓国人なのに韓国語ができない”あるいは “まるで日本人なのに韓国人”であることで本人が納得しているのなら、『イラッとする』事態に我慢できるだろう。 しかし子や孫の世代までも我慢させることが果たしてどうなのか。 いつまでも “一致しない”状態を続けるわけにはいかず、将来のいつかは “一致する”方向に行くことになると考える。」    (終わり)

 

【在日に関する論考集(20年以上前のものです)】

http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/minzokusabetsu

韓国語の雑学-고려장(高麗葬)2024/12/18

 韓国の戒厳令騒動は、まだまだ余波が続くようです。 大統領の弾劾訴追案が国会を通過しましたが、これからは憲法裁判所(憲裁)が認めるのかどうか、ですね。 憲裁の裁判官9名中6名が賛成すれば弾劾が成立するのですが、欠員が3名いて、現在6名だそうです。 ですから一人でも反対すれば弾劾は否定されます。 微妙なところですね。 まあそんなことは関係なく、拙ブログを続けます。

 韓国の高齢者問題を扱うニュースを見ていると、「고려장」という言葉が時おり出てきます。 https://www.youtube.com/watch?v=OhUxgeO0DK4&t=16s このニュースではタイトルに出てきています。 これは漢字で「高麗葬」と書くもので、日本語では「姥捨て山」という意味です。 韓国はかつて自らを“孝道(親孝行のこと)の国であり、親を捨てるなんてあり得ない”と言っていたものでした。 しかし近年韓国も高齢化社会を迎えて、そんなことも言っていられなくなったようで、ニュースに出てくるようになりました。

 ところで日本の「姥捨て山」が、韓国ではなぜ「高麗葬」なのか。 ちょっと調べてみました。 백과사전(百科事典)にあった説明が一番まとまっているようなので、これを訳してみました。

고려장(高麗葬)

高麗時代に年取った親を他の場所に捨てる風習があったという説話。 その説話は、数百年前に作られたものと推定される。 高麗葬という用語がその説話と結合したのは19世紀末から植民地時代にかけての時期で、このために大日本帝国の歴史歪曲説とか単純な流言飛語が広がったとかの、様々な説が出回っている。 学界で主流とされている文献学上の説は、仏典に出てくる逸話や中国の孝子伝に出てくる逸話が朝鮮に入ってきて、高麗時代を背景に現地化されて、全国に広まったというものである。

高麗葬に似たものとしては、日本では江戸時代に「姥捨て山」といって、年を取り病気になった人を背負子に負い山に行って捨てたという説話が世に知られている。 この説話を元に作られた映画が、カンヌ映画祭のパラムドール賞受賞作である「楢山節考」である。 これ以外にも、ヨーロッパ、インド、東南アジア、サハラ以南のアフリカ等でも、これと同じような説話が出回っているので、この老人遺棄説話はユーラシア―アフリカ全域に広がっている共通の説話と見ることができる。 現在は考古学的調査や文献学的調査などを通して、その話は高麗葬と同じようにほとんど実存しなかったものであって、児童教育を目的として作られた民衆説話であると見られている。

特に韓国の場合、古代の文献を詳細に見ても、飢饉や戦争などの特殊な状況ではない平時にこのような行為を風習としていたという記録は全くないのであって、現在関係する研究者たちはこの風習があったという可能性を否定している。 実存しない風習を語っているに過ぎないというのが、現代の韓国歴史学会の定説である。

そのために説話として存在していた話が植民地時代に朝鮮の生徒たちを教育するために制作された朝鮮の童話を集めた童話集に採録され、説話だったものがある時に民衆たちに歴史的事実として受け入れられたと見られている。 すなわち説話であり童話だったものが、ある瞬間に歴史的事実にすり替わって民衆の意識の中に根を下ろしたのである。

もちろん生存の危険な極限の状況で親を捨てることがあるにはあったが、風習と呼べるものではない。 朝鮮時代でも庚申(1670~71)飢饉の時期に、親を捨てて逃げた男性についての記録があるが、これは単発的な事件であり、風習ではなかった。 朝鮮朝廷は父母や祖父母を捨てたり虐待した者に対して綱常罪(三綱五常に反する罪)を問うて極刑に処し、このような事件が発生した地域の有力者をはじめ、その地域を管轄する地方官を厳しく懲戒し、地域の行政等級を下げる等の強力な措置を取ったりした。

高麗時代は平均寿命が42・3歳で、自然死が極めて少なく、人口ピラミッドが三角形で、疾病や事故死の確率が大変高く、高齢人口が維持されていなかったので、高麗葬は風習として存在しなかった可能性が高い。

 今の韓国のニュースで出てくる「고련장(高麗葬)」は、“親を他の所(他の家族や老人ホームなど)に送る、あるいは押し付ける”、それはすなわち“親を捨てる”ことだという意味で使われているようです。  https://www.youtube.com/watch?v=m_nRrnFJQ48  このニュースでは、親を療養院(老人ホーム)に送ることを「現代版高麗葬」と言っています。

 そういえば、かつて日本でも老人ホームに行くことを「楢山に行く」とか「楢山参り」とか言っていましたねえ。 今は、こういうことは言わないようです。

 

【拙稿参照 ―韓国の高齢者問題(ただし10年以上前のものです)】

韓国の老人孤独死            http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/10/09/7003945

韓国の「祖孫家庭」問題(1)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/06/7097028

韓国の「祖孫家庭」問題(2)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/11/7105330

韓国の「祖孫家庭」問題(3)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/12/15/7109387

韓国で、おばあさんと赤ちゃんの痛ましい死 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/08/04/6530632

 

【韓国語の雑学―これまでの拙稿】

韓国語の雑学―客妾(객첩)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/03/10/9666292

韓国語の雑学―남부여대(男負女戴)  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/11/14/9634052

韓国語の雑学―전산이기(電算移記) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/06/17/9594956

韓国語の雑学―賻儀   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2022/11/26/9543701

韓国語の雑学―将棋倒し http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/15/9235466

韓国語の雑学―下剋上  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/04/22/9237987

韓国語の雑学―「クジラを捕る」は包茎手術の意 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2020/12/10/9325273

韓国語の雑学―내로남불(ネロナムブル) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/01/04/9334079

韓国語の雑学―東方礼儀の国    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/06/17/9388692

韓国語の雑学―동족방뇨(凍足放尿) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2021/09/02/9418323

日本への悪口言葉―韓国語の勉強     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/07/19/6907092

韓国在住華僑の現在(1)2024/12/25

 韓国の週刊誌『週刊朝鮮2832号』(2024年11月4日~)に、韓国に在住している華僑のインタビュー記事(イ・ドンフン記者)が出ていました。 在韓華僑と在日韓国人とを比較してみると興味深いです。 主要部分を訳してみました。 ところどころで私のコメントを挟みます。

華僑協会選挙に挑戦した「黒白調理師」呂敬来 親韓派在韓華僑たちは韓国でも大きな財産

国内の中華料理業界の第一人者に選ばれる呂敬来シェフが、漢城華僑協会選挙に挑戦する。 最近、世界的に人気を引いているネットフリックス番組の「黒白調理師」を通してよく知られている50年の料理経歴を持つ呂敬来シェフは、台湾国籍の父親と韓国国籍の母親の間に生まれた台湾国籍の在韓華僑である。 ‥‥

 「漢城」とはソウルのこと。 日本ではかつて「京城」と呼んでいましたが、中国では昔から「漢城」でした。 これは今も続いています。 昔日本では、「京城」は差別語だから使うなと騒ぐ市民団体がありました。 その時、中国は「漢城」とまるで“中国の城”のように言うのに、これは構わないのかと反論する人がいましたねえ。

漢城華僑協会は台湾政府の指導監督を受けて、在韓華僑の出生・死亡・戸籍など各種行政事務を代行する、一種の半官半民団体である。 漢城華僑協会は、旧韓末に起きた壬午軍乱(1882)の時に、清軍とともに朝鮮半島にやって来た在韓華僑たちが、その間蓄積した不動産などの固有財産を実質的に管理してきた主体として、現在ソウルだけで1万人近い会員を擁しているものと知られている。

1992年、韓中国交と同時に韓国が台湾と断交してから、中国政府も在韓華僑たちを包摂するために、「統一前線」次元で漢城華僑協会との接点を増やしてきた。 これに漢城華僑協会の次期指導部がどんな人物で構成されるのかは、駐韓中国大使館と駐韓台北代表部(台湾大使館格)など、両岸の焦眉の関心事でもある。 ‥‥

呂敬来シェフが現在副理事長である漢城華僑中学・高校は、在韓華僑子女たちが通う学校である。 学校の裏山には、壬午軍乱の時に清軍を率いて朝鮮半島に渡ってきて在韓華僑たちの始祖とされる呉長慶提督の祠堂である「呉武荘公祠」もある。 後日に朝鮮総督として君臨し、中華民国初代大総統までなった袁世凱も、呉長慶の麾下の幕僚の一人だった。 ‥‥

 韓国の華僑の歴史が140年以上前の1882年の「壬午軍乱」から始まることは、覚えておいておかねばならないものです。 そしてその数年後の1880年代末に、仁川で中華街(チャイナタウン)が形成されたといいます。 さらに「袁世凱」という、日本近代史に登場する人物が出てきました。 袁世凱は朝鮮近代史でも重要人物です。

 華僑は中華民国国籍でした。 1937年から始まる日中戦争の時は敵国民になりそうですが、実は日本は中国に宣戦布告しておらず、また中華民国でも汪兆銘政権(傀儡と言われています)を承認していましたから、敵国民扱いをしなかったようです。

次からは、彼との一問一答。‥‥

―原籍はどこで、祖先たちはいつ朝鮮半島にやって来たのですか。

「原籍は中国の山東省日照で、私が生まれた所は京畿道水原だ。 父の時に韓国に渡ってきた華僑二世だ。 ただし父は私が6歳の時だったか、早く亡くなって、詳しい話は聞けなかった。 光復(1945年)以前に韓国に渡ってきたが、朝鮮戦争が勃発したために帰れなかったと聞いた。 このようにして韓国に定着するようになった。」

 朝鮮植民地時代の華僑は1930年頃には6万7千人程でしたが、1931年の「万宝山事件」によって激減し3万7千人になりました。 その後また増加して、1945年の解放時は約8万人だったとされています。 華僑は主に朝鮮半島の対岸である山東省から来ており、呂敬来さんも親が山東省出身だと明かしています。 「万宝山事件」は韓国人があまり触れたがらない有名な事件です。 だからでしょうか、この記事には「万宝山事件」が出てきません。 関心のある方はお調べください。

 解放後、朝鮮が南北に分断されたために華僑も分断されました。 また中国本土では国共内戦が勃発し、韓国は国民党(蒋介石)側であったため、韓国に亡命する中国人が相次ぎました。 そして1950年から始まる朝鮮戦争で、さらに混乱していきました。

―弟さんの呂敬玉シェフは韓国に帰化したと聞いたが、台湾国籍では不便はないですか。

「弟の呂敬玉シェフ(前ロッテホテル中国料理「トリム(道林)」の総括シェフ)は、早くに韓国に帰化した。 弟は妻の親戚である侯徳武シェフ(前新羅ホテル中国料理「パルソン(八仙)」の総括シェフ)が帰化したので、本人も帰化したものと思う。 私は、実は帰化の必要性を感じないのだが、年月が経って子供たちが大きくなってきたから、不便を感じる。 子供たちが会社に就職しても国籍問題でビザの発給に困難が伴う。 海外出張などに、色んな難しさがある。」

―具体的に、海外出張がなぜ難しいのですか。

「台湾に戸籍がある旅券は台湾のノービザ協定が適用されるが、在韓華僑たちの台湾旅券はノービザ協定が適用されない。 たとえ会社から明日ヨーロッパに出張に行けと命令されれば、ビザが必要だ。 韓国人たちはほとんどの国家にビザが必要ないが、我々の場合は当該国家のビザ発給部署が韓国ではなく東南アジアにある。 そんな場合、我々はビザをもらうために追加で何日か必要になる。 自然と競争力が落ちて、現実的な不便のために帰化をする人も多い。 私も以前にヨーロッパやアメリカに行く時、ビザの問題で相当に難しかった。」

―台湾政府の方に不便だと訴えてみましたか。

「台湾政府側にずっと要求しているが、簡単でない。 実は韓国だけでなく、ベトナムなどの東南アジアでも台湾に戸籍はないが台湾国籍を持った華僑たちが多い。 公平の原則によって、韓国にだけ便宜をはかれば「誰かはしてあげて、誰かはしてあげない」と混乱が発生することもあり、容易くしてやれない政策的困難があるのだと分かった。」

 在韓華僑はもともと中華民国(台湾)国籍なのですが、だんだん韓国に帰化する人が多くなっているようです。 台湾は世界的に承認している国家が少ないので、在韓華僑たちが海外に出る時にビザの取得でかなり苦労しているようです。 (続く)

 

【京城に関する拙稿】

第79題 全外教の歴史誤解と怠慢―「京城」について― http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainanajuukyuudai

第62題「京城」は差別語ではない   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dairokujuunidai

第24題 「差別語」考     http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuuyondai

京城と名前               http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/10/13/1851214

朝日の歴史無知             http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/10/20/1861618

韓国で今も使われる「京城」―朝日の間違い http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/10/03/6591244

趙甲済、48年前の投稿―「京城」は誤り  https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/17/8805084

韓国在住華僑の現在(2)2024/12/30

https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/25/9741920 の続きです。

―いっそ帰化を選べばいいのではないですか。

「帰化の敷居は余りにも高い。 うちの次男と嫁も帰化の試験に二回も落ちた。 例えば、帰化試験に1947年にボストンマラソンで優勝した韓国人(徐潤福)が誰かという問題。 我々は孫基禎選手(1936年ベルリンオリンピック マラソン優勝者)を知っていても、正直言って他の選手はよく知らないのではないか。 ほとんどの韓国人も答えられないのだ。 韓国に暮らす在韓華僑たちは、韓国に最も愛情を感じている親韓派だ。 在韓外国人の中で、犯罪率も一番低いと知られている。 私も母が韓国人で、在韓華僑たちは、妻や嫁が韓国人である場合も多い。 活動する時も韓国語をたくさん使う。 こんな人たちには帰化に加算点とは言わなくても、試験なんかもちょっと易しくしてくれればいい。」

 ここは日本の帰化試験とは違いますね。 日本では社会で意思疎通ができるかどうかの日本語テストで、小学3年程度の日本語能力を試験します。 日本の高校や大学を卒業していれば、免除されることがあります。

 一方、韓国では韓国人としての常識があるかどうかのテストになりますが、ここにあるように韓国人でも普通知らないような事柄が試験に出ます。 韓国の新聞にはこんな帰化試験問題を紹介して、「これが韓国人の資格なのか?」と揶揄する記事がありましたね。 https://www.kmib.co.kr/article/view.asp?arcid=0016487244 

―現在、漢城華僑協会の会員数はどれくらいですか。

「全国的には1万9千人、ソウルには約9千人前後だった。 だんだん減っていく趨勢であるが、最近は6千人まで落ちた。 過去に朴正熙政府の時に推進した政策が原因で、多くの在韓華僑たちが海外に移住したのが、第一次人口流失だった。 華僑三~四世代たちになって、台湾国籍を敢えて不便でも持っていなければならない理由がなくなってきている。 実は我々の世代ぐらいでは「私は中国人」という概念を持っているのだが、華僑三~四世代たちはそんな概念が弱くなっている。 年取った方たちも、海外旅行に行くのに不便だという理由で多くが帰化を選んでいる。 うちの妻の親戚たちは八親等もみんな帰化した。 過去には韓国に国籍を変えれば、後ろ指をさされる雰囲気もあったが、このごろはむしろ羨ましがる雰囲気だ。」

 在韓華僑が大きく減る原因となった「朴正熙政府の時に推進した政策」は、是非知ってほしいものです。 朴正煕大統領は1961~1979年の18年間、韓国を統治しました。 その時に華僑を抑圧する政策を施行したのです。 具体的にいうと、土地所有・営業店舗・株式保有の制限、農地所有・貿易商・定期刊行物発行・金融機関設立の禁止などです。 すなわち会社経営や不動産取得を厳しく制限して、例えば中華料理店は個人経営の小店舗だけに限るようにしたのです。 また華僑たちが集まって組織化されることも阻止しました。 このために華僑たちの多くが国外に脱出し、日本や台湾、アメリカなどに移住しました。 仁川にあった中華街はこの時に廃れたそうです。 在韓華僑は1970年に3万2千人、1980年に2万7千人、1990年に1万9千人と減りました。

 この時期の日本では在日韓国・朝鮮人への民族差別に反対する運動が盛んでしたが、“本国の華僑差別は問題にしないのか“という批判がありましたねえ。 当時の運動団体の主張では“自分たちは日本の政府や社会を相手とするものだ”ということで、本国での華僑差別には全くの無関心でした。 彼らの人権感覚は日本国内の自分たちの問題に限られていて、本国には考えが及ばなかったのです。

 「過去には韓国に国籍を変えれば、後ろ指をさされる雰囲気もあった」というのは、初めて知りました。 在韓華僑社会では帰化を否定していたのですねえ。 これは在日韓国人が帰化を民族の裏切りと指弾して否定していたことを想起させるものです。 どちらも過去の話でしょうが、共通点があることに驚きました。

―ソウル延禧洞にある漢城華僑中学・高校の全面的な再整備に着手しましたが、子女の教育問題はどうですか。

「在韓華僑たちも、韓国と同じ学齢人口の減少問題を同じように抱えている。 外国人学校という特性と韓国の教育関連法令の制限、台湾政府の支援を全く受けられない自立型教育団体であるところから、色んな難しさがある 。 今度、日本の「甲子園」で優勝した韓国系の京都国際高校のように、韓国の教育制度に編入されて、多文化教育に特化したポジショニングを通して、韓国社会の融合にプラスになるように、制度改善も推進する考えだ。」

 ここで日本の京都国際高校が出てきたのにはビックリ。

―台湾国籍の「旧華僑」と、中国国籍の「新華僑」の関係をどのように定めるお考えですか。

「同文同種という言葉がある。 在韓華僑たちの国籍は、台湾(中華民国)であるが、本籍は中国の山東省だ。 また我々を養育し、生活を営む所は大韓民国だ。 徐々に融和をしていかねばならないのではないか。 実際に、個人的に親しい関係はいいのだが、政府的な次元で入っていくと問題となる。 分かりやすく言えば、在日韓国人のうち民団(韓国系)と朝鮮総連(北朝鮮系)関係を思い浮かべればいい。 ある程度時間が必要ではないか。」

 「旧華僑」とありますが、昔は「老華僑」と呼んでいました。 この記事にある「華僑協会」の会員とほぼ重なりますね。 そして1992年の韓中国交正常化に伴い、多くの中国人が韓国に渡ってきました。 これが「新華僑」です。 大半が中国吉林省等出身の朝鮮族です。

 「旧華僑」と「新華僑」は、前者が「台湾」国籍の漢民族、後者が「中国」国籍の朝鮮民族と違っています。 「徐々に融和をしていかねばならない」とあるように、今のところ両者は仲があまり良くないようです。 記事ではこの関係を在日の「民団」と「朝鮮総連」になぞらえて説明するところにもビックリというか新鮮ですね。

 ちなみに韓国の新華僑=中国朝鮮族はコロナ禍前の2019年に54万人だそうで、旧華僑を圧倒しています。  韓国のニュースでは、韓国人の新華僑に対する差別が時おり報じられますね。      (終わり)

 

【拙稿参照】

韓国在住華僑の現在(1)   https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/25/9741920

『華僑のいない国』―「週刊朝鮮」の書評 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/10/31/9629925

在日韓国人と華僑―成美子    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/09/25/8964788

韓国における外国人差別   http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daigojuugodainoichi

合理的な外国人差別は正当である http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daiyonjuukyuudai