「白丁」について2018/05/03

 35年以上も前ですが、金石範さんが「差別、雑感」(『季刊 三千里』№25 1981年2月)という小文のなかで、白丁に関して次のように書いておられます。

朝鮮での「被差別部落民」を意味する「白丁(ペックチョン)」ということばの用法について、一言いっておきたい。   在日朝鮮人組織の朝鮮語の機関紙『朝鮮新報』などで、いまでも朴正熙や全斗煥らをさしていう場合、「人間白丁」などと大きな見出しで堂々とでてくる。

白丁は高麗時代に隋から入ってきた言葉で「百姓(ペックソン)」―人民を指していたようだが、しかし長い歴史の過程で「百姓」のどの階層を指し、そしてどのような賤称の響きを持つに至っているか、年輩の朝鮮人なら知っているだろう。

それは「エタ」「ヒニン」と同じような響きを持って人の胸を突き刺す。 白丁は死語ではない。 その人たちの存在とともに、言葉は生きている。 私は先に「チョーセン!」が朝鮮人以外に蔑称として向けられている事実について触れたが、「白丁」を人殺しや人でなしなどの代名詞として、印刷物などで公公然と使用するのはやめるべきだと思う。 

たとえば「人間白丁全斗煥」となった場合、「白丁」という言葉が放つその否定的な毒はどちらに強く突き刺さるか。 それは全斗煥よりも「白丁」に属する者たちに強く向かっていく。「白丁」に属する者が、その形容をどのような思いで聞くか。 「白丁」がそのような形容詞として使われることがないように切に望みたい。 自ら被抑圧解放の立場においている者の場合はなおさらだろう。 (217頁)

 「白丁」という言葉は、それから35年も経った今でも韓国で使われています。 テレビドラマや映画にこの言葉が出てきます。 しかし韓国では問題にはなりません。 日本で「穢多」といえば大問題になりますが、ここが韓国との違いですね。

 これについて、韓国では差別が日常化しているので問題とは気付いていないからとか、そうではなく韓国は差別というものがなくなったから逆に差別語が自由に使われているのだとか、あるいは朝鮮戦争で国土が焦土化して白丁差別は消滅して単なる比喩的表現として残っているだけだとか、いろんな説明があるようです。 本格的には議論されていないようですね。

 北朝鮮でも「백정(白丁)」は、かつては韓国大統領を罵倒する言葉としてしょっちゅう使われていました。 日本でも朝鮮総連の機関紙である『朝鮮新報』にあったことは、私も記憶しています。 「백정(白丁)」は彼らにとっては最上級の侮蔑語ですが、使ってはいけないタブー語ではありませんでした。 近頃はどうなんでしょうか。 

【拙稿参照】

韓国ドラマに出てくる「白丁」   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2008/05/31/3552264

韓国映画に出てくる「白丁」    http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/04/13/8070271

韓国の有力紙に出てくる「白丁」  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/06/30/8121172

「韓国は差別がゆるい」?     http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2006/04/28/344906

水平社と衡平社          http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2007/03/19/1326206

「白丁」考           http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/dainijuunanadai

金正恩は「改心」したのでは?2018/05/07

 北朝鮮は昨年の1月から9月までに弾道ミサイル20発を発射し、金正恩委員長はアメリカに対して「我々のプレゼントが気に入らないようだが、これから大なり小なりのプレゼントを何度も送ってやろう」とか「アメリカ本土と太平洋作戦地帯が我々の打撃圏内に入った」とか、トランプ米国大統領を「アメリカの老いぼれ狂人を必ず火で罰する」などと好戦的な発言を繰り返しました。

 ところが先月27日の南北首脳会談で、この金委員長が「完全な非核化の実現」を宣言し「これからしょっちゅう会ってアメリカと信頼を積んで終戦と不可侵を約束するならば、なぜ我々が核を持つことがあろうか」と発言するなど、これまでとは大きく違う、殊勝な態度を示しました。

 これについて、彼が「改心」したからという説と、「改心」なんかしていないという説に別れるようです。 前者を唱えているのは、首脳会談当事者である文在寅大統領および彼を80%支持した韓国国民です。 一方後者は、韓国では少数派に転落した保守系です。 日本では懐疑的な論調が多く、後者の立場ですね。

 4月の首脳会談であれ程の大きな花火を上げて、全世界から注目を浴びたのですから、核とミサイルを再開するということは、かなり難しいと考えられます。 ですからここは「改心」したと考えた方がいいのかも知れません。

 金委員長が「改心」したとしたら、昨年の秋頃になります。 この時期に彼に何があったのか? それがさっぱり分かりません。 つまり「改心」したとしても、そのきっかけや理由がなかなか見当たりません。 

 憶測は色々あるようです。 ある人は昨年の秋ごろから中国が本格的な制裁に乗り出したからだと言います。 またある人は、これまでの制裁で金一家の贅沢な生活資金が足りなくなったことに昨年秋に気が付いたからだと言います。 あるいはまたその頃に公表された斬首作戦に怯えたからだと言う人もいました。

 確かなことは、独裁国家ですから金委員長が決断したことです。 とすると一人で考えて決断したのかどうか。 その間外国の要人と会談していませんから、そこから説得されたことはあり得ないでしょう。 すると妹の金与正か妻の李雪主あたりが進言したのか、ということになります。

 しかし一方的に譲歩することはあり得ませんから、非核化の対価は何か?です。 それは在韓米軍の縮小あるいは撤退でしょう。 これが目的で「改心」を決意したのなら、それは北朝鮮の従来路線の延長です。 

 北朝鮮は南朝鮮解放路線=赤化統一という明確な方針を有しています。 それは三段階に分かれ、第一段階が「自主的」。 つまり統一は外勢(アメリカ)を排して民族同士で成し遂げるということです。 

 第二段階が「民主的」。 韓国に北朝鮮に迎合する民主政権を樹立することです。 

 第三段階が「平和的」。 南に成立した民主政権と戦争ではなく平和的に統一することです。

 今は第一段階の「自主的」が成就しようとしています。 これまでのように力づくでアメリカを排するのではなく、話し合ってアメリカに撤収をさせるのです。 つまり今回の金委員長の「改心」は「力ずく」ではなく、「話し合い」によって第一段階を推し進めるやり方に変えたものと評価できると思います。

 そして米朝会談で在韓米軍を撤収させて第一段階を終わらせ、次に第二段階の「民主化」へと進みます。 今の文政権は十分に民主政権ではないかと言われるかもしれませんが、そうではなく少数派となっている保守・右派勢力を、再起できないほどに縮小・壊滅させることです。 これは北朝鮮の仕事ではなく、北朝鮮の意を忖度した文政権の仕事になります。 北朝鮮が手を煩わせることはないでしょう。

 さらに第三段階の「平和的」統一に至ります。 めでたし、めでたしです。 こうなると韓国国民は、最高尊厳の金正恩将軍様を絶対に冒涜することなく、また金日成元帥様が対日戦争と祖国解放戦争に勝利した革命の歴史を学ぶことになるでしょう。

 段々と私の勝手な憶測小説になってきますねえ。 それでも従来路線を維持しながら力ずくから話し合いへの「改心」は、言い当てていると思っているのですが。

 なおまた難癖をつけて、元の「力ずく」へ再度「改心」する可能性はあります。

【拙稿参照】

自主的、民主的、平和的統一       http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/04/22/6421457

南朝鮮解放路線はまだ第一段階      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2013/03/30/6762019

北朝鮮を甘く見るな!(1)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/23/7395972

北朝鮮を甘く見るな!(2)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/07/28/7400055

北朝鮮を甘く見るな!(3)        http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2014/08/02/7404064

北朝鮮を後押しする中国          http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/02/08/8011036

「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」とは違うのでは? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/08/8799658

金正恩の発言は既定の北朝鮮の路線  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/12/8801876

北朝鮮の内部情報は?      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/28/8834853

韓国・朝鮮の歴史批判に向かわない日本歴史研究者2018/05/13

 ちょっと古い論考ですが、『朝鮮史研究会論文集 №39』(2001年10月)に、深津行徳「“古代朝鮮”という空間」に、次のような一文があります。 なお一部「○○」と伏字にしています。

より重要な問題は、その「○○の歴史」を語るさいに、恣意的な史料の選択が行なわれることである。彼らの一部は、そもそも歴史事実など存在せず、それゆえ歴史とは事実を解明することではなくて、自説をさまざまな材料から説明することであるとする。したがって、かれらの叙述のなかに見える明確な事実誤認を指摘することは、彼らの主張をただすための本質的で有効な手段とはなり得ない。彼らはそれを容易に受け入れ、あるいは別の「事実」を自らの叙述のために用意するであろう。(20頁)

 この一文は右派の「新しい歴史教科書をつくる会」に対する批判です。 従って「○○」は「日本」なのですが、これを「韓国」あるいは「北朝鮮」と入れ替えて読み直して下さい。 すると韓国や北朝鮮の歴史学に対する批判として、今でも十分に通用するものです。

 論者の深津さんは日本の右寄りの歴史の登場に危機感を抱いたようですが、私はこれを韓国・北朝鮮への批判と読み替えて、成程その通りだと思わず膝を打った次第です。

 日本の革新・左派系歴史研究者は、右寄りの歴史に対する批判の方法・観点でもって韓国や北朝鮮の歴史に対しても同じように批判したらいいのにと思うのですが、そういうことは昔も今もないですねえ。 

 歴史に限らず日本の革新・左派の諸君は日本を厳しく批判するのですが、その論理を使って韓国や北朝鮮を批判することはしないです。 批判の論理が日本だけに適用されて、韓国や北朝鮮に対してはその批判の論理が喪失するようです。 これが革新・左派の特徴と言えるのでしょうかねえ。

【関連拙稿】

 「南」に厳、「北」に寛だった日本のマスコミ http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/24/8832065

神のように祭り上げられた金芝河2018/05/19

 1970年代、ファッショ的軍事独裁と言われた朴正熙政権のもとで、鋭い政権批判の詩を書いて民主化運動を果敢に闘い、ついには逮捕され、死刑判決まで下った詩人・金芝河。 日本では彼の救援・救出活動が盛んでした。 彼は韓国の民主化運動の象徴的存在として、大いに祭り上げられていました。

 韓国に関心を持つ者は、彼の『五賊』や『良心宣言』などの作品を貪るように読み、時の朴政権への批判を強めたものでした。 そのために金芝河は、まるで神のように祭り上げられる存在となっていました。 当時彼がどのように称賛・賛美されていたか、その頃に発刊されていた『季刊 三千里』から紹介します。

金芝河のしぶとい、不抜の精神と魂はいったいどこからきているのだろう。考えてみるに、それはおそらく金芝河自身が民衆の力を信じているからに相違ない。  ‥‥  誰かのためにたたかっているのではなく、金芝河は自分が真に生きるためにたたかっているのである。従ってその文学はつよく自己解放をふくんだ文学であり、自由への欲求の劇(はげ)しい文学であることは言うまでもない。 (『季刊 三千里』創刊号 南坊義道「金芝河の抵抗―ファシズム下の文学精神」 1975年2月 32・33頁)

(金芝河のような)詩人としてこれだけの作品を書いて、その敵と云いましょうか、その対象をこれだけ震撼させることができたら、以て瞑すべきではないか、とね。その後も続々と、さらにそれに劣らないショッキングな詩が出てきたわけですが、まだ若い人ですけれども、こういう詩人はやはり激動、乱世が生み出すものかもしれませんね。 ともかく南朝鮮―韓国のそういう深刻な状況が生み出した詩人である、ということははっきりいえる。 (同上 金達寿・鶴見俊輔「特集 金芝河 対談 激動が動かすもの」1975年2月 24・25頁)

いまの時代の、民主主義の仮面をつけた狂信的独裁者の権力欲が、自由を葬り去ろうとする韓国にあって、民族的感受性が強く、民衆の心を表現する抒情詩人である金芝河の運命ほど、劇的で美しいものはない。(同上 7号 金慶植「マルトックとの出会い」1976年8月 18頁)

いうまでもなく金芝河は韓国民主化運動の旗手として、とりわけその不屈の魂のシンボルとしてある。‥‥獄中および法廷における鉄火の試練をつうじて、思想家として大きく成長したことに注目したい。いわば思想家としての金芝河の誕生である。‥‥かれは新しい思想を構築するために、たんに思索に沈潜している青白きインテリではない。われわれの眼前に聳え立つかれのまばゆいばかりの魅力は、そのような営みが底辺の民衆とともに生き、たたかい、そしてその民衆とともに救われるためのものであることである。(同上 10号 姜在彦「金芝河の思想を考える―それはどこに立っているか―」1977年5月 28・29頁)

いまや金芝河は韓国と日本をとび越え、世界的な存在として大きくクローズアップされてきている。 ‥‥ 金芝河はあくまで民族詩人である。詩人であると同時に思想家でもある。‥その意思はまた、時代とか民族とかにかかわりなく、人間に普遍的なものとしてしめされている。長い間の受難の歴史のなかで育まれてきた、民族のパトスでありロゴスであるところの民族精神が、詩人金芝河をつうじてわれわれの目の前に明示されているのだ。(同上 19号 金学鉉「光は獄中から・金芝河の思想」1979年8月 154・155頁)

 以上のように賞賛されていた金芝河が、実は1970年代前半には既に転向していたのですねえ。 

金芝河の告白 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/06/8798456

 朴正熙政権の人たちは、金芝河を賛美して救援活動をしていた人々をおそらく腹の底から笑っていたものと想像します。

 金芝河はちょっと長く生き過ぎたようで、1991年に転向を告白し、2012年の大統領選挙では保守の朴槿恵を支持しました。 ですから人間的には正直で憎めないと思うのですが、今はもう過去の人物で、評判が悪いですねえ。

 韓国民主化運動の象徴として輝いていた時期で終わっていたら英雄として祭り上げられて尊敬されただろうに、そしてその作品が教科書に載せられていただろうに、と思います。

光州事件は民主化運動として普遍化できるのか?2018/05/25

 1980年5月18日、全斗煥のクーデターと全羅道出身金大中氏の逮捕に抗議する学生デモが光州で発生し、これに韓国軍が激しい弾圧を加えたことに反発した市民が武器庫を襲撃して武装し、道庁を占拠して韓国軍と銃撃戦をした事件です。 結局は27日に軍によって鎮圧され、200人以上の死者が出るという事態でした。 私はこの事件を過酷な弾圧に対する抵抗運動と考えているのですが、韓国ではこれを「民主化運動」と位置付けることが定着しています。 

 「民主化運動」と位置付ける韓国人は、韓国に民主主義社会を建設するのに非常に大きな影響を与えたと主張します。 それまでの朴正熙政権は確かに民主主義とはとても言えるものではありませんでしたから、民主主義へ向かっての一歩となる事件だったというのは理解できます。 従って事件の真相究明に努力することも理解できます。

 しかし彼らの主張にどうしても理解できないところが一点あります。 それは北朝鮮を抜きにして民主化の普遍性を論じていることです。 光州事件の真相究明の先頭に立ちまた事件の記録を世界記憶遺産登録に努力したアン・ジョンチョルさんの次の言葉に典型的に現れます。

5・18民主化運動というのは、大韓民国の社会を民主主義としてつくり変える上で、相当に大きな影響を与えて、寄与した事件じゃないですか?‥‥ (事件を)正確に、真相も究明されなければならない‥‥(事件を)正しく位置付けられれば、この東南アジアの国家のまだ、軍部政権が統治している国々に、韓国のモデル、韓国のこのような事例がたくさん伝播して、それらの国の民主化に大きな影響を与えればいいなという思いがします。

特に最近、私が、ミャンマーを、ご存知ですよね。そのミャンマーで1988年8月8日、ミャンマー民主化運動が起きて、3000人ほどの市民や学生が死んだという話を聞いたんですよ。それでそちらの民主化運動の指導者たちが私のところに来て、ユネスコに登録する私なりのノウハウをちょっと教えてくれとこう言うので、ミャンマーのヤンゴンに2回行ってきました。それで、今年の2月末にもう一回行ってくる予定ですが。

それでこのように、この民主化運動だとか、この美しい歴史、これらの部分がアジア地域にも、ちょっと伝播したらいいなというそんな考えをたくさんしています。 (以上 『韓国語学習ジャーナル №24』 2018年3月 100~102頁)

 光州事件の体験が「民主化運動」としてアジアに広まることを展望しているのですが、そこに北朝鮮が全く出てきていません。 直ぐお隣りにあってしかも将来統一せねばならない同族である北朝鮮は、かつての朴・全政権時代とは全く質が異なり、極限まで発達した軍事独裁国家です。 またそこで繰り広げられている人権蹂躙は世界最悪といっても過言ではないでしょう。 従ってこの国こそ民主化が必要だと思うし、韓国の民主化勢力は同族として北朝鮮の民主化に真っ先に取り組まねばならない課題だと思うのですが、その気配が全く見えないのです。

 アン・ジョンチョルさんはアジア諸国に韓国の民主化運動のノウハウを伝えようとしています。 しかしなぜ北朝鮮の人民にそのノウハウを伝授しようとしないのか。 民主化されない北朝鮮と統一を展望できるのだろうか。 主体思想というオカルトに凝り固まった北朝鮮と民主化された韓国が共生できるのだろうか。 ここに私が彼らに対して不信感を抱く根拠があります。

光州事件の方がましだった―朝日ジャーナル(2) http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/01/20/8772995

光州事件のほうがましだった―朝日ジャーナル http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/01/15/8769881

「5・18光州事件」小考  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/25/8712337

1970~80年代の韓国民主化連帯闘争  http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/01/16/5639024

矛盾2018/05/31

 韓国人が反日と親日という矛盾した態度をとることについて、作家の関川夏央さんは『「世界」とはいやなものである』(NHK出版 2003年7月)で、次のように書いています。

(韓国の作家や文人が)非公式の席ではまことに心優しく、かつユーモアに富んだひとびとなのに、ひとたびかりそめにも公的なにおいのする席につくと、卒然攻撃的かつ演劇的な雄弁家になりかわる現象をうんざりするほど経験していたからである。 ただの人であった彼らが、にわかに民族や国家を代表するえらい人になる、それも文芸家の仕事なのだろうか、といぶかしむことさいさいだった。

知識人たる作家たちは‥‥相手が日本となれば、これは日本批判か日本との異質性の強調と相場は決まっている。 日本批判ならば国内に誰ひとり反対者はなく、日本では聞いていなくてもみな聞いたふりをしてくれるから、いかにも順当な話題である。 異質性の追究の方は、もともと両国文化は似ていると想定したうえで、部分的異質性を数えあげるという段取りが一般的である。 この傾向は日本にも根強いが韓国ではいっそう著しく、『「縮み」志向の日本』などの俗論から、最近は『万葉集の謎』といった愚論もしくはこじつけまで脈々と絶えない。 (以上、239頁)

 これに類する体験は、韓国人と実際に付き合った日本人ならば、しょっちゅうあることです。 日本人はこれを矛盾と感じるので、多くは当惑します。 だから韓国なんてコリゴリだと遠ざかる人がいれば、いつかは分かってくれるだろうとのんびり構える人もいます。 またこういった反日発言を喜んで受け入れて連帯しようとする日本人もいます。

 ただ韓国人自身がこれをどう考えているのか、あるいはどう自己分析しているのか、そこがなかなか分からないところです。 そんなことは当の韓国人に聞いたらいいじゃないかと言われるかも知れませんが、これはなかなか難しいです。 なぜならそれは相手の矛盾を指摘することになるのですが、“確かに矛盾ですね”と聞いてくれる韓国人はなかなか見当たりません。 逆に反撃されることが度々です。

 ところで日本人にはこんな人はいないと声高に言う人がいるようです。 しかしこれは間違いです。 日本人でも矛盾した主張をし、それを指摘されると逆ギレする人は結構います。 私の経験では、ちょっと昔ですが解放運動がそうでしたねえ。 

 一般人と同じように待遇しないのは差別だから同様に扱えと主張しながら、他方では自分たちは差別されているのだからと特別扱いを要求する。 しかし当人たちはこれを矛盾とは思っていませんでした。 もし「これは矛盾じゃないですか」などと口にしたら、お前は差別者だと糾弾される時代でしたから、じっと黙るしかなかったものです。 集団的・組織的な逆ギレには、個人の力では対応が難しいです。

【拙稿参照】

「同じ」と「違い」      http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuuhachidai

韓国の対日感情は理解が難しい   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/03/29/8813934

韓国人の対日感情         http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/01/12/8317218

韓国人のアンビバレントな感情   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/01/8690297

韓国の反日感情はいつ形成された? http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2017/10/08/8698008

反日意識はどのように継承されたか―植民地時代 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/04/03/8817737

世界で唯一日本を見下す韓国人   http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/10/06/8216253

日本を見下す韓国(2)      http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2016/12/22/8285733